人の数だけ正義ってあるものです。
だから誰かにとっての正義は、ほかの誰かにとっても正義とは限らない。
正義だと思い込んでいたものが、それは害悪でしかなかったなんてことも。
今回読んだのは、下村敦史さんの『逆転正義』です!
いずれも誰かにとって正義と呼べる感情や行動を描いていて、それがどこかで逆転してしまう短編集です。
これがまた、人の心理をうまく描いた作品ばかりで読みごたえばっちりです。
ここでは、『逆転正義』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『逆転正義』のあらすじ
〇見て見ぬふり
〇保護
〇完黙
〇ストーカー
〇罪の相続
〇死は朝、羽ばたく
どこかで正義が逆転する6つの短編集。
教室で起きるいじめを気にしつつも直接関わることができないクラスメイト。
それでも彼は担任に相談した。
そのことで新たな事態が起きていく。
雨の日にコンビニの前でずぶぬれになって制服姿で立ちすくんだ女性がいた。
その女性を放っておけなくて家に保護する男性。
麻薬の売人として逮捕されるも、麻薬取締官に対して完全黙秘を貫いた男の目的とは?
誰もが自分の胸の中に正義を持っている。
それが誰かにとっては正しくはなくとも。
見方一つで、何かのきっかけで、それは逆転していく。
「死は、朝羽ばたく」がお気に入り
6つの短編、どれもおもしろかったけど、一番お気に入りなのは、最後にある「死は、朝羽ばたく」です。
これはある日、刑務所の門から出てきた男性が、刑務所に向かって一礼するところから始まります。
するとどこからか少年3人が現れて言います。
「前科者だとばらされたくなかったら金を出せ」
と。
彼らはそうした恐喝の常習犯で、払わなかったらつきまとって、新たな出発を邪魔するわけです。
後ろめたい気持ちもある前科者は、お金を払って終わりにしようとし、それに味をしめた少年たちはまた次の前科者を待つ。
かつて犯罪を行った前科者はまっとうに生きてはいけないのか。
収容されて罪を償ってもまだ、償い続けなければいけないのか。
これってすごく難しいんですよね。
罪は一生消えるものではないってのもわかりますし、かといって、新たな人生を歩もうと、まっとうな生き方をしようとしているのであれば、それは正しいとも思えます。
少なくとも、ここに出てくる少年たちのような無関係の人間が、前科者であるという弱みにつけ込んでいいものではないのは間違いないですが。
私自身は仕事上、犯罪の加害者をたくさん見ていますし、その中にはどうしようもないと思う人間もいます。
それでも、なんとか更生しようと思い悩んでいる人もいるからなんとも難しい。
自分が被害者だったらなにを思うのかなって。
しんどい内容もけっこうあり。
『逆転正義』ってタイトルをぱっと聞いた印象だと、
「なんだかんだ最後は正義が勝つ的な明るい終わり方するのかなー」
なんてのんきに思って読んでいたんですが、いや、これ割としんどいのもあります。
最初の「見て見ぬふり」もそうだし、「ストーカー」や「罪の相続」も、最後のあたりは前向きになりつつも、その過程がけっこうきつい。
「ストーカー」の描写はうまいのですが、個人的にはちょっと苦手で。
ただ、内容はもちろんおもしろいです。
自分が思い描いていた話の中身ががらっと覆される感じがして。
人の勘違いとか、先入観とかあると思うし、人ってやっぱり自分が見たい部分しか見ないってところがあるものです。
自分に置き換えてみたときにそうしたところがないかなって考えさせられます。
誰かのためにと思った行動も、それ自体が実は間違っていたのだってわかることもある。
おわりに
最近、逆転ってつく小説が増えているな―という印象です。
でも、これは今年読んだ中でもなかなかのどんでん返しでよかったです。
タイトルに負けていないなって。
正義って言葉がとても強くて、個人的にはあまり好きな言葉ではないのですが、誰にでもどこかに自分なりの正義ってありますよね。
それが浮き彫りになってくるところもあって考えさせられます。