クイズって、知識があるほうが勝つものだと思っていました。
でも、この小説を読むとぜんぜん違うんだなってことがわかっておもしろい!
今回読んだのは、小川哲さんの『君のクイズ』です!
2023年の本屋大賞候補にノミネートされた人気作です。
とあるクイズの決勝戦の最後の問題。
問題文が読まれる前に回答をして優勝者が決まった。これは果たしてやらせだったのかそれとも……。
クイズの回答の真相を巡る話で、クイズの裏側が知れてとても興味深い作品です。
ここでは、『君のクイズ』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『君のクイズ』のあらすじ
早押しクイズの大会「Q-1グランプリ」決勝戦に進出した三島玲央。
対戦相手は、圧倒的な記憶力と知識力を誇る本庄絆。
同点で迎えた最後の1問。
これを正解した方が優勝……という場面で、本庄絆は問題文を聞く前に回答をする。
しかもそれは見事正解であった。
ヤラセ疑惑が浮かぶ中、番組は終了する。
三島はなぜ本庄が0秒で正解することができたのかを思考する。
そのために、三島は、過去の本庄の情報や映像を集めては分析していく。
そして、決勝戦のVTRを観ながら一問一問を振り返っていった。
すると、そこにはある事実が浮かび上がっていく。
0秒回答という発想がすごい!
まず、0秒回答をするなんていう発想がすごいなって思いました。
クイズ番組を見ていると、問題文が読まれてすぐに回答する姿に驚きと称賛の気持ちが湧きおごるものです。
でも、それってある程度文章が読まれていたり、映像が出ているから答えられるのであって、何も無いところからいきなり答えって生まれてこないんですよね。
本庄は、「問題」と言われた段階で回答するわけですが、実際の問題文はこんなものでした。
Q.『ビューティフル、ビューティフル、ビューティフルライフ』の歌でお馴染み、天気予報番組『ぷちウェザー』の提供やユニークなローカルCMでも知られる、山形県を中心に四県に店舗を構えるクリーニングチェーンは何でしょう?』
A.『ママ、クリーニング小野寺よ』
(小川哲『君のクイズ』より)
いや、こんな問題わかるわけないじゃんって感じです。
たとえば、このクリーニング屋さんを知っていて、最初の一行分くらい読まれたのであれば、
「ああ、そんな歌があったなー」
と思って答えられるかもしれませんが、これの一文字も読まれていない状態でどうやって答えられるというのか。
『タイプライターズ』という番組で、著者の小川哲さんが、『君のクイズ』を作るときに、最初に0文字回答というものが浮かんだけど、その具体的な方法は考えていなかったみたいなことを話していました。
まず、そこから生み出して、それを形にしていくところがまた小川哲さんのすごさなんだなと感じます。
クイズの見え方が変わる1冊。
冒頭でも書いたのですが、クイズって、ただ知識があれば勝てるわけじゃないそうです。
問題文が全部わかってパネルに回答していくタイプなら知識がものを言いますが、早押しクイズはまるっきり別物。
早押しクイズは、悠長に全部問題文なんて読んでいられません。
分かった時点ですぐにボタンを押して回答する。
でも、どこまで聞けば答えがわかるのか。
その場所を「確定ポイント」っていうらしいです。
そこをいかに見極めるかがクイズに勝つ秘訣みたい。
それだけではなく、クイズの答えって、クイズ独特のセオリーがあるとのこと。
こういう問題が来たら基本的には答えはこれですよーみたいなものがあるんですね。
たとえば、「日本一高い山は富士山ですが……」ときたときに、「日本で五番目に高い山はなんでしょう?」なんて問題は出ません。
「世界で一番高い山」とか、「日本で一番低い山」とか、ある程度、回答可能な範囲でくるんです。
だからクイズ経験者はある程度答えを絞り込むことができ、そうした経験を積んでいないとぱっと答えを素早く出せない。
小説の中でも、こうしたセオリーを知らなかった時代の本庄絆はまったくクイズで勝てなかったっていう描写もありましたね。
おわりに
『君のクイズ』の最大の謎は、なぜ本庄絆が0文字回答をできたのか、ですね。
そこについては読んでからのお楽しみですが、どうすれば0文字で回答ができるのかと考えながら読み進めていくのもおもしろいです。
三島玲央はクイズをしていたけれど、本庄絆はクイズではなく別のものを見ていた。
たぶんこの二人はこの先もずっと相いれないのだろうなって思いながら本を閉じさせてもらいました。
小川哲さんって、ほかの作品もかなり綿密に調べ込んでから描いているのでどれも読みごたえがあっていいなって思います。