目の前の動物や飼っているペットが言葉を理解できたらと思ったことはありませんか。
動物が高い知能を有して人間の言葉がわかる。
これは昔から多くの人が望んできたことなのかなって思います。
今回読んだのは、須藤古都離さんの『ゴリラ裁判の日』です!
第64回メフィスト賞を受賞したデビュー作になります。
ゴリラに限らず、動物が人間と同じだけの知能を有して、意志疎通ができるとしたらどうなるのか。
それはただの動物と言えるのか。
ここでは『ゴリラ裁判の日』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『ゴリラ裁判の日』のあらすじ
カメルーンのジャングルで生まれたゴリラのローズ。
そのジャングルにはゴリラの研究室が存在した。
ローズの母親は、ゴリラでありながら簡単な手話を覚えることができており、ローズもまた研究所員や母親から手話を習って育った。
生まれながらにして高い知能を有していたローズは、人の言葉をしっかりと理解し、手話を使って意思疎通を取ることが可能となる。
そんなローズに、アメリカに行かないかというオファーが来る。
アメリカに憧れていたローズは承諾し、アメリカの動物園で暮らし始めたローズは一躍人気者となった。
そしてローズは、そこで出会ったゴリラのオマリと夫婦となる。
しかしオマリは、動物園の柵から落ちてゴリラパークに入ってしまった人間の子どもが原因で射殺されてしまった。
夫を射殺した動物園側を相手取り、ローズは裁判を起こす。
動物と意思疎通ができることの難しさ
動物と意思疎通ができる。
これってぱっと聞いたときは、
「そうだといいなー」
って単純に思うのですが、でもよくよく考えるとこれって難しいこと。
言葉をしゃべり、意志を持つ。
目の前の動物が本能だけでなく考えて行動できる。
そう思ったときに、これまでと同じように接することって出来ない気がします。
たとえば、自分の飼っている犬が突然喋り出し、人間と同じように話し出したら、それはもうペットではないような気がします。
もう別の存在として扱うことになりますよね。
単純にかわいいからとか、癒しだからなんて言ってられない気がして。
それはそれで、大好きな存在ならそのまま一生涯、一緒にいられて、相手の気持ちもわかるようになっていいこと尽くしですが、そう思えない人もかなり出てきそう。
正直、動物は動物であって、同じような意識はないほうがいい気がしちゃいました。
人間に翻弄されるローズ
『ゴリラ裁判の日』では、研究所の人間と会話をする中でローズはアメリカに憧れを抱いていきます。
そこにアメリカに来ないかという誘いがあって、喜んでアメリカに行くことになります。
ローズは望んでアメリカに行く。
でも、その裏にはいろんな人間の思惑が渦巻いているわけです。
たとえば、ローズは手話を使って意思疎通を図れますが、ローズが使った手話を音声として発することができるグローブが開発されます。
これはもともと手話で会話する人用に研究されていたものでしたが、ローズが使えば話題になる、広告となる、とローズ用のものが開発されます。
アメリカに行く話も、アメリカの上院議員の一人が進めていきます。
彼はローズに優しく話しかけ、人気者になれると太鼓判を押します。
その一方で、カメルーンからアメリカに貸し出す形で、期間を設定したり、ローズの子どもはどちらの国が引き取るのかといった契約が行われました。
その話を聞いてしまったローズは、自分のことなのに、自分が物のように扱われているように感じ悲しい気持ちにもなります。
更に、ローズのことは上院議員が次に出る選挙の直前まで秘密にされ、ローズの渡米もその時期に合わせたものに。
良くも悪くも話題性を持つローズだから、人間が自分たちの都合の良いように使おうとするシーンが随所に出てきます。
ゴリラでもなく、人間でもなく
ローズはゴリラでありながら人間に近い考えを持つようになっていきます。
それは言葉を持ってしまったから。
でも、ローズはゴリラです。
ゴリラとしての本能ももちろんあるし、見た目も、人間からの認識もゴリラです。
でも、一方で人間の考えを知ってしまったローズは、ゴリラの考えに順応できないところも出てきます。
たとえば、一夫多妻制のゴリラ社会ですが、好きになったゴリラが別の雌ゴリラと仲良くしているのに嫉妬し許せなくなってしまうシーンがあります。
言葉を知らなければ、嫉妬もしなければ、その状況を当然のものとして受け入れられていたのかもしれない。
人間社会に憧れを持ち、都会に出てみるものの、人間にもなれない。
変わったゴリラとして、注目は集めるけど、人間と同じようには接してもらえない。
じゃあローズっていったいなんなんだろう。
一つの個として認められることはできるのかと読みながら考えさせられました。
おわりに
『ゴリラ裁判の日』って、前半はゴリラの生活を描いているからおもしろさもそこそこなんですが、中盤当たりから次が気になってしかたなくなります。
後半はまさに一気読み。
最後の最後まであっという間に読んでしまいました。
テーマ性もあり、言葉の選び方もよく、とてもよい小説です。
動物との意思疎通という点では、天才ヨウムと女性研究者を描いた『アレックスと私』なんかもおもしろいです。
こちらは実話をもとにした話なので、よりリアルに感じるものがあるのかなって。
ぜひこちらも合わせて読んでみてください。