その他

コロナ渦の少女を描く!金原ひとみ『腹を空かせた勇者ども』

タイトルを見て、

「なんとなくこんな話かなー」

って想像して読み始める事ってけっこうあります。

でも、これはさっぱりイメージがわかず、でもおもしろかった!

今回読んだのは、金原ひとみさんの『腹を空かせた勇者ども』です!

コロナ渦を生きる少女の中学生から高校生に至るまでの青春を描いた一冊です。

みんなそれぞれに悩みや問題を抱えながらも、それと向き合い、ぶつかり合って十代を生きていきます。

ここでは、『腹を空かせた勇者ども』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『腹を空かせた勇者ども』のあらすじ

いわゆる陽キャ中学生のレナレナ。

友人からは、「学校で一番不登校から遠い奴」なんて言われている。

毎日の学校が楽しくて仕方ないのに、コロナなんてものがやってきた。

それでも練習を頑張っていよいよやってきたバスケの大会。

ところが、母親からコロナ陽性者の濃厚接触者となったのだという。

レナレナは自宅待機。

当然、必死に目標にして頑張ってきた大会にも参加することはできない。

それも、コロナ陽性者は、母親の不倫相手だった。

母親は週に数日は、彼氏のところに泊まりにいっている。

父親もそれを容認していて、レナレナには二人の行動が理解できない。

中国人留学生のイーイー。

コロナ渦で自宅の定食屋がつぶれそうな幼馴染。

家庭の事情で転校を余儀なくされた友人。

他人を理解することの難しさを感じながら、レナレナは少しずつ成長していく。

著者の金原ひとみさん

金原ひとみさんって名前を聞いたことあるなーって人はたくさんいると思います。

読書家の方なら、まあ当然知っているような人ですね。

金原ひとみ1983年生まれの女性作家です。

集英社が主催する、すばる文学賞を受賞して2003年に『蛇にピアス』でデビューを飾ります。

この『蛇にピアス』は、第130回『芥川龍之介賞』を受賞しています。

綿矢りささんの『蹴りたい背中』とのダブル受賞で話題になっていましたね。

『蛇にピアス』は正直、ちょっと苦手な作品でしたが。

『蛇にピアス』以外にも、『アタラクシア』で第5回『渡辺淳一文学賞』を受賞。

『アンソーシャル ディスタンス』で第57回『谷崎潤一郎賞』を受賞と、賞を取った作品もたくさんあります。

すばる文学賞や芥川賞を受賞していることからもわかるように、どちらかというと純文学寄りの傾向にあります。

それでも、『腹を空かせた勇者ども』は比較的読みやすい小説だったなと思います。

他人を理解することの難しさ

主人公のレナレナには、家族も友人もいるのに、心の底から分かり合うことが難しいと感じざるを得ないことがたくさん起きてきます。

最も大きいのは母親との考え方の違い。

レナレナは、思った通りに行動するし、感じたことを感じたままに受け止める性格。

でも母親はなにかあれば疑ってかかり、他人との理解なんてできるはずがないと思っている。

まあそもそも、堂々と不倫をしている母親のことを中学二年生の女の子が理解できるはずがないのですが、それ以上に母親とは性格が真逆と言っていいほど。

おまけに父親も母親の不倫を受けいれて、

「そういう人だから」

で、何事もなかったかのように過ごす。

三人での食卓では、不倫旅行で行った先でのことが話題に上ることも。

また、レナレナが学校でのことや感動したことをそのまま話すと、二人は、

「それはこんな思惑があったのだ」

などと素直に受け止めようとしてくれない。

どうして親切だと思ったことを、正義感に感動したことを、疑わなきゃいけないんだろう。

どうして親切にしたい時、正義感に突き動かされる時に、深読みされるかもって心配しなきゃいけないんだろう。

(金原ひとみ『腹を空かせた勇者ども』より)

このレナレナの言葉のとおり、そもそも感じるものが違うんだなって。

そのあともいろんなことがあるんですけど、やっぱり他人のことを理解することは難しい。

コロナ渦ということで、それに伴うエピソードがたくさん出てきますが、同じようにコロナ渦を経験したはずなのにそれに対する感情は人それぞれ。

私の家は、二年連続で冬場にコロナに罹患しましたが、だからこそ今でもすごく気になるし、全然気にせず生活をしている人は信じられない。

でも、一方で、同じ職場にいても、まったくふだんと変わらずに生きている人もいる。

見えている世界が違うっていうのか。

どっちが正しくてどっちが間違っているものってわけではないんですが、ここを合致させようとするのは不可能。

擦り合わせるくらいはできるかもしれないけど、多くの人はそういうものだって思って生きているのかな。

できる人、できない人

相手への理解という点では、何気ない応援のような説諭のような言葉が相手を傷つけることもある。

誰にだって得意なことがあれば苦手なこともある。

同じことをしていても、簡単にできちゃう人と、どんなに頑張ってもできない人もいる。

レナレナの友人の一人が、成績不振から転校しなくてはいけなくなります。

その友人に対して、みんな、頑張って勉強しようっていうんですね。

環境があればできる、やる気になればできるって、そんなわけないじゃん。全部あってもできないやつはできないんだよ。勉強して報われた経験のある人には、やってもやっても報われたことのない人の気持ちなんか分からないよ。やる気がないんじゃないよ。やる気があったのに、何にも報われない。やる気がないだけ、やる気を出せばって周りからは言われ続けて、もう内側からも外側からも折られ続けて私のやる気は死んじゃったんだよ。

(金原ひとみ『腹を空かせた勇者ども』より)

これね、自分も人に対して言ってしまいがちなことだなって猛省してしまいます。

つい、それくらいできるでしょ!って気持ちでできない人を見ることはある。

自分だって運動とかなら全然できないんですけどね。

仕事でできない人を見るとつい。

でも、この言葉を見て、そうだよなー、実際これがリアルだよなって思いました。

更に続けてこんなことも言います。

で、なら別のことやろうって、もう別の分野で頑張ろうって思い始めたんだよ。それを逃げとか怠慢とか言われる方の身にもなってみろよ

(金原ひとみ『腹を空かせた勇者ども』より)

自分の輝ける場所ってどこかはわからないけど、そこに進もうとするって、かなりの勇気が必要。

悩ましいですよね。

もし、自分の子どもが勉強苦手で、同じような状況になっていたら、それを素直に応援できるだろうか。

やっぱり、学歴は必要だって言ってしまうかもしれない。

それでも、最後には応援できるのかな。

相手の気持ちに寄り添うって本当に難しい。

好きだったフレーズ

さて、最後に好きだったフレーズってことで3つだけさらっと紹介。

『腹を空かせた勇者ども』っていいセリフが多すぎるんですよね。

大変な時はみんなあるよ。そういう時、周りの人が支えるのも大事。でも最後は自分の心が戦わないと。勝たなくても、戦う、だよ。

(金原ひとみ『腹を空かせた勇者ども』より)

中国人留学生のイーイーがレナレナに話すところ。

イーイーも表には出さないけど、中国人ってことで差別にはたくさんあってきたと。

勝たなくても、戦うってうまい表現ですね。

続いて、レナレナの母親のセリフ。

人が与えてくれるものを当然のように享受してさらに早く飯を出せとつけ上がるなんて、いつからそんなに傲慢な人間になったんだろう。

(金原ひとみ『腹を空かせた勇者ども』より)

与えてもらえているものは当たり前じゃない。

でも、それってけっこう忘れがちなことなんですよね。

改めてそれに感謝しろってことじゃないけど、忘れてしまうのもどうかなって。

最後はレナレナから。

筋トレはした分の答えをくれる、分かりやすいギブアンドテイクがあるから好きだ。

(金原ひとみ『腹を空かせた勇者ども』より)

これがけっこう好きかも。

答えのない問題が多すぎる世界だからこそ、こうしたシンプルなのがいいですね。

おわりに

金原ひとみさんの『腹を空かせた勇者ども』の感想でした。

正直、『蛇にピアス』は苦手でしたけど、これはよかった!

どっちかっていうと、金原ひとみさんって、暗い主人公が多いイメージだったんですよね。

だからちょっと新鮮な気持ちで読むことができました。

タイトルもサブタイトルも読みたい気持ちにさせてくれて満足です。