赤ちゃんの力ってすごいなって感じるときはよくあります。
自分の子どもの育児のときも思いますし、ほかのお母さん方を見ていても。
力がない存在なはずなのに、誰かに行動を決意させるものがある。
今回読んだのは、川瀬七緒さんの『四日間家族』です!
集団自殺をするために集まった四人の男女は、ひょんなことから、捨てられた赤ちゃんを拾ってしまう。
その赤ちゃんは殺されようとしていて、四人はその子を守るために行動していくって話ですね。
ここでは、『四日間家族』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『四日間家族』のあらすじ
4人の男女が車で山へと向かっていた。
28歳の坂崎夏美、16歳の丹波陸斗、還暦を迎えた長谷部康夫、73歳の寺内千代子。
生まれも育ちも年齢も違う彼らは、ネットを通じて知り合った自殺志願者なのだった。
人気のない山の中に車を止めて、いざ練炭自殺しようとしたとき、車のライトがあたりを照らしながら近づいてくることに気づいた。
近くに停まった車からは、ガラの悪そうな女性がリュックを背負って降りてくる。
女性は、山の奥に行き、しばらくして戻って来たが、そのときにはリュックを手にしていなかった。
気になった四人が女の捨てたものを見ると、それは赤ちゃんだった。
これから死のうとしていた四人だったが、放っておくこともできずに赤ちゃんを連れ帰る。
この赤ちゃんをどうすべきかと相談する中、先ほどの女性が戻ってきたのを見て、赤ちゃんを確実に殺そうとしているのだと気づく。
四人は、「最後の人助け」として赤ちゃんを保護することに決めた。
車でその場から逃げ出す四人だったが、SNS上で、母親を名乗る人物が赤ちゃんを返して欲しいと訴えたことで事態は急変。
四人は赤ちゃんの誘拐犯として追われることになる。
このまま警察に行けば、四人は助かるが赤ちゃんは偽の母親に引き取られて殺されてしまうかもしれない。
四人は黒幕を見つけ出して、赤ちゃんを守ろうと決意する。
展開が早くて読みごたえがある
タイトルの『四日間家族』のとおり、物語は四日の間に起きたできごとです。
集団自殺予定から、赤ちゃんを見つけて保護、SNS上で誘拐犯とされながらも、黒幕を追っていく。
これだけのことを四日間に詰め込んでいるんだから、それはスピーディーで濃密な話になりますよね。
こういった逃走しながら真相に迫ろうとする小説って、展開の速さや緊迫感が重要ですが、本書はどちらもしっかりとあって、読んでいて読みごたえがありました。
自殺のために出会った初めて出会う4人。
なんとなく身の上話みたいな展開にもなるんですけど、のんびり四人が語るのではなく、少しずつ四人のことがわかってくる感じもいいですね。
ただただ自己紹介なんて描いていたら間延びしてしまうなって思うので。
SNSの恐ろしさよ……
四人は赤ちゃんを保護したあと、偽の母親が、赤ちゃんが連れ去られたとする動画を投稿したことで窮地に立たされます。
四人の画像が出たことで、元々、問題を抱えていた康夫と千代子はすぐに人物を特定されてしまいます。
名前の特定だけではなく、仕事や住所、家族構成、更には身内がどこに住んでいるのかなんてことまで知られてさらされてしまいます。
この時点で四人が本当に赤ちゃんを誘拐したかどうかはわかっていない状態なんですね。
でも、特定されるや、関係者を名乗る人物のコメントなどの投稿も現れ、非道な人物として周知されていく。
怖いのって、こうした特定をしたり、四人を責めたりしている人は、悪いと思ってやっていない点ですよね。
むしろ、赤ちゃんを探すためにやっているとか、相手が悪いのだからこちらは正しいくらいの気持ちだったりとか。
浅倉秋成さんの『俺ではない炎上』でもそうでしたが、ネットって一旦火がつくと、もう誰にも操作できなくなるところがある。
そして、それってほとんどの人は、何気なくやってしまっているんですね。
人が絶望をするとき
キルケゴールの『死に至る病』という本があります。
『〇〇に至る病』ってタイトルの本が増えてきたけど、最初ってこれですかね。
ここでいう死に至る病とは、単純な病気などではなく、絶望のことを指すのだといいます。
割と、この考え方ってそうなんだろうなって納得なんですよね。
辛かろうが、しんどかろうが、人間ってけっこう生きていくものなんで。
もちろん、ふっと、「なんかどうでもいいや」って思って実行する人もいると思いますが、この絶望ってのの比重はでかい気がする。
さて、『四日間家族』に出てくる四人は、理由は各自異なりますが、四人とも自殺をしようと思って集まってきています。
その理由ってのは、傍から見たら、
「えっそんなことで?」
とか、
「それは自業自得じゃないの?」
なんて言われてしまうかもしれない。
でもその人にとっては切実で、死という場所に飛び込むしかなかったくらいに心が疲れていたんでしょう。
山田悠介さんの『スイッチを押すとき』も近いものがありますよね。
自殺するスイッチを持たされた人たちが、どうしたらそれを押すのかっていう実験の物語。
人が死を思うときってそれくらいその人に何かがあるんだと感じました。
赤ちゃんの力のすごさ
死が絶望と隣り合わせになるもの。
でも、『四日間家族』にはそれとは正反対の場所に存在するものがあります。
それが、四人が拾った赤ちゃん。
赤ちゃんって、希望なんだと思うんですよ。
自分では生きることもできなくて、か弱い存在なのに、四人を死から遠ざけて、動く力を授ける。
世の中とか、いろんなものに絶望して死のうと思っていた四人が、赤ちゃんを守るために必死になる。
すごいなって純粋に思う。
子育てをしている人だと、赤ちゃんって手がかかるし、夜泣き凄くて毎日寝不足になるし、ミルクは2,3時間に一回あげなきゃで、泣いてるからどれだけ抱っこしてもなかなか泣き止まない。
正直、しんどいって思うときだってあるけど、それすら吹き飛ぶようなものを親にくれてるんですよね。
そういう生きるエネルギー。
生命力とも言うのかな。
これほど内に秘めた存在っていないんだと思います。
おわりに
川瀬七緒さんの小説は初めて読みましたが、思っていた以上におもしろかった!
生とか死とかって、結局、誰もが感じるものだし、逃れることができないものでもあるんですよね。
最近読んだ住野よるさんの『恋とかそれとあと全部』でも、生きる死ぬってことが一つのテーマとして盛り込まれていましたし。
まあ実際は何かあるまでは、考えることもしないで生きていることの方が多いんでしょうが、改めて考えると、この生って尊いものよなって気にもなる。
そうしたことに気づかせる小説ってやっぱりすごいなって感じます。