斜線堂有紀

残酷で美しいホラー小説。斜線堂有紀『本の背骨が最後に残る』

残酷で、美しくもあるホラー小説。

読む人によってはつらく感じるかもしれない。

今回読んだのは、斜線堂有紀さんの『本の背骨が最後に残る』です!

これはSFとホラーの入り混じった短編集です。

世界観の作り方がすごい。

いずれの作品も、人の恐怖を煽るような内容になっていて、現実にはこんなことはないのですが、もしそんな世界線に自分が存在したらそれは恐ろしいことだなと感じさせられます。

ここでは、『本の背骨が最後に残る』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『本の背骨が最後に残る』のあらすじ

本を焼くのが最上の娯楽であるように、人を焼くことも至上の愉悦であった。

その国では、背骨のない本、つまり紙で作られた本は存在しない。

物語を語る者が「本」と呼ばれていた。

「本」は、一冊につき、一つの物語をその身に刻んでいる。

しかし、同じ物語を刻んだはずの「本」の間に内容の食い違いが生じることがある。

そこで開かれるのが市井の人々の娯楽、「版重ね」だった。

どちらかの「誤植」を見つけるために、お互いの物語の正当性をぶつけ合い、議論を尽くす。

金属製の籠に吊るされた「本」たちの下には炎が舞い上がり、「誤植」が発覚した「本」は、籠を下ろされて燃やされてしまう。

そして、燃やされた「本」は絶叫とともに朽ち果て、最後にはその美しい背骨だけが残される。

 

死ぬと動物に生まれ変わるとされる世界を描いた『死して屍知る者無し』。

脳波から取り出した意識モデルを作ることができる世界を描いた『ドッペルイェーガー』。

他人の痛みを他者に移す技術が生まれた世界で、患者の痛みを引き受ける美女たちを描いた『痛妃婚姻譚』。

特定の個人にのみ振り続ける雨が発症する『金魚姫の物語』。

孤島で精神障害の治療が行われる『デウス・エクス・セラピー』。

表題作の十が誕生した頃を描いた『本は背骨が最初に形成る』。

7つの短編が収録された残酷で美しいSFホラー小説。

けっこう描写がえぐいけどおもしろい

7つの短編小説からなる『本の背骨が最後に残る』ですが、残酷なシーンがけっこう多め。

たとえば表題作の「本の背骨が最後に残る」では、あらすじにも書いた「版重ね」が行われます。

どちらが正しい物語なのかを競い合い、「誤植」と判断された「本」は生きたまま燃やされてしまいます。

「金魚姫の物語」では、雨を受け続けた人間が少しずつ体がふやけて朽ちていく姿が描かれています。

「ドッペルイェーガー」では、作り出した自分の意識モデルを、VR世界で嗜虐していきます。

この描写がまたリアルできつい。

残虐なシーンが苦手な人は読みづらいかもしれません。

ただ、リアルだからこそ、この世界観が成り立っているのかなとも。

私も比較的、こういった描写は苦手な方ですが、人の本性は表裏一体というか、苦しい部分があって、反転するようなところもあって、必要な表現なのだろうなと感じました。

お気に入りは、「痛妃婚姻譚」。

7つの中で私が一番好きなのは、「痛妃婚姻譚」でした。

これは、科学技術が発展して、手術などの際に生まれる痛みを、「蜘蛛の糸」と呼ばれる装置に移すことができるようになった世界の話です。

すばらしい装置ですよね。

ですが問題は「蜘蛛の糸」に痛みを移しただけだと、患者がこん睡状態に陥ってしまうということでした。

しかし、その痛みを他人に移すと、患者には何の問題もないことが発覚します。

人間に痛みを移すこと、それは倫理的に問題ではないか、といった声が当初は挙がりますが、そこで登場するのが「痛妃」と呼ばれるようになる美女です。

彼女は、痛みを受け取るための「蜘蛛の糸」を装着しながらも、美しく微笑んで見せます。

そして研究者は、痛みを移す過程で、痛みは減衰されるから大丈夫だ、と主張します。

それでも非難はありましたが、優雅に微笑む女性がおり、「蜘蛛の糸」を使うことで痛みから逃れることができる患者がいる。

徐々に、「蜘蛛の糸」を使うことがあたり前になっていきます。

でも、実際は痛みは減衰されておらず、ただただ「痛妃」が必死に耐えているだけだったのです。

実際に、初めて痛みを受け取った痛妃は、叫び出すことがごく普通なことで、多くの痛妃は、毎日痛みを受けているうちに発狂してしまうという。

なかなかひどいことを考えますよね。

でも、これが自分とはあまり関係のないところで行われていたら。

これのおかげで自分たちが痛みを受けなくてすむと思えば。

痛妃になることは名誉なことで、彼女たちも自ら志願したと思えば。

人の感覚って鈍っていくのかなと感じます。

「本の背骨が最後に残る」の版重ねでもそうですし、「痛妃婚姻譚」にしても、人が苦しむ姿って一つの娯楽になるところがあります。

昔は、死刑が庶民の娯楽だったように、何かしらの高揚させるものがあるのもたしかなのだと。

それとは別に、「痛妃婚姻譚」では、その宴に赴く痛妃がどんな想いでその舞台に立ち、痛みに耐えていたのか。

そこの描き方がまた素敵で、本作で一番おすすめの作品となりました。

おわりに

これは本当に好きな人と苦手な人に分かれる作品だなーと思います。

一つひとつはそこまで長くはないので読みやすいですし、しっかりとした世界がそこに存在するのでとても楽しむことができます。

本の装丁もすごいですよね。

なかなかに凝った作りになっていて、それを見ているだけでもいろんな想像ができて楽しいです。