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犯罪予備軍の駆け込み寺?石持浅海『あなたには、殺せません』

犯罪がいけないことだというのは誰だって知っている。

思い悩み決断してしまう前に、誰かに相談ができれば、犯行を思いとどまることができるかもしれない。

そんな人のためのNPO法人を描いた物語。

今回読んだのは、石持浅海さんの『あなたには、殺せません』です!

犯罪予備軍の駆け込み寺として有名なとあるNPO法人。

そこでは、犯罪をしようと思った人が訪れ、実行の前に話を聞いてくれる。そこで思いとどまる人もいれば……。

というか、『あんたには、殺せません』の5つの短編では誰も思いとどまらないからおもしろい。

ここでは、『あなたには、殺せません』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『あなたには、殺せません』のあらすじ

〇五線紙上の殺意

〇夫の罪と妻の罪

〇ねじれの位置の殺人

〇かなり具体的な提案

〇完璧な計画

上記5編からなる短編小説。

いずれも犯罪を実行に移そうとする人のための相談窓口であるNPO法人が舞台。

1番の扉には誰かを殺したいという人が相談に訪れる。

ここでの話は録音も録画もしておらず、どこにも漏れることはない。

そう言われて依頼者たちは少しずつ自分の計画を打ち明けていく。

 

「五線紙上の殺意」

高校時代の同級生とコンビで音楽活動をする有馬駿。

成功を収め、有名なアーティストの仲間入りを果たした彼には悩みがあった。

それは相方が自分を裏切っていたことである。

駿が作った楽曲をすべて自分が作ったかのように振る舞っていたのだ。

相方への殺意を持つが自分の人生を台無しにしたい訳ではない。

NPO法人でいかにそれが難しいことかを説明される中で駿はとある方法を考えつく。

「夫の罪と妻の罪」

自分の不倫相手を夫が殺害する瞬間を見てしまった。

事件が発覚する前に夫を殺し「殺人犯の妻」となるのを避けようと考え、NPO法人を訪れる。

しかし、なぜ夫は恩師との待ち合わせ場所に居合わせることができたのか。

なぜその駐車場を犯行現場にしたのだろうか。

「ねじれの位置の殺人」
服部建斗は友人たち4人で訪れたキャンプ場で、思いを寄せていた女性を水難事故で失う。

彼女が増水した河川敷から逃げ遅れたのは、彼女の双子の姉が原因だった。

一年が経とうとするのに彼女のことを忘れられない。

服部はその双子の姉に復讐を誓う。

だが、事故以来、ほとんど会うことも交流をすることもなくなっていた。

しかし、事故のことが忘れられないのは服部だけではなく……。

「かなり具体的な提案」

日下部渉は、とある英会話教室に通っていた。

そこの講師がパートナーに暴力を振るわれていることを知り、仲間たちとともに支援をすることにしていた。

しかし、解決の兆しが見えたところで日下部は転勤となり、弁護士費用などを知人に預けてあとを任せることにした。

数年後、支援は途中で失敗に終わり、講師が自殺したことを知る。

日下部は、託した弁護士費用を着服しただけでなく、その責任を擦り付けてきた知人に、殺意を募らせた。

「完璧な計画」

同性の恋人と一緒に暮らしていたがその生活はずっとは続かない。

恋人は実家からの要請もあり、世間の目を気にしてお見合い結婚をすることになった。

見ず知らずの男性に恋人を奪われるという現実。

それならばいっそのこと……。

その現実に耐えられず彼女の殺害を目論むようになる。

説得ではなく、補完?

犯罪者予備軍たちの駆け込み寺のNPO法人。

「犯人だって、好きで犯罪に走ろうとしているわけではありません。必ず迷いがあります。その段階でうちに来てもらえれば、犯罪の発生を未然に防ぐことができます」

(石持浅海『あなたには、殺せません』より)

これは、NPO法人の代表がインタビューに答えたときのものです。

たしかに話を聞いてくれる人がいるっていうのは、それだけでどこかすっきりとするような気もします。

カウンセラー的なものなのかなと思いながら読み始めましたが、これがなかなかくせのあるNPO法人でした。

イメージでは、話を聞き、それがいかに良くないことなのかと、倫理的に説得をするのかと思いきや、理詰めで論理的に不可能だという形で話をするのです。

相談者の殺人計画を聞き出して、その穴を指摘して諦めさせるというのです。

妻が夫を殺害したいと言えば、

「真っ先に疑われるのは妻です。止めておきましょう」

といった具合に。

相談者はそれでも憎き相手を殺したい。

だから、こんな方法はどうか、これなら大丈夫じゃないかと案を出し、相談員もまたそれに反論していくことで、計画を諦めさせようとする。

ところが、相談者と相談員が話していくうちに、次第に殺害計画は補完されて、どんどん実現可能なものになっていくんです。

どの短編も基本的な構造は同じなので、もっと違ったパターンもあって良かったのかなとも思いますが、結局誰も諦めてないじゃんってところでおもしろかったです。

NPO法人の目的はなんなのだろうか。

NPO法人の相談員は、きちっとした格好をして、とても淡々と相談にのります。

感情を表に出さずに、自分の職務に忠実といった雰囲気で。

最初の「五線紙上の殺意」では、相談者が相談員に尋ねます。

NPO法人の運営はどうやって行っているのか、と。

相談員は、基本は支援で、相談に来てくれた人の中には、将来成功したときに支援してくれている人もいると答えていました。

その話を聞き、相談に来た有馬俊は、その数年後に見事大成してからは、毎年、このNPO法人に寄付をするようになります。

だから、有馬俊はこのNPO法人は、そうやって計画を手助けして支援金を得ることが目的なのではないかと考えます。

たしかに読んでいると、

「本当に諦めさせようとしてるの?」

という気持ちになってくるんですよね。

だって、どの短編も結局諦めることなく、殺害計画をより強固なものにして犯行に及んでるんですよ。

もしかしたら、そうした事件を起こさせることに喜びを感じているやばい人たちなのでは……なんて疑いも生まれてきます。

果たしてこのNPO法人は真摯に活動をしているのか、それとも別の目的があるのか。

おわりに

ちょっと変わったミステリーであった『あなたには、殺せません』でした。

こういった切り口の小説も新鮮でよかったです。

ただ欲を言えば、もうちょっといろんなパターンが欲しい気もしましたし、1番の部屋以外はいったいなんだったんだろうってのも気になります。

でも、割とシリーズとかにもできそうな様子もあるので、そうした動きがあればぜひ読みたいなって思います。