伊坂幸太郎

伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』友愛とつながりを感じる1冊。

「いいか、後になって、『あの時、あそこにいたのが彼女で本当に良かった』って幸運に感謝できるようなのが、一番幸せなんだよ」

(伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』(アイネクライネ)より)

私の大好きな作家さんの小説の一節。

そんな風にいえる幸せっていいですね。

今回紹介するのは、伊坂幸太郎さんの『アイネクライネナハトムジーク』です!

『グラスホッパー』とか『死神の精度』とか、やたらと人が死んだり、事件が起きたりする伊坂幸太郎さんにしてはめずらしくそういう要素がない!

そしてこちらもめずらしい恋愛要素のある小説になります。

とはいえ、どっぷり恋愛なのではなく、人と人とのつながりに重点を置いているような内容で、伊坂さんっぽくてすごく好きな1冊です。

ここでは『アイネクライネナハトムジーク』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『アイネクライネナハトムジーク』のあらすじ

『アイネクライネナハトムジーク』は6つの短編からなる小説です。

〇アイネクライネ

〇ライトヘビー

〇ドクメンタ

〇ルックスライク

〇メイクアップ

〇ナハトムジーク

それぞれの章で主人公となる人物は異なります。

佐藤は、Webなどでアンケートを集めて集計する仕事をしている。

ある日佐藤は街頭アンケートに取り組んでいた。

いつもは街頭アンケートなんてしないのにこの日は理由がある。

いつもは冷静沈着で真面目な仕事に定評のある先輩・藤間が、妻と娘が突然家を出て行ってしまったストレスで、大事なデータの入ったパソコンを蹴り飛ばしたことが発端。

そのときコーヒーを手に持って作業をしていた佐藤は、運の悪いことに驚いてそのコーヒーをバックアップ機器にかけてしまうのであった。

幸いデータの9割は無事であったが、意地悪な上司により、責任を取るように命じられ、ほとんど人が立ち止まらない街頭アンケートを実施することになる。

しかし、アンケートに協力してくれる人は少なく、素通りしたり邪険に扱われたりする。

そんな中、一人の女性がアンケートに協力してくれた。

その女性の手には「シャンプー」と書かれており、ついつぶやいてしまう佐藤。

「今日、安いんですよ」と恥ずかしそうにいう彼女と少し世間話をすることに。

それがきっかけか、アンケートもその後は順調に進み、無事に仕事を終えることができる。

後日、友人の織田夫妻のところで出会いがないと愚痴る佐藤であったが、友人からはそれが出会いだったのではと言われるのであった。

「アイネクライネ」のあらすじになります。

6つの章すべてに関係するのは、佐藤が街頭アンケートをしていた日に行われたボクシングのヘビー級の試合。

日本人が初のヘビー級王者になる瞬間です。

その日のその試合が、多くの人に影響を与え、つながりを生み出すのでした。

小説誕生のきっかけは斎藤和義さん。

『アイネクライネナハトムジーク』が生まれたきっかけは、シンガーソングライターの斉藤和義さんでした。

斉藤和義さんが、伊坂幸太郎さんに「作詞をしてもらえないか」と頼んだそうです。

依頼された伊坂の答えは、

「作詞はできませんが、小説を書くことなら」

そうして生まれたのが「アイネクライネ」になります。

斉藤和義さんは、この「アイネクライネ」を読み、『ベリーベリーストロング~アイネクライネ~』という曲を作りあげます。

https://youtu.be/pxgKnnE6Gck

これがまた、『アイネクライネナハトムジーク』を読んだ後に聞くと、情景が思い起こされてとてもいいです。

小説も曲も、それぞれで素敵な作品ですが、2つ合わさることでさらに輝いて感じます。

『アイネクライネナハトムジーク』の中でも【斉藤さん】という人物が登場します。

役柄としては、1回100円で、パソコンを操作してその人の今にちょうどいい曲の一部を流すという人物です。

その人の名前は誰も知りませんが、いつからか【斉藤さん】と呼ばれるようになりました。

小説の登場人物たちの決断の場面で出てくる重要な役柄ですね。

実際に小説で出てくる曲は斉藤和義さんの曲のようです。

全部わかる人はすごいです!

短篇なのにつながりの強い1冊

『アイネクライネナハトムジーク』は連作短編小説になります。

伊坂さんの短編もそんなに多くないですよね。

『終末のフール』や『バイバイ、ブラックバード』とかがそうですが。

伊坂さんは短編でも、一つ一つの短編がつながって出来上がっていることが多いですが、『アイネクライネナハトムジーク』は、

「あの人がここで出てくるんだ!」

ってシーンが多くておもしろいです。

「アイネクライネ」の主人公・佐藤の友人織田夫妻の娘が登場するのが「ルックスライク」。

「アイネクライネ」の9年後になります。

「ライトヘビー」の主人公・美奈子の友人である山田寛子も「メイクアップ」に登場します。

そういうつながりがどんどん出てくるので、ちょっとした登場人物でも、

「次にどこかで出てくるのかな」

とドキドキしながら読んでしまいますね。

タイトルにもなった『アイネクライネナハトムジーク』という曲。

さて、気になるものの一つがタイトルの『アイネクライネナハトムジーク』の元となった曲です。

原曲の「アイネクライネナハトムジーク」は、オーストリアの音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの同名楽曲です。

「アイネ(ある)クライネ(小さな)ナハト(夜の)ムジーク(曲)」という意味があり、以前はそのままに「小夜曲」とも呼ばれていたようです。

これも有名な曲なので一度聞いてみるといいなと思います。

伊坂幸太郎さんの作品は、音楽と紐づけられていることがよくありますよね。

『バイバイ、ブラックバード』では、ジャズの「バイ・バイ・ブラックバード」から。

『ゴールデンスランバー』はビートルズですね。

ほかの小説でもタイトルにはならなくても、いろんな曲が登場して関連を知るのもおもしろいです。

つながりと絆を感じる物語

冒頭でも書いたように、伊坂幸太郎さんにしてはめずらしい恋愛要素のある小説。

でも、恋愛よりも人と人のつながりを感じられる小説。

『アイネクライネナハトムジーク』の解説でも、伊坂さんを【友愛の小説家】と称しており、まさにその言葉がぴったりだなと思います。

つい男女の関係を考えるときに恋愛でとらえがちですが、それとも少し違うつながりってあると思います。

もっと純粋に人を大切にしているのかな、と。

誰かと出会うときに、それをどうとらえるかはその人次第です。

ただその人と知り合ったと思うのか、それが出会いだと思うのか。

その縁が巡り巡ってまた新しい縁を生み出し、巡り巡って縁同士がつながることもある。

『アイネクライネナハトムジーク』を読んでみると、自分自身を取り巻く、そんな縁を考えずにはいられなくなります。

おわりに

『アイネクライネナハトムジーク』は読み終わってとても満足感がありますね。

小説の中身もいいし、タイトルの響きもすごく好きです。

最後まで読み切ったあとに、斉藤和義さんの『ベリーベリーストロング~アイネクライネ~』を流しながら余韻に浸るもの素敵です。

伊坂さんの作品もそれなりに読んできましたが、優しく温かい小説として、私の中のランキングでもかなり上位に入ってきます。

次は伊坂さんの何を読もうかと迷ってしまいますね。