自分には見えない世界が実は存在するのかもしれない。
そんな、楽しい気持ちにさせてくれる物語です。
今回読んだのは、伊坂幸太郎さんの『マイクロスパイ・アンサンブル』です!
ハルトに誘われてスパイになったぼくと、仕事も恋愛もうまくいかない松嶋の二人の視点での話が交互に挟まれ、物語が進んでいきます。
自分たちの気づかないところで、別の次元の物語が展開されているのかもしれません。
ここでは、『マイクロスパイ・アンサンブル』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『マイクロスパイ・アンサンブル』のあらすじ
いじめられっ子だったぼく。
家では父親に暴力を振るわれ、仲間たちから囲まれ、脅され、いたぶられていた。
でもそんな自分にお別れするんだ。
いつも無抵抗だったぼくが反撃をして逃げ出したとき、エージェントハルトに救われた。
そして、ハルトに薦められてスパイとして活動することになる。
松嶋は、恋愛も仕事もどうにもうまくいかない。
合コンに行けば失言をしてしまう。
自分のことをだめだと思いながらも、そこから抜け出そうと奮闘する。
ぼくも松嶋も、うまくいかないことばかりだけど、知らないうちにそれが誰かのためになっていることも。
見えていることだけが、世界の全てじゃない。
三つのなにかがそろったとき、猪苗代湖で不思議なことが起きる。
もしかしたら私たちの知らない世界があるのかも
タイトルの『マイクロスパイ・アンサンブル』の言葉通り、「ぼく」やエージェント・ハルトはスパイです。
でも、それは私たちよりもずっと小さい存在なんですね。
比喩ではなく、物理的に?
バッタのような私たちからしたら小さな虫を、馬のように乗りこなす。
落し物のペンダントを何人もでやっと抱えて移動する。
『マイクロスパイ・アンサンブル』では、そんな小さな世界が私たちの目には見えないところにあるんですね。
でも、日ごろはこの二つの世界は、別次元で関わり合うことがない。
ときどき、突拍子もなく、それぞれの世界の出来事が、もう一つの世界に影響を及ぼすことがあるけれど、それに気づくことはない。
もちろん、これは物語の中でのことだけど、もしかしたら、この現実にだってそんな世界があるんじゃないかなって空想に浸らせてくれます。
いいと思うんですよね、そんな世界があっても。
本当にあったら、そこにはどんな人たちがどんな生き方をしているのかなって考えるだけで楽しい。
親指くらいのサイズなら、それ以外の生き物ってどれも脅威ですよね。
道に生えている雑草だって、自分よりも遥かに背丈のある植物に変わるわけです。
そんな世界で生きていくとしたら、とにかく強くなくてはいけない。
「ぼく」やハルトたちのようなスパイもいれば、攻撃的な方面に科学技術が発展したり、昆虫を操作できる技術が生まれていったりするのも、わかる気がする。
伊坂幸太郎さんの世界って、空想であり妄想でありながら、それに思いを馳せることで胸をわくわくさせてくれるから好きです。
一つの成長物語
『マイクロスパイ・アンサンブル』は、一年目から七年目までで描かれていきます。
というのも、元々この小説が生まれたのは、猪苗代湖での音楽フェスによるもの。
2015年から開催されている音楽フェス「オハラ☆ブレイク」に伊坂幸太郎さんが毎年、短編「猪苗代湖の話」を書いていたんですね。
その会場でしか手に入らなかった七年分の連作短編が、『マイクロスパイ・アンサンブル』として書籍化されたというわけです。
だから、物語の世界も一つの短編が進むたびに一年経っているわけです。
最初はだめだめだった「ぼく」もハルトも、年を追うごとにしっかりしてきて成長していくんですね。
フェスでこの短編を手にしていた人たちは、毎年、どんな風に二人が成長していくのかをどきどきしながら楽しめたんだろうなってうらやましくもなります。
おわりに
音楽フェスから小説が生まれるなんてことがあるんだなと、驚きを持って、『マイクロスパイ・アンサンブル』を読ませてもらいました。
こういうのも新鮮でいいですね。
でも実際に探してみると、なにかとコラボしている小説ってけっこうあるもので、青羽悠さんも、楽曲とのコラボだったり、他の作家さんとのコラボだったりをしていますね。
そういう読む小説の選び方をしてみるのも楽しいかもしれないなと感じています。