伊坂幸太郎

伊坂幸太郎『ラッシュライフ』「人生はきっと誰かにバトンを渡すためにあるんだ」

5つの視点で、それが目まぐるしくいったり来たりするので、タイトル通りあわただしい小説だなと感じました。

今回紹介するのは、伊坂幸太郎さんの『ラッシュライフ』です。

2002年に出された伊坂さんの2作目になる小説ですね。

2005年には文庫化されています。

ころころ視点が変わることと、時系列がばらばらなので、最初ちょっと混乱しそうになりますが、最後に一本につながったときにすごくすっきりとした気持ちになる小説です。

Contents

『ラッシュライフ』のあらすじ

〇拝金主義者の画商戸田と、彼に振り回される新進の女性画家志奈子

〇空き巣に入ったら必ず盗品のメモを残して被害者の心の軽減をはかる泥棒の黒澤

〇新興宗教の教祖にひかれている画家志望の河原崎と指導役の塚本

〇それぞれの配偶者を殺す計画を練る女性精神科医京子とサッカー選手の青山

〇四十社連続不採用の目にあっている失業者の豊田

画家志望の志奈子は、画商である戸田とともに仙台へと向かう。

戸田が志奈子を取引先に紹介するためであった。

戸田は画商をしながらも、絵には興味がなく、ただの商品だと考えていた。

才能のある画家と若いうちに契約を結び、有名になったところで大きく売り出しもうけるという男である。

志奈子はそんな戸田を軽蔑しながらも、自分の将来のためについていかざるを得なくなっていた。

 

泥棒の黒澤。

彼は事前に入念な調査を行った上で空き巣に入る。

そして、なぜこの家に盗みに入ったのか、恨みなどからではないこと、盗んだものの内容が書かれたメモを残し、被害者に余計な心配をさせない心遣いを見せるちょっと変わった泥棒である。

その日は、いつものように一仕事を終え、盗んだ20万円を預金しようと仙台駅に行くが、そこで老夫婦の強盗にあう。

せっかくの成果を失った黒澤は本日2件目の仕事をしようと思い立つが、暗い部屋でタンスを探っていると、自分以外の人間が部屋に入ってきたことに気づかないというミスを犯す。

 

新興宗教に入信した河原崎は、幹部で指導役の塚本に呼ばれる。

はるか上の立場の塚本に呼ばれて緊張していた河原崎であったが、話を聞いて驚愕する。

塚本は、教祖である「高橋」が天才から凡人になってしまったという。

そして、本当に神なのか確かめるために解体するというのであった。

 

お互いに家庭を持ちながら不倫関係にあった京子と青山。

それぞれのパートナーを殺す計画を立てていたところ、京子の旦那から突然、別れようという電話が来る。

いぶかしがりながらも、これ幸いと受諾する京子。

これであとは青山の妻を殺害すれば何も問題がなくなる……と。

計画に及び腰の青山であったが、二人は実行するために青山の車で自宅を目指す。

しかし、その道中で青山は人を轢いてしまうのであった。

 

失業中の豊田は、今日も不採用の連絡を受ける。

これで連続四十社目であった。

なにもかもうまくいかず、途方に暮れていた豊田。

仙台駅を歩いていると、「ばらばらにしてやる」といいながらはさみを持ち、犬をにらんでいる狂ったような女性がいた。

豊田はなぜかその犬は自分の犬だといい、かばってその場から逃げ出すことになる。

失業者の豊田とその野良犬の行方はいかに。

 

何も関係のないはずの5つの視点で描かれたストーリーが絡み合い、影響し合いながら物語を展開させていく。

『ラッシュライフ』の感想

『ラッシュライフ』はなんだかんだ3回読んでいますが、初めて読んだときは一つ一つの話のつながりがすぐにわかりませんでした。

5つの視点で物語が展開していくため、話がめまぐるしく入れ替わるんですよね。

「なんでこんなばらばらな話を書いているのだろう」

と序盤では思ってしまうくらいです。

5つもストーリーがある上に、『ラッシュライフ』に登場する時系列にもずれがあるので最初はよくわかんないんですよね。

そんなにばらばらだった話なのに、気づけばそれぞれがつながり、「あのときのあれはこのことか!」と、謎に感じていた部分もすっきりしていきます。

終わってみれば「すげえなー」の一言です。

どういう書き方をしたら、こんな小説になるのかとちょっと不思議でした。

実際にそれぞれのストーリーは直接は関係ないのですが、でもどれか一つでも欠けていては、最後のシーンにはいたらなかったのだと感じます。

風が吹けば桶屋が儲かるではないですが、意味のないものってないのだと、どんなことでも何かしらに影響を与えているのだと考えさせられます。

前作『オーデュボンの祈り』や他作品とのつながり

『ラッシュライフ』は2作目ですが、デビュー作だった『オーデュボンの祈り』とも少しだけつながりがあります。

『オーデュボンの祈り』の主人公だった伊藤。

彼の存在を匂わせるシーンがあります。

そう言えば、私の画廊にも変わった青年が出入りしていた。額屋のバイトで、よくうちに来ていたんだ。経歴が怪しくてね、昔はシステムエンジニアをやっていたと言うが、警察にお世話になったという噂もあった。額屋の主人が気に入って、雇ったらしい。若くて頭も切れた。喋ってみると理路整然としていてね、額を持って走り回っているのはちょっと似合わなかったな。で、その彼が、時々、『カカシ』の話をしてくれたんだ」

(伊坂幸太郎『ラッシュライフ』P223

佐々岡という男の画廊に出入りしていた男の話が出るのですが、この青年こそ伊藤です。

警察にお世話になったというので、やはり『オーデュボンの祈り』のあと、一度捕まったんですかね。

こうしたつながりが伊坂作品には頻繁に見られるので探してみるとおもしろいです。

これ以外にも『ラッシュライフ』に少しだけ出てくる話が、ほかの作品で実際に描かれています。

「そうしてから塚本は、「高橋」が真相を言い当てた事件の例をいくつか挙げた。横浜で起きた映画館の爆破未遂事件というのもあった。河原崎の記憶にもある事件だ。爆弾の仕掛けられた座席の位置にルールがあったのだ、と塚本は説明をした」

(伊坂幸太郎『ラッシュライフ』P233より)

これは『陽気なギャングが地球を回す』に出てくる事件です。

この映画館の爆破未遂事件があったから、『陽気なギャングが地球を回す』のメンバーが出会うんですね。

「ラジオからニュースが流れている。「強盗だってよ」と運転手が言うので飛び上がるほど驚いてしまう。

「銀行に立てこもっているんだとよ」と言われて、安堵した。自分の郵便局強盗とは別のようだ。運転手が言うには、仙台駅前の銀行で人質を取った犯人が立てこもっているらしい。世の中には様々なことが同時に起こっているのだと、しみじみと豊田は思った。人質の一部は解放されたらしいが、人質達はそれぞれ、縁日で売っている面を被らされていた、とニュースは繰り返している。奇妙な話はあちらこちらに転がっているものだ、と感心するほかない」

(伊坂幸太郎『ラッシュライフ』P306より)

こちらは、『チルドレン』の中の「バンク」に描かれている事件のことです。

おわりに

感想でも書いたように、とてもあわただしく次々に物語が展開していくので、おもしろくて手が止まらなくなる小説でした。

伊坂幸太郎さんの作品はいずれもおもしろいので、どれから読んでも楽しめます。

でも、伊坂さんの作品間のつながりを楽しむなら、発刊順に読むのが一番です。

そうなると、次は『陽気なギャングが地球を回す』『重力ピエロ』といった順番になりますね。

私はどちらも読んでいるので、飛ばして次は『アヒルと鴨のコインロッカー』です!