小説家になるためには、何かしらの新人賞・文芸賞を受賞することが一番わかりやすい方法です。
「新人賞に応募するぞ!」
と、決意を胸に新人賞を調べてみると、これが出るわ出るわ……。
いったいなんでこんなにあるのかってくらいに新人賞のタイトルが出てきます。
「いったいどこに応募すればいいんだ」
そうやって途方に暮れる人がどれほどいることか。
そもそも、新人賞といっても、いろんなジャンルがあるんですよね。
エンタメ、ミステリー、SF、純文学などなど。
ここでは簡単ですが、ジャンル別にどんな新人賞があるのか紹介していきます。
Contents
エンタメ系新人賞
ここが一番オールジャンル。
自分の小説のジャンルがよくわからない場合、”広義のエンタメ小説”を募集しているところに応募すれば大丈夫です。
実際に過去の受賞作を見ていくと、いわゆるエンタメ系もあれば、純文学っぽい作品もあります。
歴史小説が受賞することもあるし、もちろんミステリーも入ってきます。
自分の作品をどこに応募していいか迷うときは、この辺りから選ぶのが無難かなと思います。
だいたいの新人賞が、ジャンル不問のエンターテイメント作品を募集しています。
小説現代長編新人賞
講談社が発行している文芸誌『小説現代』において応募される新人賞です。
締め切りは毎年7月末。
大賞受賞者には、賞状+賞金300万円。
30字×40行のフォーマットで作成し、83枚以上167枚以内となります。
改行したりもあるのでざっくりですが、8万字から15万字くらいですかね。
ジャンルは、自作未発表の小説(現代、時代、恋愛、推理、サスペンス、SFなどジャンルを問わず)となっています。
つまりほとんどなんでもありですね。
応募数は、少ない年で700編、多い年だと1200編くらいになります。
過去作を見ていくと、割と歴史物が多いんですが、ここ最近は、現代を舞台にしたものの受賞が増えています。
2021年受賞の『レペゼン母』は、田舎のおばちゃんがラップバトルに参戦する話だし、『檸檬先生』や『晴れ、時々くらげを呼ぶ』は中学生、高校生が主人公ですね。
また、小説現代長編新人賞は、受賞者だけじゃなくて、奨励賞も単行本でデビューできます。
毎年必ずではないですが、過去16回中11回は奨励賞がありました。
2019年の第14回なんて、受賞が2名に奨励賞1名で、合計3名が小説家としてデビューしていて、ほかの新人賞よりもデビューする確率は高いかも。
母と息子の熱いラップバトル!宇野碧『レペゼン母』あらすじと感想。
共感覚を見事に描いた物語。珠川こおり『檸檬先生』あらすじと感想。
理不尽に立ち向かえ。鯨井あめ『晴れ、時々くらげを呼ぶ』あらすじと感想。
小説野生時代新人賞
KADOKAWAが発行している『野生時代』で募集している新人賞です。
締め切りは8月末で、受賞すると、記念品+賞金100万円+KADOKAWAから刊行となります。
文字数は、400字詰め原稿用紙換算200枚から400枚です。
単純計算だと8万文字から16万文字になりますが、改行やら余白を考えると、7万文字から15万文字といったあたりになると思います。
募集しているのは、広義のエンターテインメント小説でジャンル不問となっています。
小説野生時代新人賞は、割とシビアな新人賞かもしれません。
2022年が第13回でしたが、このうち4回は受賞作がなしとなっているんです!
そのくらい、真剣にいい作品だけを求めているのだと感じます。
実際に、受賞した作品のクオリティは高いんですよ。
2021年に受賞したのは君嶋彼方さんの『君の顔では泣けない』(旧題『水平線は回転する』)でした。
これがまたむちゃくちゃおもしろかった!
よくある男女の入れ替わりものかと思いきや、小説開始時点で、入れ替わってから15年が経っているんですね。
定番のネタを一ひねりして、それを見事に描写していて、とても好きな1冊です。
また、私の大好きな作家である芦沢央さんも、『罪の余白』でこの賞を受賞してデビューしました。
2022年で10周年ということで、長く活躍している人気作家ですね。
ポプラ社小説新人賞
タイトル通り、ポプラ社主催の新人賞です。
締め切りは6月末で、受賞すると、記念品+200万円でポプラ社から刊行。
文字数は400字詰め原稿用紙換算200枚~500枚となります。
募集するのは、ジャンル不問のエンターテイメント小説。
このポプラ社小説新人賞にはほかと大きく違う点が一つあります!
それは、一次選考からすべて、編集者が選考を行うということです!
だいたいの新人賞って、一次選考は下読みさんがするんですよね。
それはせずに、たくさん応募される作品を編集者で頑張って読むんです。
デビューすることになったら直接かかわるのは編集者。
だからこそ、自分たちが一緒に働きたいと思う相手を真剣に選ぶというわけです。
それだけでも、デビューすることになったら、情熱を持って一緒に頑張っていけるような気がしますよね。
それもあってか、応募数は徐々に増えていって、第11回(2021年)では、1251編の応募がありました。
一方で、該当者なしの年も4回あります。
受賞者以外にも、奨励賞、特別賞と最終選考に残った人の中から選ばれています。
個人的には、第9回に受賞した夏木志朗さんの『ニキ』(旧題『Bとの邂逅』)が好きでした。
小説すばる新人賞
集英社が発行している『小説すばる』で募集している新人賞です。
締め切りは3月末で受賞すると記念品+200万円。
文字数:40字×30行のレイアウトにて、66枚以上167枚までとなります。
募集してるのは、ジャンル不問のエンターテインメント小説。
2022年で35回目となった昔からある新人賞で、かなり人気も高くて、毎年1000編を越える応募があります。
現時点で一番多かったのは、第27回(2014年)の1640編でした。
かなり有名作家さんをたくさん輩出している新人賞で、受賞者には、朝井リョウさん、堂場瞬一さん、村山由佳さんなどがいます。
2022年の本屋大賞に、『ラブカは静かに弓を持つ』でノミネートされている安壇美緒さんもこの賞出身ですね。
メフィスト賞
講談社が発行する文芸誌『メフィスト』で募集している新人賞です。
上半期と下半期との2回選考が行われますが、それぞれ締め切りは2月末と8月末。
treeおよび『メフィスト』での発表ののち講談社より、単行本、講談社ノベルス等で刊行されます。
文字数は、40字×40字で50枚以上となります。
募集は、エンタテインメント作品(ミステリー、ファンタジー、SF、伝奇など)とされています。
このメフィスト賞は、毎年かなり個性的な作家が受賞することで有名です。
受賞者を見てみてもすごい人が目白押しなんですね。
まず、第1回を受賞したのは、『すべてがFになる』の森博嗣さん。
第4回では、『イニシエーション・ラブ』で有名な乾くるみさんが『Jの神話』で受賞。
進んでいくと、第22回では西尾維新さんが『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言使い』で受賞。
第31回では、辻村深月さんが、『冷たい校舎の時は止まる』で受賞しています。
2022年にヒットした『方舟』を書いた夕木春央さんもメフィスト賞の出身です。
これだけすごい作家さんを生み出してきたメフィスト賞ってなんなのって思ってしまいます。
純文学の新人賞
純文学と言えば、大衆小説に対して「娯楽性」よりも「芸術性」に重きを置いている小説とされています。
文芸誌でいえば、『新潮』、『文學界』、『群像』、『文藝』、『すばる』がそれとされています。
こんな風に文芸誌の中でもジャンル分けしてあるので、読んでみると自分の作品がどちらに当たるか見分けられると思います。
また、純文学の新人賞は、文字数の制限が比較的少なめなのも特徴です。
実際に芥川賞を受賞した小説を読んでみると、ほかの小説に比べてページ数が短いですよね。
群像新人文学賞
講談社が刊行する文芸誌『群像』で募集されている新人賞です。
締め切りは10月末。
Webでの応募も可能となっていますが、その場合締め切りが少し早くなっているので注意が必要です。
大賞受賞者には、賞金50万円。
文字数は400字詰原稿用紙で70枚以上250枚以内となります。
歴史は古く第1回は1958年です。
私の好きな作家だと、2003年に村田沙耶香さんが『授乳』で大賞ではないですが、優秀作として受賞しています。
『信仰』や、『コンビニ人間』、『殺人出産』などを書いた作家さんです。
文學界新人賞
文藝春秋が発行する文芸雑誌『文學界』の公募新人賞です。
締め切りは9月末。
受賞者には、賞金50万円+記念品(万年筆)。
文字数は400字詰原稿用紙で70枚以上150枚以下となります。
こちらも1955年から続く新人賞です。
なんと第1回の受賞者は、石原慎太郎さんなんですね。
上半期と下半期に行われていましたが、2016年からは1年に1回になりました。
そのこともあって、2022年時点で第127回とすごい回数を重ねています。
文藝賞
1962年に創設された文学賞で、河出書房新社が主催しています。
締め切りは3月末。
受賞者には万年筆+賞金50万円となります。
文字数は400字詰原稿用紙100枚以上400枚以内と純文学の中では少し長めです。
文藝賞は応募数が多く、2022年の第59回だと2376編の応募がありました。
文藝賞の次に文字数が多いのがすばる文学賞の原稿用紙300枚なので、それを超えるものはここを狙うからでしょうか。
近年の有名な作家がたくさん出ている新人賞ということもあるのでしょう。
山田詠美さん、羽田圭介さん、綿矢りささん、中村航さん。
『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞した宇佐見りんさんも、2019年に『かか』で受賞してデビューしています。
新潮新人賞
新潮社が刊行する文芸誌『新潮』で募集されている新人賞です。
締切は3月末。
受賞者には、特製記念ブロンズ楯+50万円。
文字数は400字詰め原稿用紙250枚以内(短篇も可)となります。
こちらも応募数がかなりあって、2022年の第54回は、2630編でした。
こちらは文藝賞とは逆に短編も可となっているのが特徴です。
受賞者でいうと、中村文則さんがいますね。
『銃』でデビューし、『教団X』、『遮光』、『土の中の子供』、『R帝国』など有名な作品がたくさんあります。
すばる文学賞
集英社が刊行する文芸誌『すばる』で募集されている新人賞です。
締め切りは3月末。
受賞者には、記念品+100万円。
文字数は400字詰原稿用紙で100枚程度から300枚までとなります。
既成の文学観にとらわれない、意欲的な力作・秀作を募集するとあります。
集英社の『すばる』は純文学で、『小説すばる』は大衆文学と分けられています。
同日に締め切りのあるすばる文学賞と小説すばる新人賞ですが、どちらにするか間違えないようにしないといけません。
金原ひとみさんが『蛇にピアス』で受賞し、そのまま芥川賞を受賞したことで有名です。
ミステリーの新人賞
小説の人気のジャンルといえば、ミステリーです!
上記した、エンタメ系の新人賞でも、ミステリーの要素がある小説が受賞することはあります。
ただ、ミステリーを書いたのであれば、その後の小説家人生を考えると、きちんとミステリーの新人賞からでデビューを目指す方がいいでしょう。
『このミステリーがすごい!』大賞
元々は、『このミステリーがすごい!』という本が毎年刊行されていたんですね。
私も、『このマンガがすごい!』は毎年購入していました。
『このミス』がどんどん知名度が上がっていったことから、2002年に宝島社、NEC、メモリーテックの3社が創設したミステリー小説の賞となります。
締め切りは5月末。
大賞受賞者には、なんと1200万円!!
文字数は40字×40行で100枚~163枚となります。
募集するのは、エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリーとあります。
ですので、受賞作を見てみると、本格ミステリーというよりは、もっと軽い気持ちで読めるような楽しい本が多い印象です。
大賞以外にも、文庫グランプリ(賞金200万円、以前の優秀賞)、隠し玉でデビューする人もいて、多い年には9名もの作家がデビューしています。
2022年で第21回となりますが、このミスからデビューした作家を見ていくと、有名な人がすごく多い。
第1回の大賞で、『四日間の奇跡』で浅倉卓弥さん。
第4回の大賞で、『チーム・バチスタの栄光』で海堂尊さん。
第8回には、『さよならドビュッシー』で中山七里さん。
中山七里さんは、その年の最終候補に『連続殺人鬼カエル男』が残っていて、第6回にも最終候補に名前がありましたね。
それ以外にも、七尾与史さん、佐藤青南さん、『珈琲店タレーランの事件簿』の岡崎琢磨さん、『元彼の遺言状』の新川帆立さん。
第15回(2016年)で隠し玉でデビューした志駕晃さんの『スマホを落としただけなのに』は映画化もされて大ヒットしましたね。
横溝正史ミステリ&ホラー大賞
1980年に探偵小説作家の横溝正史にちなんでミステリ作家を発掘するために設けられた新人賞です。
主催はKADOKAWAで締切は9月末。
大賞受賞者には、金田一耕助像+賞金300万円。
文字数は400字詰め原稿用紙換算で、300枚以上600枚以内と長めになります。
募集しているのは、広義のミステリ小説。又は、広義のホラー小説。
賞のタイトルが、横溝正史賞→横溝正史ミステリ大賞→横溝正史ミステリ&ホラー大賞と変遷してきています。
大賞受賞者がいない年もありますが、優秀賞や、読者賞でデビューを果たしている作家さんもいます。
新潮ミステリー大賞
株式会社新潮社が主催する長編ミステリーの公募文学賞です。
締切は3月末で受賞者には、賞金300万円。
文字数は400字詰原稿用紙換算で350枚以上となります。
募集は、ストーリー性豊かな、広義のミステリー小説とあり、割と間口は広いのかなという印象です。
また、大賞以外にも、最終候補に残った作品も映像化が検討されます。
2022年に、『#真相をお話します』がヒットした結城真一郎さんが第5回(2018年)に『名もなき星の哀歌』でデビューしていますね。
アガサ・クリスティー賞
アガサ・クリスティーといえば、イギリスの推理作家で「ミステリの女王」と呼ばれており、知らない人は少ないでしょう。
株式会社早川書房と公益財団法人早川清文学振興財団が主宰する長編推理小説の公募新人賞です。
締め切りは2月末。
受賞者には、アガサ・クリスティーにちなんだ賞牌+100万円。
文字数は400字詰原稿用紙300~800枚とかなり幅があります。
広義のミステリとなっており、過去の受賞作を見ても、あまりミステリーっぽくない作品も受賞しています。
アガサ・クリスティ―といえば、『アクロイド殺し』、『オリエント急行の殺人』、『そして誰もいなくなった』、『ABC殺人事件』など、有名でのちの作家に影響を与えた作品が数多くあります。
本格ミステリーのイメージが強い作家の名前を冠していますが、2021年には、逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』が大賞を取っています。
日本ミステリー文学大賞新人賞
光文文化財団が主催する公募新人文学賞です。
締切日は5月10日。
受賞者には、シエラザード像+500万円が贈られます。
文字数は400字詰原稿用紙換算で350枚から600枚までとなります。
募集しているのは、広義のミステリーで、日本語で書かれた自作未発表の小説です。
ミステリーの賞としては、応募数が比較的少ない新人賞です。
2022年で第26回となる賞ですが、一番多かったのが第1回の252編で、第26回は、147編。
ほかの賞に比べると応募数が少なく大賞を狙いやすいかもしれません。
その他の新人賞
ハヤカワSFコンテスト
早川書房が主宰するSF小説の公募新人賞です。
SFの新人賞といえば、やはりこれでしょう。
締切は3月末で受賞者には、賞牌+100万円+大賞は長編の場合は単行本として刊行。中篇の場合はSFマガジンにて掲載し、他の作品も加えて単行本として刊行されます。
文字数は400字詰原稿用紙換算100~800枚程度と短編から長編まであり。
募集しているのは、広義のSFとなります。
1961年が始まりで、途中途切れることもありましたが、2013年からは名前を少し変えて毎年実施しています。
『新世界より』などで有名な貴志祐介さんも、別名義でこの賞に応募しデビューをしています。
オール讀物歴史時代小説新人賞
株式会社文藝春秋が発行する小説誌『オール讀物』の公募新人賞です。
締切は6月20日で受賞者には賞金50万円。
文字数は400字詰原稿用紙換算30枚以上100枚以内と比較的短めです。
募集しているのは、広義の歴史時代小説(短編)で舞台は国内外を問わない(架空設定も可)とされています。
元々は、オール讀物新人賞というタイトルでしたが、2008年にオール讀物推理小説新人賞となり、2021年からは、オール讀物歴史時代小説新人賞となりました。
郵送だけでなく、Webでの応募もできるのが特徴ですね。
おわりに
小説の公募新人賞の有名なところを紹介していきました。
自分のジャンルにあった新人賞は見つかったでしょうか。
小説を応募する際に重要なことの一つに、自分にあったジャンルに応募するということが挙げられます。
間違ったジャンルに送ることを、カテゴリーエラーとも言い、その時点で、どんなにおもしろくても弾かれてしまう可能性が出てきてしまいます。
はっきり自分のジャンルがわかっていればそれでいいですが、どちらかなと迷いがあるときは、過去の受賞作に目を通してみるのもいいかなと思います。