最初にタイトルを見たとき、
「なんかよくわからん変なタイトル」
と感じました。
それもあってついつい手に取ってみましたが、これまで読んできた新人賞作品の中でも、特に一気に読みたくなる一冊でした。
今回読んだのは、宇野碧さんの『レペゼン母』です!
第16回小説現代長編新人賞を受賞した作品になります。
第15回の『檸檬先生』もすごくよかったので、期待していたのですが、期待以上にどきどきさせられいい時間を過ごせました。
ここでは、『レペゼン花』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『レペゼン母』のあらすじ
マイクを握れ、わが子と戦え!
和歌山県の山間の町で梅農家を営む深見明子。
若くして亡くなった夫から梅農家を受け継ぎ、早何十年。
繁忙期には、バイトを集めて、落ちた梅をせっせと拾う。
従業員と楽しく明るく日々を過ごす明子だったが、明子にも悩みや後悔がある。
その一つが、一人息子の雄大である。
女手一つで大事に育て上げたのに、嫌なことがあるとすぐに逃げ出すダメな男。
二度の離婚に借金まみれ。
やっと実家に帰ってきたと思ったら、すぐに家業に音を上げ、妻を置いて家を飛び出してしまった。
雄大が置いていった義理の娘の沙羅。
不思議と馬が合い、沙羅の影響で明子もヒップホップの世界を知ることになる。
そんな時、偶然にも雄大がラップバトルの大会に出場することを知った明子。
これまで幾度も言葉を尽くして思いを訴えてきたが、何も伝わらなかった。
何を言っても、息子は逃げてきた。
でも、ラップバトルなら逃げることなんてできない!
「きっとこれが、人生最後のチャンスだ」
明子はマイクを握り立ち上がるーー!
ここに、母・明子と息子・雄大のラップバトルが繰り広げられる!
レペゼンってなんぞや?
そもそも、レペゼンって言葉が一般的に知らない人が多いんじゃないかと思います。
私も聞いたことがなくて、だからこそつい読んでしまったのですが。
レペゼンって、ヒップホップでよく使われる言葉です。
ヒップホップのアーティストが、どこかの地域を代表する意思(さらにはその地域を愛する意思)を表明する際に用いる語とされています。
元々は、represent(レプリゼント)という英語から来ていて、「~を表現する」という意味があります。
でも、レプリゼントだと語呂が悪く、短くなって、レペゼンになったようです。
「レペゼン〇〇」と自身の出身地域の前に「レペゼン」とつけてシャウトしたり。
「レペゼン地球!」なんて言い方も良くされるみたいですね。
ラップってちょっと……って人でも無問題!
正直、ヒップホップとか、ラップってまったく興味がありませんでした。
職場の先輩たちが最近はまっているんですけど、
「なにがおもしろいんだろー」
と遠めに見ていました。
そんな私でも、『レペゼン母』はすごく楽しく読めました!
いやね、ラップ知らなくても本当におもしろい。
むしろ、さっぱりわからなかったラップというものを、初心者用に教えてくれているようなところもあるんですね。
そもそも、明子が60歳を超えるおばさま。
当然、ラップもヒップホップも知らないどころか、苦手意識すらある。
そんな明子に、義理の娘の沙羅がラップを教えていくんですね。
だから読者も一緒になって、学ぶことができる。
そして、明子の明るく豪放な性格がまたラップにあっている。
梅農家のおばさまとラップが混ざり合うとどんな化学反応が起きるのか。
読んでいて、ラップが分からない人もわくわくすること間違いなしです。
親子の絆を再確認する作品
おばさま×ラップというだけでも正直楽しく読めます。
でも、それだけでは終わらないのが『レペゼン母』。
タイトルどおり、明子は、すべての母を代表してるんですね。
いや、実際に代表しているわけじゃないんですけど、多くの母親が感じたり、苦悩したりすることを代弁してくれるんです。
明子と息子の雄大はあまりうまくいっていない親子。
若くして夫が亡くなり、女手一つで育ててきたのに、小さい頃から問題を起こしては明子がしりぬぐい。
逃げグセができた雄大は、ようやく実家に帰ってきても、嫁だけおいて逃げ出す始末。
自分のなにがあかんかったんか。
子育てに悩む明子の姿って、どこか共感する部分があります。
明子が雄大にぶつける想い。
それに返す息子の想い。
どっちも相手のことを想っているのに素直になれなくて、ケンカもたくさんして。
それでも、どこか繋がりを大事にしたいところもあって。
親子って、疎遠になったように見えたって、やっぱり親子なんだって感じてしまいます。
おわりに
私はここ数年、新人賞受賞作をざーっと読んできてるんですが、その中でも、『レペゼン母』はすごくよかった!
新人とは思えないくらい展開も良くて、わかりやすく、ぐっと引き込まれる。
ほぼ休みなく一気に読み切ってしまいました。
現時点では、『レペゼン母』しか出ていませんが、宇野碧さんの次の作品もとても楽しみです。