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シャチと人間の絆にグッとくる。永原皓『コーリング・ユー』あらすじと感想。

シャチというと、海のギャングなんて異名もあり、どこか怖いイメージがつきまといます。

でも、この本を読むと、賢くてかわいい生き物だと思ってしまいます。

今回読んだのは、永原皓さんの『コーリング・ユー』です!

第34回小説すばる新人賞(2021年)の受賞作になります。

著者の永原皓さんは、1965年生まれの方なので50代後半で受賞したことになるのかな。

舞台が日本でない分、新鮮な気持ちで読みました。

ここでは、『コーリング・ユー』のあらすじや感想を紹介していきます。

『コーリング・ユー』のあらすじ

海洋研究所に勤めるイーサンと飼育員のノアのもとに、国際バイオ企業からある依頼が舞い込んだ。

世界環境を救うかもしれない微生物を収めた貴重なキャニスターが、海底深くに沈んでしまったのだという。

それをシャチを訓練して取りにいってほしいというのだ。

何度も回収を試みたものの、企業側は万策尽き、イーサンたちに白羽の矢を立てたのだった。

ほどなくして、訓練用の子どものシャチが到着する。

そのシャチはセブンと名付けられた。

セブンはロシア近海で、いとこのエルとともに人間に捕獲されたシャチであった。

企業側が提示する期限はわずか二ヵ月。

通常であればとても訓練が間に合うはずがないのに、セブンはイーサンやノアの予想を遥かに超える理解力を示す。

また、その中で、セブンが愛情深く、好奇心旺盛で、他動物と言語によるコミュニケーションが出来ることに気づく。

ある日、外洋での訓練中、離れ離れになったエルが苦境にあることをクジラから聞かされる。

エルのことを心配して不調に陥るセブン。

イーサンは、苦心の末に、セブンの不調の原因を突き止めることに成功する。

そして、セブンに約束する。

エルとともに家族のもとに帰してみせると。

セブン(カイ)の視点での物語が新鮮

『コーリング・ユー』の特徴の一つとして、セブンの視点での話があるところが挙げられます。

シャチから見た人間やほかの生き物ってどんなものなのかなってなかなか想像しませんよね。

群れのおばさんのことを恐れていたり、好奇心のままにいろんなところに首を突っ込んでみたり。

登場人物への感情移入するのって、その人物の内面を知りながらだと思うんですよね。

そういう意味では、人物ではないですが、セブン視点が描かれることで、よりセブンへの愛着もモテたのかなと。

シャチの視点と人間の視点。

これが交互に現れながら、物語を補足していくので、セブンのことがどんどんかわいく見えてきます。

意外と知らないシャチの生態にも触れているので、そういった意味でも勉強になる小説でした。

研究者として、人間として

研究者って、なにもかも捨てて研究第一ってわけではないんですよね。

人それぞれ大切なものは違いますし、ふつうの人と同じように家族や恋人がいたりもします。

セブンというシャチは、研究者からしたら恰好の素材だったはずです。

通常のシャチやイルカと比べて圧倒的に学習能力が高い。

多種族の言語も理解し、少ないながらも話してコミュニケーションを取ることができる。

イーサンや、研究所の所長もそのことにすぐに気づきます。

本来なら研究に回されてもおかしくはない。

でも、セブンを家族のもとに帰してあげたいという気持ちが、研究者としての立場を越えていきます。

それは研究者としては間違った姿なのかもしれません。

でも、寝食を忘れるほどにセブンに尽くすイーサンは、セブンのためになることをしようと決断したわけです。

それが間違っているとはとても思えませんでした。

おわりに

基本的に私はハッピーエンドが好きです。

だから『コーリング・ユー』の終わり方についても、特に文句はない。

でも、後半は偶然というか、ものすごい幸運の連続のようなところもあり。

そこだけちょっと気になったかなと思います。

いいんですけどね、セブンが幸せなら読者としても幸せです。

舞台が日本でないので、ちょっと不思議な感覚のある小説でしたが、海外小説の翻訳とも違って、ちゃんと読みやすい小説です。

参考文献もがっつり載っていて、しっかり研究されて書かれたのだというのがわかりとてもよかったです。