斜線堂有紀

この恋は地獄だけど、それがよい。斜線堂有紀『君の地球が平らになりますように』

恋愛で短編となると、私がおすすめするのはこの小説家です。

正統派の恋愛とはちょっとずれている気もしますが、これも一つの愛だと楽しく読めます。

今回読んだのは、斜線堂有紀さんの『君の地球が平らになりますように』です!

斜線堂有紀さんといえば恋愛小説。

今回もかなり重ための愛がたくさん登場しています。

『愛じゃないならこれは何』でもそうでしたが、いろんな愛があっておもしろい。

ここでは、『君の地球が平らになりますように』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『君の地球が平らになりますように』のあらすじ

「君の地球が平らになりますように」

「『彼女と握手する』なら無料」

「転ばぬ先の獣道」

「大団円の前に死ぬ」

「平らな地球でキスはできない」

表題作でもある「君の地球が平らになりますように」では、地味で冴えない女子大生・小町が主人公。

同じサークルでちょっとクールで人気のある東が好きだった。

東の好みに合わせて、手の込んだ料理を学んでみたりするも、結局、東が選んだのは、小町よりもずっとかわいい女性だった。

そして数年が経ち、再会した東は陰謀論にどっぷりつかったやばいやつになっていた。

サークルの元メンバーからも避けられ、周囲から孤立する東を見て、小町が感じたのは失望……ではなかった。

いまの東となら自分でも付き合えるのでは?

まったく陰謀論に興味がないのに、東に合わせて、生活のすべてを変えていく小町。

そのかいもあって東との距離は近づいていくが……。

そのほか、結婚してくれないこと以外は完璧な彼氏との恋愛、自分だけを愛して大切にしてくれる人を欲しがるアイドル、推しのホストと結婚するために命をかける女性の話など、新しい恋愛の形がここにあります。

変わった相手をどこまで愛せるのか

恋愛において、相手の趣味や好みに合わせていくことってけっこうあるもの。

でも、生活を根本から変えていくのってかなりすごいことですよね。

表題作の「君の地球が平らになりますように」の主人公である小町は、東の好みに合わせて躊躇なく自分を変えていきます。

それでも大学時代は縁を結ぶことができなかった。

陰謀論にはまった東は、飲み物でさえも、沸騰させた白湯以外は受け付けない。

それも、冷ますときには時間をかけてうちわであおぐという徹底ぶり。

料理一つ作るのに三時間もかかり、完成したものはとても味が薄い。

東が大学時代に付き合っていた元カノも、そうした変わっていく東を見て、一緒にいることができなくなって別れます。

愛があればそんな相手でも平気なのか。

ふつうだったら、なんとか元に戻ってもらおうと努力はするでしょう。

でも、それでもどうしても受け止めてもらえないなら、距離をあけるしかないのかな。

そう考えると、小町の愛もまた、常軌を逸していたんでしょうね。

以前読んだ、黒木渚さんの『予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる』も、好きな男子に自分を合わせて変えていく話でしたね。

こうした、周囲からはなかなか理解できないような情熱って、強いものを感じます。

一生一緒にいるのだから、ある程度妥協したり、相手に合わせるのって当然あるのですが、その可能な範囲がお互いにがちっとうまくなることって少ないのかなって思います。

誰かに愛されたい気持ちは誰にだってあるもの

割と好きだったのが、「『彼女と握手する』なら無料」でした。

この主人公はアイドルをしている黒藤えいら。

ファンはえいらと握手するために3000円払っている。

自分のためにお金をかけてまで握手したり、チェキを取ったりしてくれる熱狂的なファンも、気づけばいなくなったり推し変をしてしまったり。

自分だけを愛してくれる対象が欲しくなるのって不思議なことではないのだろうなって。

ファンに愛を売るのがアイドルだったとしても、ファンからの愛は、それは純粋な愛なのかってわからないものですよね。

職場の先輩もアイドルファンを長年しているけど、十年以上の付き合いの中で、ころころ応援している対象が変わっています。

別にそれも一つの楽しみ方なのでいいと思うんですけど、やっぱり大変な世界なんだろうなって感じます。

いつかどこかで途切れる愛のために愛を送り続けるのって。

そんなこんなでえいらにも彼氏ができるわけですが、いざできてしまうと、ファンほど自分を大切にしてくれない。

そこにもどかしさを覚えてしまう姿もまた人間らしくてとてもよい。

ほかの短編でもそうでしたが、『君の地球が平らになりますように』では、相手からの強い思いを求める姿が多くて、なかなかにきつい生き方だなーって。

でもそれがおもしろい。

おわりに

元々、斜線堂有紀さんの本を手にするようになったのは、YouTubeの『ほんタメ』であかりんが紹介していたことがきっかけですね。

そのときは、『愛じゃないならこれは何』のほうだったのかな。

読んでみたら独特のセンスで強烈な恋愛模様が描かれているから一気にファンになりました。

今作でまだ二作目なので残りをこれから読んでいくのが今から楽しみです。