少年事件というとピンとくる人は少ないのではないかなと思います。
ときどき、センセーショナルな事件が起きても、少年法による保護もあり、詳細は世の中に出てきません。
事件が起きて、どう調査があって、裁かれるのか。
意外と知らないものなんですよね。
そこに突っ込んだめずらしい小説です。
今回読んだのは、乃南アサさんの『家裁調査官・庵原かのん』です!
家庭裁判所調査官を目指す人なら一度は読むことをおすすめできる一冊です。
調査官の仕事や苦悩がすごくわかりやすく描かれています。
少年非行に携わる人、全般にとって、価値のある小説です。
Contents
『家裁調査官・庵原かのん』
家裁調査官である庵原かのん。
3年ごとの異動で、福岡県へとやってきた。
福岡家裁北九州支部の少年係調査官は、50代の勝又主任調査官を筆頭に、鈴川、50手前の巻、20代の若月、それにかのんの五名で構成されていた。
かのんたちのもとには、日々、新しい事件が送られてくる。
常時、7~8件の事件を抱えながら、その少年にとって一番いい処遇は何かと頭を悩ませていた。
時には、遠距離恋愛中でゴリラの飼育員をしている恋人に愚痴を聞いてもらいながら。
様々な事情を抱えた少年たちに対して、かのんは何を思い、何を伝えていくのか。
そもそも家裁調査官とはなにか
そもそも家裁調査官ってなんぞやってところからですよね。
割と知られていない仕事の一つです。
家庭裁判所に勤める家庭裁判所調査官。
家裁は、離婚・遺産相続をはじめとする家庭内のあらゆる問題と少年が起こした事件を扱う裁判所のことを言います。
それぞれ家事事件と少年事件って言い方をしますね。
家庭裁判所は全国に50か所あって、支部が203か所、出張所が77か所あります。
例えば埼玉県だと、家庭裁判所がさいたま市浦和区にあり、支部が川越支部と熊谷支部の二つで、県内で3か所あることになります。
『家裁調査官・庵原かのん』で扱うのは基本的に少年事件です。
19歳までの少年が犯した事件について、今後どういった処罰が必要かを考えていきます。
少年法では、更生保護を第一としていることから、大人のように罪の重さだけで処罰は決まりません。
同じような事件であっても、大人なら懲役をくらうところを社会に帰って保護観察ってこともありますし、大人だと罰金で済むところを、少年院で一年間矯正教育を受けることもあります。
じゃあそれをどうやって決めるのか。
最終的な決定は裁判官にあります。
審判不開始とか、不処分といったそもそも処分をしないものもあれば、保護観察という家に帰るけど一定の決まり事を課すもの、少年院送致という施設に収容するものまでいろいろあります。
その処分を決めるための資料を集めるのが家裁調査官というわけです。
検察側から事件が家裁に送られてきて、まず第一段階でその資料を読み込みます。
在宅事件(社会にいながら調査官の調査を受けること)の場合、対象の少年に家裁に来てもらって面接をします。
少年だけでなく、保護者や、必要によっては学校や勤務先からも事情を聞くことになります。
そうやって調査したものから、家裁調査官は調査票を作成して裁判官に提出します。
まあなかなか正直に話に応じてくれる少年ばかりではないですし、いろんな家庭の問題を目の当たりにするので、大変な仕事だと思います。
調査官の仕事が知りたいなら必読の一冊!
『家裁調査官・庵原かのん』って、かなりいい本なんですよ。
同じように家裁調査官を扱った小説っていくつか思いつくものがあります。
たとえば、伊坂幸太郎さんの『チルドレン』と『サブマリン』。
こちらは、かなりくせのある家裁調査官が出てきますね。
調査官の仕事を知るというよりも、エンタメ要素が強いので楽しく読めますが、具体的な仕事ってところでは情報量は少なめ。
松下麻理緒さんの『不在者 家裁調査官加賀美聡子』だと、調査官の仕事よりも、とある事件に焦点をあてたミステリーみたいな感じです。
小説っていう枠組があるから、あまり仕事の紹介になると、全体的に重たくなってしまいますからね。
でも、本書はそのあたりをうまく書いているなって思います。
単純なおもしろさなら伊坂幸太郎さんが最高なんですが、仕事を知るのであれば、『家裁調査官・庵原かのん』が優秀です。
最後まで読むだけで家裁調査官の仕事(少年事件については)がどんなふうに行われるのかがわかると思います。
また、少年を扱った仕事だからやっぱり大変なんですよ。
そのあたりの職業人として感じるいろんな気持ちも見えてきますし、少年事件を生み出す背景っていうんですかね。
家庭の問題や、少年たちを取り巻くものが見えてくるのではないかなって思います。
おわりに
職業をあつかった小説ってけっこうあると思うんですが、これはかなり家裁調査官について詳しく描いた小説だなと思います。
一部、「こうだっけ?」と思うところもあるんですが、まあそこは専門家ではないからしょうがないのかな。
仕事を知る上でも、単純に小説としてもいいものだったと思います。
家裁調査官とか、少年事件に興味がある人にはとてもおすすめです。