渡辺優

特別でありたい私が生み出したもの。渡辺優『アヤとあや』あらすじと感想。

人と違ったなにかを持った特別な存在。

自分が特別でありたいと思うことって誰にだって一度くらいあったのではないかなって思います。

そうした気持ちって年を経ると少しずつなくなっていくのかな。

今回読んだのは、渡辺優さんの『アヤとあや』です!

特別であるということが、人にどんな影響を与えるのかなって考えさせられる一冊です。

ここでは、『アヤとあや』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『アヤとあや』のあらすじ

小学校5年生の亜耶は特別な少女だった。

画家である父親のモデルをしたときから、常に自らの美意識と神秘性に特別なものを感じていた。

しかし、亜耶は自分の神秘性がどんどん薄れていっていることを危惧していた。

自分がふつうの人間になってしまうのではないかと、常に恐れを抱くようになっていた。

小学校の担任は、そんな亜耶の様子を気にかけて、モデルはつらくないかと尋ねてくるけど、それを的外れな心配だと考えていた。

亜耶には、いつも近くにもう一人の存在がいた。

それが彩だ。

いつの間にか亜耶の側には彩がいるようになり、亜耶にいろんな提案をする。

学校に大勢いるただの凡人になり下がりたくないと、彩と共に「特別な」何かをしようと決意。

そんなある日、亜耶のクラスメイトがナイフを学校に持ってきたと騒いでいた。

そこで彩は亜耶に告げる。

「ナイフがほしい」と。

特別ななにかでありたいという思い

特別でいたいって思うことは、生きていれば誰にでもあるのかなって思います。

振り返ってみれば、小学生の頃だって、何人かは無茶をしてみんなの注目を集めようとした子っていましたよね。

私はそこまでではなかったですが、それでも友達の注意を惹こうとするような発言はあったかも。

人気がある同級生がいれば、その人に認められたいなんて気持ちもあったし、ちょっと人と違う自分ってのを欲していたところもあったと思います。

そういう部分って割と誰にでもあって、それが大人になるにつれて、現実を知るというか、フラットになるというか。

特別じゃなくたって大したことはないんだなって気づくようになります。

ただ、やっぱりそこをわかるようになるのって、

「特別でありたい!」

という思いを一度持った上で、

「いや、やっぱりそんな大それたことは必要ないんだ」

という経験をするからなんでしょうね。

それがまったくないまま大人になってしまうと、いつまでたっても、

「自分は特別!」

が抜けきれないままなのかな。

それが悪いことばかりではないですけど。

それによって大成功をおさめる人もいますからね。

でも、大概の場合は、周囲から変な人だなって目でみられがち。

その他大勢でいるためには、そことの決別はいつかしなくてはいけないのかなって感じます。

もう一人の自分

亜耶にとっての彩は自分を特別にするための存在。

彩が見えなくなったら、そのときには自分はもう特別じゃなくなってしまう。

そんな恐怖を抱えながら生きていました。

この彩ってどんな存在だったんでしょうね。

自分にとっての理想を実現してくれるもの?

でも、彩がいてもいなくても、亜耶には変わりないわけなんですよね。

自分ができない願望を口に出してくれる存在なのかな。

自分が一歩踏み出せないときに背中を押してくれる、みたいな。

よく、理想と現実なんて言葉を使います。

自分の願望というか、こうなりたいってものは、言葉にしなくても心のどこかに誰しも持っているのかなと。

彩は、まあ亜耶がこうなりたいって思っているものとは違うかもですが。

ただ、もう一人の自分って、そういうイメージがあるんですよね。

自分が成しえなかったものを持ったものだったり、こうなりたいってものだったり。

だから、それをイメージできていると、そこに向かって進もうって思えるのかな。

実際に、大人になって生きていると、そうした気持ちからはどんどん遠ざかってしまう。

現実の自分が大きくなって夢を見る機会もすこしずつ失われていきます。

もう一人の自分がいたらどんな風になっているのかなと、ふと思わされる小説でした。

おわりに

なんだか、すごく不思議で考えさせられる一冊でした。

特別な存在ってなんなんでしょうね。

特別になったとして、そこで何が得られるのかって難しい問題です。

自分や周囲が特別と感じていてもそうじゃなくても、自分でいることには変わりないのだから。

一時的な満足とか承認欲求とかはあっても、時間がたつとそれって意味を失くしてしまうのかなって。

「読んだ!おもしろかった!」

というよりも、

「うーん、自分だったらどうなんだろうなー」

としみじみ考えさせられるような読了感でした。