夏目漱石

【5分でわかる】夏目漱石『門』のあらすじと感想。

夏目漱石の前期三部作と呼ばれる小説。

それが『三四郎』『それから』『門』の三作品になります。

今回はそのうちの『門』についてあらすじや感想を紹介していきます。

前期三部作は、それぞれ登場人物も内容も違いますが、ざっくりいうと、

〇『三四郎』⇒失恋

〇『それから』⇒不倫、略奪愛

〇『門』⇒不倫による結婚後の家庭生活

といった形で関連があります。

この流れを知った上で順番に読んでいくとなお楽しめます。

夏目漱石『門』の登場人物

〇野中宗助

『門』の主人公。

大学を中退してから役所勤めをしている。

親友の妻を奪って結婚したことから、後ろめたさを感じ、明るい生活を望まなくなっている。

基本的に無気力で、ことを荒立てることを嫌う。

〇御米(およね)
かつて安井の内縁の妻であり、現在の宗助の妻。

子どもを立て続けに亡くした原因が自分にあると信じ、胸に暗い影を落としている。

〇小六
大学に在学中の宗助の弟。

伯父方の家にやっかいになっていたが、伯父の死により、宗助のところで暮らすようになる。

宗助が小六の学費のことで伯父夫婦に掛け合ってくれないことをもどかしく思っている。

〇安井
宗助のかつての友人であり、御米の元・内縁の夫。

御米を宗助に奪われたあと姿を消す。

〇坂井
宗助の住む家の屋主。

金持ちであり、穏やかな生活。

家に泥棒が入ったことがきっかけで宗助と縁を持つようになる。

〇佐伯
宗助の叔父。

事業を行っているが、失敗をすることも多い。

宗助の父親が死んだときに、財産の処分などを請け負ったが、金額等を明かそうとしなかった。

夏目漱石『門』のあらすじ

宗助と御米

野中宗助は、妻の御米(およね)と二人で、静かに地味な生活を送っていた。

役所で働いているものの、安月給であり、裕福とは言いがたい環境であった。

 

宗助は事情により大学を中退しており、東京の家にも帰れず、広島で生活をしていた。

そんなおり宗助の父親が亡くなり、そのときに財産の処分を叔父である佐伯が一手に引き受けてもらうこととなった。

しかし、具体的な財産の金額などを佐伯は明かさずにしていた。

それでも宗助のもとには二千円あまりの金が残ることに。

宗助は、弟の小六の学資として幾分かは使わなければならないと思い、思い切ってそのうちの千円を佐伯に預け、小六のことを何分よろしく頼むと託したのであった。

その後、佐伯に任せていた家が売れたとの連絡がきたが、佐伯からは金額について触れることはなく、ただ「立て替えていた金を償うには足りる金額だから安心するように」とだけ返事がきていた。

内容に不満を持つ宗助であったが直接東京に行くわけにもいかず、手紙でやり取りを行う。

しかし、いつまでたっても進展がなく、そのうちに「仕方ない」「我慢するさ」というようになっていた。

「そのうちに好いことがある」と慰める御米だが、宗助は、

「我々は、そんな好いことを予期する権利のない人間じゃないか」

と投げ出してしまう。

宗助も御米も、過去の過ちにより、自らの未来を閉ざしてしまっていた。

伯父の死

宗助と御米は、宗助の友人の手配で東京に居を構えることとなる。

父親の死後、叔父夫婦のところに世話になっていた小六は大きくなっていることに宗助は驚く。

東京に来るまでは気にしていた家の売買の話は、御米がどうするのかと尋ねても、宗助ははぐらかし、理由をつけてはほったらかしにしていた。

しまいには、「どうも言うのが面倒になった」と言い出す始末。

 

そんなある日、叔父がとつぜん亡くなってしまう。

叔父に援助をしてもらっていた小六は、宗助のもとを訪れ、叔母から、もう学費を出すことはできないと言われたことを相談にきたのであった。

叔母は宗助が小六の学費として預けた金を「あんな金とっくになくなっている」という。

家を売った金についても、「あんなことをしでかしたのだから一文だって取る権利はない」といわれ、叔父が使ってしまったことを悪びれもせずにいうのであった。

結局、小六の世話を引き受けることになった宗助。

大半の父親の財産は叔父夫婦によって取られてしまったが、唯一残っていた屏風を持ち帰り古道具屋に売ることとした。

坂井との縁

ある夜中に、御米が大きな物音で目を覚ますが、そのときは特に異常はないように感じられた。

翌朝、宗助が周囲を気にしてみると、崖の上から誰かが滑り落ちた様子が見られ、黒塗の蒔絵の立派な箱が放り出され、書類が散乱していた。

宗助たちの家の家主であり、崖の上に住んでいる坂井の家に泥棒が入ったのだと考える。

翌日、宗助がそれを坂井の元に届けたことをきっかけに、2人の交流が始まる。

坂井は話好きで、宗助と会うと、しばしば一時間も二時間も話をしていくのであった。

しかし、縁があるもので、以前、宗助が古道具屋に売った屏風を坂井が買っているということもあった。

宗助と御米の罪

坂井家を訪れることが増えた宗助。

自然と坂井家の話をする中で話題が子どものことへと移る。

御米はこれまで3回妊娠したが、いずれもうまく育てることができず亡くなっていた。

「私はとても子どものできる見込みはない」と泣き出す御米。

御米はその原因を占い師に聞いたところ、「かつて人に対して済まないことをしたからだ」と言われたのだといい、宗助に謝罪をするのであった。

大学時代、宗助には安井という友人がいた。

ある日、宗助が安井の家を訪ねた際に出迎えてくれた女性が御米であった。

安井に御米のことを妹だと紹介された宗助であったが、実は安井の内縁の妻であった。

宗助と御米は、何度も会ううちに互いに惹かれあっていく。

ついには二人の関係は暴露してしまう。

親を捨て、親族を捨て、友人を捨て、一般の社会さえも捨てて一緒になることを選んだのであった。

春と冬

正月の挨拶に坂井家を訪ねた宗助は、坂井から坂井の弟とその友人と食事にいかないかと誘われる。

その友人というのが安井という人物だと聞かされ、それが自分が裏切ってしまった友人の安井であると考え恐怖を覚えるのであった。

安井の帰国から逃れるように宗助は鎌倉の禅寺へと赴く。

禅寺で座禅をしながら暮らしながらも、宗助の無明は一向に晴れることはない。

宗助は、10日間ほど世話になったあと、礼と悟りに至れなかった謝罪をしつつ、禅寺をあとにする。

坂井のもとを訪れた宗助は、すでに坂井の弟と安井が日本を出ていることを知り安堵する。

月が変わり、役所の人員整理も終わったが宗助は整理の対象から外れ、昇給もすることができた。

小六も坂井が書生として受け入れてくれ、どうにか生活がまわりそうである。

「本当にありがたいわね。ようやくの事春になって」と晴れ晴れしい様子を見せる御米。

しかし宗助は「うん、でもまたじき冬になるよ」と下を向きながら答えるのであった。

前期三部作の三作目の『門』

夏目漱石の前期三部作と呼ばれる『門』。

『三四郎』『それから』に続く三作目となります。

最初に書いたように、『それから』では不倫の末の略奪愛を描いていましたが、『門』では不倫によって夫婦となった二人のその後の生活を描いています。

これが全体とおしてどうにも暗い雰囲気。

読み始めは、なぜこの二人はこんなにも後ろ向きなのかと疑問に思います。

読み進めるうちに、二人の過去や親族との関係も少しずつ明らかになり、その疑問も氷解していきます。

『門』を一作品として見てもそれなりに楽しめますが、前期三部作というだけあって、『三四郎』『それから』にこもった想いを思い返しながら読むと『門』の暗い部分が浮き彫りになります。

未来と過去のどちらを向くのがよいのか

さて、『門』の宗助と御米の夫婦。

いつまでたっても明るい兆しが見えなかったのですが、最後の最後で、弟の小六は坂井が面倒を見てくれ、宗助も昇級し、少しだけいいことが続きます。

御米は春を連想し、宗助はすぐに冬になるといいます。

未来を見ようとする御米と、過去に縛られてままの宗助という印象も私は持ちました。

安井の登場を知る宗助は、安井から逃げるように禅寺にいき、何も悟ることができずに帰って来た。

戻ってからも、坂井からすでに安井が日本にいないことを教えられ安堵する。

その宗助の気持ちは罪悪感からなのか、自分の罪を目の前に叩きつける存在から逃げ出したいだけなのか。

少なくとも過去にばかり囚われた宗助の今後は明るいものには思えません。

一方で御米は、自身の罪を宗助に告げたからでしょうか。

少しだけ前に踏み出しているようにも感じられます。

過去は縛られ囚われるだけのものではない。

向き合うことで一歩前に進む力にも変わるもの。

そこが宗助と御米の違いだったのかなぁとも。

ただ、夫婦ですし、宗助がこのままではきっと御米もまた諦めに似た感情を持ってこのまま生きていくことも考えられ、どうにもすっきりとしない終わり方をしています。

二人は幸せになってはいけないのか

不倫の末の結婚。

もうこれだけ聞いても周囲からの目は厳しいことがわかりますね。

現代日本であっても、不倫と聞いていい印象を持つ人はいません。

これだけドラマや小説でも不倫や略奪愛をテーマにしたものがあふれ、人気を持っていても、やはり倫理的によくないという印象はあるもの。

特に『門』の時代でいえばそれはより顕著ですね。

家族、友人とも縁が切れ、学校も辞めさせられ、静かに暮らす生活を余儀なくされる。

ただ、思うのは、すでに宗助も御米もそれだけの代償を払っているということ。

そのうえ、未来までまだ暗いとあっては何も救われるところがないです。

『それから』でもそうでしたが、ほかのいろんなものを投げ捨ててでも一緒にいることを望んだのならそれでいいのかなと感じます。

周囲のことをそれ以上に気にすることはなく、いま目の前にいる相手を思はねば、なんのための大恋愛だったのかという気にもなります。

決して不倫を擁護する気持ちはないですが、必要以上に自分たちを貶めることもないと感じさせる一冊でした。

おわりに

夏目漱石の『門』。

そこまで自分好みの作品ではないですが、前期三部作として見た場合、『門』単作以上の価値がある作品だと感じます。

テーマがテーマなのでどこまで共感できるかは読者次第。

読んでいてもどかしさもありつつ、そういうものなのかもしれないとも思わされます。

もし読むとしたら、『三四郎』『それから』を読んでから挑戦することをおすすめします。