夏目漱石

【5分でわかる】夏目漱石『それから』のあらすじと感想。

恋愛を題材とした小説やドラマがたくさんある中、実際に起きると大変だけど、とても人気のあるジャンルがあります。

それは略奪愛。

いわゆる横恋慕というものですね。

夏目漱石の作品の中にもそれをテーマにしたものがあります。

今回紹介するのは、夏目漱石の『それから』です。

前期三部作の一つとされる『それから』。

『三四郎』から続けて読んだのですが、いきなり漢字が多くなって驚きました。

こういう相手への想いの積もらせ方もあるのだなと感じながら楽しくよませてもらいました。

ここでは、『それから』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『それから』の登場人物

長井 代助(ながい だいすけ)

長井家の次男。

東京帝国大学を卒業し、数え年で30歳となる。

家は裕福であり、仕事はせずに、読書や演奏会に行くなどの気ままな生活を送っている。

生活費は毎月、実家からもらい、芸者遊びなどで借金をしてしまったときも、すべて立て替えてもらっている。

いわゆる高等遊民と称される有閑知識人。

お金は実家にもらっているのに、家族からの説教はやり過ごし、家族のことも下に見ている。

平岡 常次郎(ひらおか つねじろう)

長井代助とは中学校時代からの友人。

代助が想いを寄せる三千代の夫。

銀行に就職し、京阪の支店に転勤していたが、職を失い借金を抱えて東京に戻ってきた。

なかなか仕事が見つからず困窮したからか、家庭はあまりよろしくない。

家に寄り付かずに、酒を飲み歩き、家計はどんどんと悪くなる。

ようやく新聞社に就職することになるが、かなり忙しく働き、これまた家になかなか帰らない。

平岡 三千代(ひらおか みちよ)

平岡 常次郎の妻で菅沼の妹。

色白で、顔はほっそりとして、眉はくっきりとして、二重まぶたで、金歯がある。

高等女学校卒業後(18歳)に兄に呼ばれて東京に出たことで、代助・平岡と知り合いとなった。

母と兄を失った年の秋に、代助の周旋で平岡と結婚する。

病を持ち、体調はあまりよくない。

菅沼(すがぬま)

平岡 三千代の兄(故人)。

代助の大学時代の学友であり、平岡とも親しい付き合いがあった。

菅沼の存在によって代助や平岡は三千代と出会うこととなる。

菅沼が卒業する年の春、母とともにチフスにかかり亡くなる。

門野(かどの)

長井 代助の家の書生。

かなりのんきそうな性格。

代助の話に対して、「そうですなー」と返すことが多く、そこが逆に代助に気に入られて書生となった。

物語上、特に重要な役割があるわけではないが、代助の手紙を三千代に持っていったり、こまごまとして用事をこなしたりとかなり精力的に動いている。

長井 誠吾(ながい せいご)

長井 代助の兄。

学校卒業の後、父の会社に入り、将来的には家を継ぐ予定。

青山の家に、妻子および父と同居している。

代助の愚行に対してこれまでも何度もしりぬぐいをしてきている。

それでもいつかは代助が自分の立場を理解して心を入れ替えると信じていた。

長井 梅子(ながい うめこ)

長井誠吾の妻で代助にとっては兄嫁となる。

独身である代助を心配して縁談などいろいろと世話を焼く。

家族の中でも代助が気安く会話を交わすことのできる人物。

代助が金に困っていると、夫たちには内緒で代助を度々援助してあげている。

『それから』のあらすじ

長井代助という男

長井代助は一軒家を構える30歳になろうかという男。

長井家の次男で、実家は事業を行っておりかなり裕福。

書生の門野を置き、父親の援助で悠々自適の日々を送っている。

代助は東京帝国大学を卒業したが、そのあとも働くことをよしとせず、読書をしたり、演奏会などに通ったりしていた。

そうした態度を父親もよく思わず、度々説教を受けるが、代助はその場をやり過ごせばよしと真剣に聞こうともしない。

佐川という財閥の令嬢との婚儀を勧められるが、代助にはその気がなく話はうまくいかない。

それでいて実家からは毎月生活費や遊行費をもらっているのだからだめな男である。

長井家で代助が唯一心を許して話をするのが、兄嫁の梅子であった。

梅子も仕方がない弟だと思いながらも、親身になって代助の世話を焼いてくれていた。

平岡と三千代の帰京

あるとき、平岡という友人とその妻の三千代が東京に戻ってくる。

平岡は代助の親友であり、大学卒業後は銀行に就職し上方の支店勤務となった男である。

ちょうどそのころ、三千代の兄であり、代助と平岡の共通の知人だった菅沼が、大学卒業を目前にして母親と共にチフスにかかって亡くなってしまう。

家を支えていた兄が亡くなり、妹の三千代には北海道で困窮している父親しか親族がいない。

代助は、三千代の今後を心配し、銀行勤めの平岡と二人を夫婦にしたのだった。

順調そうに見えた結婚生活であったが、平岡と三千代との間の子どもが亡くなり、三千代は体調を悪くするようになる。

一方平岡は、部下が職場の金を使い込んでしまい、その罪が支店長に及ぶのを避けるため責任を取らされてしまう。

仕事を失った平岡はしばらく放蕩をしていたが、三千代と共に上京し、代助に就職斡旋を依頼するのであった。

なんとかしたいと思う代助であったが、特に大きなつてがあるわけでもなく、なすすべを持たなかった。

ただ、三千代が幸せでいるのかが気がかりであった。

代助の後悔と三千代への想い

平岡は東京に戻ってきてからしばらくは、就職先を探そうと精力的に動いていたが、うまくいかず、だんだんと家に寄り付かなくなり、飲み歩くようになる。

代助は、平岡なら三千代を幸せにできると思い、二人の仲を取り持ったことを後悔し始める。

ときには代助が平岡の不在時に家を訪れては三千代を慰めることもあった。

代助は、その頃から何をするにしても三千代のことが頭に浮かぶようになってしまう。

そんな中、ようやく平岡は新聞社に就職が決まる。

働き出してからも平岡は仕事の忙しさも相まってさらに家にいる時間が減り、三千代を放っておくようになってしまう。

そんなある日、三千代が代助の自宅を訪ねる。

話を聞くと東京に出てくる前に、平岡は高利貸しから多額の借金をしており、そのうちの一部をどうしても返却しなくてはならない。

三千代は恥を忍び代助に500円の借金を頼みに来たのだった。

代助はなんとかしてやろうと思うものの、個人でお金を持っているわけではない。

だが、父親や兄にも頼めず、兄嫁の梅子に相談にいく。

梅子は、代助個人のためならいざ知らず、なぜ他人の借金のためにそれだけの金額を出さなければいけないのかと断られてしまう。

代助は、それまで自分は金には不自由しない身だと信じていた。

しかし、愛する女性が恥を忍んで頭を下げるのにすぐに用立ててやれず、実は不自由な身の上であったことを自覚する。

その後、梅子は父親や兄には内緒でこっそりと代助に200円を用立ててくれ、代助はそのおかげで三千代に対して面目を保つことができた。

それからしばらく、芸者遊びも控えていた代助が、久しぶりに料亭に顔を出すと平岡とばったり出くわしてしまう。

代助は平岡にさりげなく、家計のことなどを訪ねてみるが、平岡は、三千代が必死に工面していることを知らない様子である。

家に居ても面白くないと語る平岡に、代助は三千代を不憫に思う。

また、平岡と三千代の間が冷めていることを悟り、改めて平岡に三千代を委ねたのは間違いだったと感じるのであった。

三千代への告白

代助には、家の方からまた縁談の話が上がっていた。

梅子からもそろそろ親のいうことを聞き、身を固めるように説得を受ける。

しかし代助は、

「自分には好いた女性がいるのです」

と自分の想いを梅子に話すのであった。

梅子は代助の身の上を心配し、もう一度考え直すようにと伝える。

代助は、自身が縁談を受けるつもりがないこと、ほかに好きな女性がいることを父親が知る前に行動を起こさなければならないと判断し、三千代を自宅に招き寄せる。

そして代助は、

「ぼくの存在にはあなたが必要だ。どうしても必要だ。ぼくはそれをあなたに承知してもらいたいのです。承知してください」

と三千代に告白する。

三千代もまた代助にたいして想いを寄せていた。

しかし、平岡との結婚を周旋したのは代助であった。

代助の告白は平岡と結婚する前の3年前に聞きたかったと三千代は泣く。

一方、代助の父親である得は、事業を息子(代助の兄)に譲ることを考えていた。

代助には懇意にしている相手のところへ政略結婚をしてもらい、この事業を安泰させたいとも考えていた。

代助は父親が見せるそうした初めての態度や、歳をとった姿を見て心を揺さぶられるが、三千代への告白を重い責任だと考え縁談を断る。

得は好きにすればいいが今後援助は行わないと宣告するのであった。

代助の絶縁と決意

父親からの援助が期待できなくなった代助は、果たして今後自分が三千代を幸せにすることができるのかと不安を感じ始める。

その一方、代助は三千代との関係を平岡に話さなくてはならないと覚悟をする。

代助は平岡に会って話がしたいと手紙を出すが一向に返事が来ない。

門野を使いにやると三千代が倒れてしまったことを知る。

平岡に打ち明けることのできない代助との関係が、三千代の神経をすり減らしていたのであった。

三千代は平岡に対して、謝らなくてはならないことがあるので、代助のもとに行って話を聞いてくれるよう平岡に頼むのであった。

代助は訪ねてきた平岡に、三千代との一切合切を離す。

そして、三千代を譲ってくれるよう頭を下げて頼み込む。

平岡もこうなった以上、三千代を譲ることを了承するものの、病身で渡したのでは自分の義理が立たないから、せめて回復してからにしてくれと告げる。

そして、二人は互いに絶交するのだった。

しばらくして、兄の誠吾が代助の元を訪れる。

代助の実家に平岡から今回のことについて書かれた手紙が届き、誠吾は父親に代わり、それが事実であるのかを確かめに来たのであった。

父親は、今回ばかりはもう許すことができないと激しく怒り勘当を言い渡される。

誠吾もまた、いつかはわかってくれると信じていたのに最後までわかってくれなかったと、代助との絶縁を告げるのであった。

代助は恵まれた生活や家族を捨て、愛する三千代を選んだ。

そして自分自身でこの社会と向き合うことを決意し、代助は職業をさがして来ると門野に告げて、町に飛び出すのであった。

不倫はなんにもならぬと思わされる作品

夏目漱石の『それから』を読んでどのように感じるかは人それぞれ。

もしかしたら、

「そこまで三千代を想うなんてすごい!」

という感想を持つ人もいるかもしれませんが、私は単純に、

「不倫はだめよ。代助だめだめです」

と感じました。

何もしなくても順風満帆に生きていける土台のある代助が、どうしてそれをすべて捨て去ってしまうのか、ばかなのかとして思えませんでした。

それも不倫。

家族に勘当され、友人とも絶交し、働かなくてはいけない状態に追いやられ……。

この先、体の弱い三千代と二人で果たして生きていけるのか心配になるくらいですね。

しかし、平岡との関係がうまくいっていない三千代をみて、自分だけがこの女性を救えるのではないかと思いあがってしまう部分は誰にも多少はあるような感情かもしれません。

もし、三千代が平岡と上手くいっており、幸せそうであれば、こうした行動には出なかったことでしょう。

不倫を題材とした作品は、今もたくさん出ていますが、どれもやはりハッピーエンドとはいかないですよね。

東野圭吾さんの『夜明けの街で』も不倫をテーマにしていますが、こちらも女性や不倫の怖さを感じさせられるいい作品でした。

代助は幸せをつかめたのか

気になるのは代助の今後です。

果たして三千代と二人幸せになれるのでしょうか。

やはり読んでいて誰もが思うようにかなり苦労が必要になるのではないかと思います。

〇代助はこれまで一度も働いたことがない

〇当然、誰かにきちんと頭を下げたり、誠意を持って謝罪をしたこともない

〇技能としては多少外国語ができることや演芸に詳しいこと

〇三千代は体調が芳しくない(ヒステリーっぽくもなっている)

〇家族と絶縁され、今後の支援は見込めない

これだけでもかなり苦しそうですね。

そもそも代助は就職できるのかというところからでしょうか。

ときどき翻訳の手伝いを依頼してきた友人の伝手を頼れば、何かしらの職を手にすることができるかもしれませんね。

ただ、仕事をもらいにいったり、交渉したりをする代助は想像できません。

生活が困窮していても、三千代とともにいれれば幸せ……というのであれば、幸せなのかもしれません。

でも、『それから』の後半で代助が三千代と一緒に生活して、幸せにできるのかという不安にかられるシーンがあったように、代助自身は、困窮した生活をさせてしまうことに罪の意識を持ち、幸せは感じられないかなとも思います。

おわりに

さて、これで夏目漱石の前期三部作の2作目、『それから』が終わりました。

内容としてはおもしろいですが、主人公の代助が近くにいたらちょっといらっとしそうな相手で感情移入は少し難しかったです。

やはり不倫は良くないし、ちゃんと働けとした思えないですね。

とはいえ、人生の選択の重要性は感じられますし、人の想いというものを尊さも感じられる作品です。

次は前期三部作の最後『門』を読み進めていきたいと思います。