「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」
で始まる小説といえば?
そんなクイズをどこかで聞いたことがあるような有名な作品。
今回紹介するのは、夏目漱石の『坊っちゃん』です。
最近、夏目漱石作品を順番に読んでいっていますが、この『坊っちゃん』は断トツに読みやすい!
夏目漱石作品で何から読もうか迷っている人にはまずおすすめする1冊です。
ここでは、『坊っちゃん』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『坊っちゃん』の登場人物
〇坊っちゃん……本作の主人公。無鉄砲な性格で、よくいえば正直者、悪くいえば短気で考えなし。思ったことがすぐに行動に出る。家族仲はあまりよくない。
〇清……坊っちゃんの家に仕えていた下女。唯一坊っちゃんの味方だった人物で、坊っちゃんのことを大変かわいがっている。
〇狸……坊っちゃんが赴任する学校の校長。優柔不断でことなかれ主義。
〇赤シャツ……学校の教頭。帝大卒のエリートで、ハイカラな衣装に身を包み、芸者遊びも行う。うらなりの婚約者と交際するなど私生活は派手。
〇山嵐……数学の教師。正義感にあふれ、生徒からの人気も高い。坊っちゃんとは当初衝突をするものの意気投合する。
〇うらなり……内気で弱弱しいがほがらかな性格で坊っちゃんの良き理解者。マドンナの婚約者であったが、赤シャツに奪われてしまう。
〇野だいこ……画学の教師。赤シャツの腰ぎんちゃくで長いものに巻かれるタイプ。
〇マドンナ……うらなりの元婚約者で赤シャツの交際相手。
坊っちゃんがどんどんあだ名をつけていくので、こんな一覧になります。
『坊っちゃん』の中にもそれぞれの本名も出てきますが、あだ名の方がしっくりきますね。
登場人物の性格をイメージしやすいものになっています。
『坊っちゃん』のあらすじ
少年時代
「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」
(夏目漱石『坊っちゃん』冒頭より)
この言葉どおり、坊っちゃんは小さい頃から無鉄砲で考えるよりも体が動いてしまう性格。
小学校に二階から飛び降りて腰を抜かしたり、栗を盗みに来た上級生とけんかをしたり。
人参畑を荒らしたり、田んぼの井戸を埋めたりといたずらもたくさん。
そんな生活をしているものだから、父親はちっともかわいがってくれず、母親も兄ばかりをひいきします。
母親が病気で死ぬ数日前も母親を怒らせてしまい、兄からはお前のせいで母親が早く死んだのだといわれけんかにもなりました。
そんな中、下女の清だけは坊っちゃんの味方でした。
坊っちゃんが怒った父親から勘当を言い渡されたときも、泣きながら父親に謝ってくれました。
清は、「あなたは真っ直でよいご気性だ」と坊ちゃんをほめてくれて、いつもかわいがってくれます。
また、坊っちゃんが将来、家を持って独立したら、そのときはどうか私を置いてくださいといい、坊っちゃんもそれを約束するのでした。
少年時代に周りから好かれていなかった坊っちゃんでしたが、清だけはいつも暖かく坊っちゃんに接してくれていました。
学生時代
坊ちゃんが中学を卒業する年の正月に、父親が卒中で亡くなります。
兄は就職のため九州に行くことになり、家と遺産は売り払い、坊ちゃんへ600円渡して出て行きました。
清は坊っちゃんと離れることに難色を示しましたが、ほかのところへ奉公する気にはならず、坊っちゃんが家を持つようになるまではおいのところにやっかいになることに決めました。
坊っちゃんは、兄からもらった600円を使い、3年間物理学校で学ぶことにしました。
学校を卒業して8日目に校長からの口利きで、四国の中学校の教師を紹介されます。
坊っちゃんは教師になる気も田舎に行く気もなかったが、「行きましょう」と答えてしまいます。
これも親譲りの無鉄砲が祟ってのものです。
清との別れは名残惜しいものでしたが、土産を買ってくることを約束し、四国へと旅立ちます。
坊っちゃん教師となる
四国の赴任先は想像を超える田舎でした。
学校に行くと校長から教師の心構えを聞かされます。
校長は時計を出して見て、追々ゆるりと話すつもりだが、まず大体の事を呑み込んでもらおうと云って、それから教育の精神について長いお談義を聞かした。
おれは無論いい加減に聞いていたが、途中からこれは飛んだ所へ来たと思った。
校長の云うようにはとても出来ない。
おれみたような無鉄砲なものをつらまえて、生徒の模範になれの、一校の師表と仰がれなくてはいかんの、学問以外に個人の徳化を及ぼさなくては教育者になれないの、と無暗に法外な注文をする。
そんなえらい人が月給四十円で遥々こんな田舎へくるもんか。
(夏目漱石『坊っちゃん』より)
それを正直に校長に伝えて教師を辞退しようとする坊っちゃん。
校長も本気でいっているわけではなく、希望を述べただけだといい、こうして坊っちゃんは教師となったのでした。
校長は坊っちゃんを案内しながら、同僚の教師たちを紹介していきます。
その中で坊っちゃんは会う教師たちにこっそりとあだ名をつけるのでした。
狸、赤シャツ、うらなり、山嵐……。
山嵐は数学の主任で坊っちゃんの上司にもあたります。
剛毅な性格で坊っちゃんは無礼な奴だと感じますが、下宿を紹介してくれ、氷水もごちそうしてくれ悪い奴ではなさそうだと感じ始めます。
天麩羅先生
教師というのは大変なもの。
生徒はやかましく、時々図抜けた大きな声で先生と呼ぶのでびっくりする。
弱みを見せまいと巻き舌で早口に授業をやると、少しうまくいった気もしたが、授業終わりに生徒から難しい問題の解釈を聞かれ冷や汗を流すこともありました。
一週間も経つと大分要領がわかるようになり、なんとか教師をやっていける心持になっていきます。
しかし、ある日、街中で天ぷらそばを四杯食べていたのを生徒に見られます。
翌日、教室に入ると「天麩羅先生」と大きく黒板に書かれていました。
別の日には、遊郭の近くの団子屋で団子を食べると、「団子二皿七銭」と。
その後も坊っちゃんと生徒たちとの応酬は続き、坊っちゃんはすっかり教師というものが嫌になってしまいます。
宿直での騒動
さらに事件は起こります。
坊っちゃんの勤める学校では教師がかわるがわる宿直をします。
初めての宿直の日、さあ寝ようと布団の中で足を延ばすと何かが両足に飛びつきます。
驚いて足を動かすと何かをつぶしてしまった感触もあります。
毛布をぱっと放ると、布団の中からバッタが5,60匹飛び出してくるのです。
これはいったい誰のいたずらだと、寄宿生を呼び出すと、みなバッタなんぞ知らんといいます。
坊っちゃんはいたずらをするのは自分だってしたことはある、だが聞かれたときに誤魔化そうとする卑怯なことはしなかったといきどおります。
うそをついて罰を逃れようとするなら最初からするんでない!と。
いたずらと罰はつきもんだ。
罰があるからいたずらも心持ちよく出来る。
いたずらだけで罰はご免蒙るなんて下劣な根性がどこの国に流行ると思ってるんだ。
金は借りるが、返す事はご免だと云う連中はみんな、こんな奴等が卒業してやる仕事に相違ない。
(夏目漱石『坊っちゃん』より)
と彼らを見ながら思うのでした。
そのあとも、宿直室の上の部屋で何十人もがどんどんと床板を踏み鳴らす音がします。
二階にあがると誰もいなく音も消えていました。
こうなったら坊っちゃんも引けません。
寄宿生をとっ捕まえてお説教をします。
しかし、最後には校長があらわれ穏便にことをすまそうとするのでどうにも腑に落ちません。
騒動の終結と教師たち
さて、坊っちゃんと寄宿生との問題に対して学校では会議が開かれました。
校長はあいかわらず事なかれ主義。
坊っちゃんにも生徒にも悪いところはあるし、生徒の今後を考えねばならぬといいことのような悪いことのようなあいまいなことをいい、うやむやに済ませようとします。
教頭を始め、ほかの先生も校長に追随するなどどうにも坊っちゃんは納得がいきません。
その中で、山嵐だけが、寄宿生のやったことは許されん!といい、坊っちゃんと山嵐を少し関心します。
しかし、坊っちゃんは下宿先の主人からの告げ口により山嵐から下宿を出るようにいわれ、それ以来、山嵐と険悪となっていたのでそれ以上、山嵐に対してどうこう思うことができません。
こうしたように教師たちはそれぞれくせが強い人が多い。
芸者遊びや釣りにのめりこんだり、陰口ばかりをいう教師がいたり。
隙あらばほかの教師を追い落とそうとすることもあり、うらなりもそれによって地方の学校に飛ばされることになるのでした。
うらなりの送別会の日、山嵐から下宿を追い出したことについて、下宿の主人のいったことがうそで、坊っちゃんを追い出してしまったことを謝罪してきました。
それから坊っちゃんは山嵐への見方が変わり仲良くするようになります。
山嵐はうらなりの退職を進めた赤シャツたちに対して怒りを持っており、送別会の席でもその不満を大いに口にするのでした。
学生たちのけんかと辞職
ある日坊ちゃんと山嵐の二人は、中学生たちと師範学校生たちのけんかに遭遇します。
中学生と師範学校生はなぜかそりがあわず、いつも険悪なムード。
坊っちゃんと山嵐は、これはいかん!と止めに入るが、結局自分たちもけんかにくわわることになります。
これを新聞は「二人が従順な生徒を操ってこの騒動を起こした」と嘘を書くのでした。
山嵐はその責任を負って学校を辞めることになりました。
坊っちゃんは山嵐だけが責任を取ることに納得がいきません。
校長に直談判をするが、校長は新聞屋が悪い!怪しからんといいながらも、何もしようとしません。
実はこの件は赤シャツが新聞屋に手を回して、山嵐に責任を取らせようとしたものでした。
腹が立った坊ちゃんと山嵐は、赤シャツが芸者遊びをしている証拠を押さえて成敗しよう計画します。
長期間張り込みをして、ようやく赤シャツを見つけた坊っちゃんと山嵐は、最後まで言い逃れようとする赤シャツを叩きのめすのでした。
さて、坊っちゃんはもうやっていられないと辞職願を校長あてに郵送し、東京へと帰ります。
帰郷
東京に帰った坊ちゃんは、ある人の紹介で電車の技術者となります。
玄関付きの家ではありませんでしたが、清も呼び、清は満足した様子でした。
残念ながら清は二月に肺炎にかかって亡くなってしまいます。
清は、坊ちゃんと同じ墓に入りたいと言い残したので、墓は小日向の養源寺にあります。
夏目漱石の中でも特に読みやすい『坊っちゃん』
ざっとあらすじを紹介してきました。
『坊っちゃん』を読んで最初に思ったのは、
「とても読みやすい作品」
ということでした。
登場人物はそんなに多くないですし、話がとてもわかりやすく展開も早い。
読んでいて飽きもしないからするするっと読めてしまいます。
『坊っちゃん』の前に、同じく夏目漱石の『吾輩は猫である』を読んでいて、そちらが読みづらかったから余計にそう感じたのかもしれません。
文量としてもそんなに多くはないので、夏目漱石を初めて読む人にはかなりおすすめです。
坊っちゃんの性格がさっぱりしていて気持ちいい
『坊っちゃん』が楽しく読める理由の一つに坊っちゃんの性格があります。
親譲りの無鉄砲というくらい無鉄砲であると同時に、とてもまっすぐで正直な部分があります。
実際に自分が同じ立場、同じ場面にいたらそんな行動はとれないなと思うことがたくさん。
だからこそ余計におもしろく読めるのだと思います。
現実世界では、なかなか欠けている気性で、もし友人にいたら楽しいのだろうと感じます。
その反面、坊っちゃんの学校の教師たちは良くも悪くも現実にたくさんいる人たちです。
校長の事なかれ主義はなんと世の中に多いことでしょう。
自分に被害や苦労がないようにどうにか穏便にすまそうとします。
赤シャツのように、相手を下に見立てて満足したり、都合の悪い相手を追いやろうとする人も珍しくはありません。
うらなりのように、立ち向かえずに遠方に追いやられてしまうこともあるでしょう。
だからこそ、自分自身やその周辺にこの『坊っちゃん』の登場人物たちがとてもよく当てはまり、少し考えさせられます。
これを読んで今の自分ってどうなんだろうと。
おわりに
先にも書きましたが、夏目漱石を読むにあたっては、『坊っちゃん』がとても読みやすく、導入にはいいかなと思います。
有名な作品ですし、読んでおいて損はありません。
夏目漱石の作品はほかにも有名なものがありますね。
『吾輩は猫である』、『こころ』、『三四郎』など、いずれも良作なので一度は目をとおしておきたいものたちです。
そして、どの作品も自分自身を振り返れますし、成長にもつながるのではないかと思います。
ぜひ一読していただければと思います。