私の好きな小説家の一人である芦沢央さん。
どれも生活をしていて、送り得る可能性のあるできごとばかりが描かれていて、それがまた共感してしまう理由なのかなと感じています。
全体的にはどこか暗い印象が残る作品が多めですが、読んで考えさせられることも多いおすすめの作家さんです。
ちなみに芦沢央さんは、1984年2月生まれの女性作家です。
ぱっと名前を見たときは、私は男性かと勘違いしていました。
出身は東京都で、千葉大学文学部史学科を卒業。
デビュー作は、2012年の『罪の余白』。
この作品で、第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞しています。
ここでは、芦沢央さんの小説を一覧にして紹介していきます。
※この記事を書いた時点でのものになります。できるだけ更新するつもり。
Contents
芦沢央さんの小説一覧!
罪の余白 | 2012年9月 |
---|---|
悪いものが、来ませんように | 2013年8月 |
今だけのあの子 | 2014年7月 |
いつかの人質 | 2015年12月 |
許されようとは思いません | 2016年6月 |
雨利終活写真館 | 2016年11月 |
貘の耳たぶ | 2017年4月 |
バック・ステージ | 2017年8月 |
火のないところに煙は | 2018年6月 |
カインは言わなかった | 2019年8月 |
僕の神さま | 2020年8月 |
汚れた手をそこで拭かない | 2020年9月 |
神の悪手 | 2021年5月 |
夜の道標 | 2022年8月 |
簡単な作品紹介(読んだことがある作品のみ)
『罪の余白』
まずは、デビュー作となる『罪の余白』です。
角川書店から出た作品ですね。
高校生の女の子が、学校の二階から転落をして死んでしまうところから物語は始まります。
その子の父親にあたる男性は悲しみのあまり一か月が経とうとしても立ち直れずに、知人の支えでなんとか生きながらえているという状態になります。
というのも、男性は妻(死んだ女子高生の母親)を病気で亡くしており、男で一つで娘を大事に育てていて、それが生きがいだったからです。
しかし、男性もこのままではいけないと思うようになるのですが、あるとき、なぜ娘は死んでしまったのかという疑問を持つようになります。
娘がつけていたはずの日記を探す男性。
ついに見つけた日記には、娘が心に秘めていた苦しみが書かれていました。
デビュー作ということもあり、最新の作品に比べると、展開が急なところもありますが、高校生活での息苦しい場面とか、熱帯魚の描写とか、読みごたえもあり。
デビュー作って、
「なんでこれが受賞?」
みたいな作品もときどきあるんですけど、『罪の余白』は満足できるおもしろさでした。
『悪いものが、来ませんように』
芦沢央さん二作目になる長編小説です。
こちらも角川書店より。
育児に非協力的な夫を持つ専業主婦の奈津子。
子どもが欲しいのに妊娠できず、周囲との差に苦しむ助産院で働く紗英。
お互いに相手の存在がとても大切で、影響し合って生きてきました。
でも、とある事件から二人のその後が大きく変化していきます。
誰よりも仲の良かった二人を取り巻く悲しい物語です。
読み始めて序盤、中盤くらいでは、「う~ん」という気持ちで読んでいました。
かなり暗い感じだし、被害意識が強いところとか、あまり共感できず。
でも、終盤に来ると、読んで思っていたものが、「おやおやおや?」とひっくり返され、見え方がかなり変わるからおもしろい。
私は知らなかったのですが、本の帯には、「どんでん返し」とか、「読み返さずにいられない」的なコメントがたくさんあったようです。
決して気持ちのいい終わり方ではないですが、考えさせられる作品でした。
『今だけのあの子』
三作目になる『今だけのあの子』は、初の短編集になります。
出版社が東京創元社となり、『ミステリーズ!』に掲載された四編と一編の書下ろしで構成されています。
女性同士の友情を描いた小説とも言えるのかな。
友情のあり方も人それぞれ。
その人との関係を築くために、間違った行動をすることもあれば、思いがけない出来事から、新しい友情が育まれることもある。
『いつかの人質』
四作目の『いつかの人質』は、KADOKAWAから出た三つ目の長編小説。
プロローグで、誤って小さな女の子を誘拐してしまうという事件が起きます。
それを誤魔化すために、ニセの誘拐犯を仕立て上げようとする。
これだけでも一つの話になりそうですが、そこから十数年が経ってからがこの小説の本編です。
正直、これって誰が悪かったというわけでもない気がして、誰も救われず、どうにも苦しい読後感があります。
芦沢央さんの小説っておもしろいけど、そういうのが多いなあと。
『許されようとは思いません』
五作目にあたる『許されようとは思いません』は新潮社から。
こちらは、『小説新潮』に掲載された五編の短編小説となります。
表題作である「許されようとは思いません」では、亡くなった祖母の納骨のために、祖母が暮らしていた村を訪れる男女の話です。
祖母は生前に殺人を犯しており、なぜそんなことをしたのかという動機の部分を巡って話が進みます。
私はこれが一番お気に入りです。
「許されようとは思いません」
そこに込められた想い。
それをどう想像しながら書いたのかなと考えると、やはりすごい作家さんだなと感じます。
『雨利終活写真館』
こちらは小学館からの出版です。
終活って言葉があたり前に聞こえるようになってきた昨今。
この写真館は、遺影用の写真撮影を専門に行っている店になります。
そこで取られた写真を巡って、様々な疑念や問題が湧き上がっていきます。
比較的読みやすくて、すっと読める作品かなと思います。
『貘の耳たぶ』
タイトルからだとあまり内容はイメージできないかも。
こちらも長編小説ですが、なかなかこれが長い!
原稿用紙換算700枚を超えているようなので、ぱっと単行本を見たときの厚みも。
それでも、気づけば終わりが近づくくらいに手が止まらない小説です。
出産を終えたばかりの女性がこれからの育児に思い悩むところから始まります。
私が母親ではこの子は幸せになれないのではないか。
そこで、同じ日に出産した、しっかりものの女性の子どもと入れ替えてしまう。
入れ替えたあとも、やはりこんなことはダメだと思い、元に戻そうと何度も思うのですが、その機会を活かすことができず、ついに退院が近づいていく。
実際に、子どもが産まれると、ちゃんと育てられるのかって不安になるものです。
特に、夫婦で協力して子育てをすることが難しい環境だときっとそれはなおさらそうなのでしょう。
本当に大切なのは、その子との血のつながりなのか、それとも、一緒に共有してきた時間や思い出なのか。
『バック・ステージ』
序幕と終幕が、パワハラ上司の不正をあばくという話なのですが、その間に短編がはさまっています。
一つひとつは独立した話なのですが、ちょっとずつつながりがあって、こういうのがかなり好き。
短編としても、しっかりまとまっておもしろい話ばかり。
勝手な感想ですが、芦沢央さんにしては、全体的に明るく終わる話が多くてちょっとびっくりしました。
うん、でもこういった雰囲気の物語もとても上手で、こういう作品をまた読んでみたいです。
『火のないところに煙は』
私が初めて読んだ芦沢央さんの小説です。
始まりは、とある小説家が怪談を書かないかと担当さんに持ちかけられるところから始まります。
ホラーものって苦手なんですが、どっぷり怪異というよりは、日常のちょっとした出来事が、実は……といったくらいのものなので、私にも読めたかなと。
それでも、最後まで読み切ると、ぞくっとするものがあって、夜寝ようと思うと、いろいろと頭の中で想像しちゃってよくなかったです。
それでも、ホラーとしてはソフトな部類なので、読みやすくおもしろいですよ。
『カインは言わなかった』
表紙の人がちょっと怖いですよね。
バレエ団を中心に置いた長編小説です。
とある公演間際に、突然、主役の男性が失踪して連絡が取れなくなるところから話が始まります。
なぜ男性は突然、いなくなってしまったのか。
過酷と言われるバレエ団の中ではなにが行われていたのか。
私は、芸術とはとんと縁のなかった人間なので、狂おしいほどの想いというのを抱いたことはない。
それでも、この小説からは、一つのものにかける情熱というか、執念のようなものが伝わってきます。
『僕の神さま』
こちらは連作短編となります。
小学生の佐土原くんと水谷くんを中心とした物語。
水谷くんは小学生ながらに、周囲で起きた問題をなんでも解決してしまいます。
そのことから、同級生に、「神さま」と呼ばれています。
実際に神さまではないんですけどね。
小説の中で水谷くん自身が言うように、失敗することだってあるし、わからないことだってある。
周囲の勝手な期待とか、レッテル貼りとか、いくつだろうと、どの場所だろうとあるもんだなとも。
最初は、小学生が中心の話だから、暖かい話なのかなと思いつつ、徐々にすこーしずつ暗い要素が顔をにょきにょきさせて、やはり芦沢央さんだなあと思わされました。
『汚れた手をそこで拭かない』
短編集になります。
私が読んだ二冊目の芦沢央さんの小説です。
この小説で私はがっつりと芦沢央さんにはまったと言っても過言ではない!
それくらいおもしろい作品でした。
個人的には、教師がプールの水を誤って放水しちゃった話が好きでした。
何か失敗したときって、咄嗟に、「なんとか誤魔化せないか」って考えちゃうものです。
それが人間の性ってやつです。
そこからこの教師がすごく思考を働かせるのが、「そこまで考えちゃう?」とどきどきさせられました。
まあ結局、どんな出来事でも、正直に話した方がいいってことです。
『神の悪手』
ほんタメ!というYouTubeの番組では、「ほんタメ文学賞」としてこの作品が紹介されていました。
私が芦沢央さんを読むきっかけになった本。
将棋を題材とした5編の短編集になります。
でも、将棋が知らなくてもこれは楽しめます。
将棋ががっつりというよりは、将棋が関わりつつも、どちらかというといつもの芦沢央さんの色が強い感じです。
おもしろすぎて、一日で一気に読んでしまいました。
『夜の道標』
芦沢央さんの作家生活10周年に相応しい小説でした。
ただ、すごく説明が難しいんですよね。
とある町で、人格者と言われる塾の講師が殺害されます。
ふつうの学校ではうまく周囲に溶け込めないような子どもたちを対象に、一人一人に寄り添ってくれる先生。
その先生を殺害した容疑者が、元教え子の阿久津玄。
でも、その日を境に、二年間、行方が知れず、捜査は暗礁に乗り上げます。
二年がたった時代が小説の舞台になります。
そこには、様々な悩みや苦悩を抱えた人たちがいて、それまで縁がなかった人たちが、出会い影響し合い、いまの自分から一歩踏み出していきます。
私のおすすめは、『汚れた手をそこで拭かない』と『神の悪手』
いやね、正直、芦沢央さんはどれを読んでもおもしろい!
その中でも私がおすすめなのは、短編集である『汚れた手をそこで拭かない』と『神の悪手』です。
感想等は、上記のページで見ていただけると。
短編一つ一つが、どれも起こりえる可能性を秘めたものであるという点、一歩間違えれば自分だってそうなるという点で感情移入しやすかったなと思います。
芦沢央さんを読むなら、個人的には短編の方がおすすめです。
もちろん長編もおもしろいんですよ、でもそれを超える良さが短編にはある。
短編という短い物語の中でも、しっかりと練り込まれ、読者の予測を裏切ってくれます。
『火のないところに煙は』もホラー要素がありますが、読みやすく、夜ちょっと眠りづらくなるほどにおもしろいです。
全体的に暗い雰囲気の作品が多いので、明るく?というのも変ですが、いい雰囲気で終わるモノであれば、『バック・ステージ』ですね。
おわりに
芦沢央さんの作品は、なにを読んでも楽しめます。
そして、一冊読んだら、ほかの作品にも手を伸ばしてみたくなること間違いなし!
私がいま一押しの小説家です。
これを書いている現時点で、十三作品と、全部読むことも可能な範囲というのもいいですね。
東野圭吾さんだと、間違いはないのですが、全作品を読了するのはなかなか大変ですから。
今後も活躍を期待しつつ、次の作品も楽しみにしています。