国語の教科書にも載るくらい有名な小説。
でも、これが短いながらにとても読みにくい。
でも、おもしろくもあり、考えさせられます。
今回読んだのは、森鴎外の『舞姫』です!
これがもう、ほんと実際こんな場面になったらどうするよ、といった話です。
ここでは、『舞姫』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『舞姫』のあらすじ
ドイツへの転勤
父親を早くに亡くした太田豊太郎。
苦しい生活の中でも学問への情熱は途絶えることなく、成績はいつもクラスで一番であった。
優秀な成績で、大学の法学部を卒業してからは官庁への就職も決まり、故郷に残してきた母親を呼び寄せて生活をする。
母親と3年ほど暮らしたある日、上司から、ドイツへの留学を命じられる。
50歳を超える母親を置いて行くことに悩むが、立身出世のチャンスと思い承諾し、豊太郎は単身ドイツのベルリンへと。
紹介状を渡して、現地の官僚からも快く受け入れられて、豊太郎のドイツでの生活が始まる。
ドイツでは公務をこなしつつ、暇なときは現地の大学へと通い、さらに学問に力を注いでいく豊太郎。
そうしてさらに三年が過ぎた頃、豊太郎は周囲の期待にただ応える機械のような人間から、自由な独立心を持つ人間に変わっていった。
豊太郎の上司にあたる官長は、思うままに使える機械的な人間を望んでいたため、豊太郎のそうした変化を喜ばなかった。
だが、これのみを持って、豊太郎の地位を損ねるにはいたらなかった。
異国の少女との出会い
ある日、人通りで泣いている踊り子のエリスと出会う。
豊太郎が話を聞くと、父の葬儀を出さなければならないのにお金がないというのだった。
豊太郎は自身の時計を手渡し、質に入れて、葬儀代を工面するように伝えた。
それをきっかけに豊太郎とエリスの親交は始まり、やがて恋仲へと発展する。
一方で、官長のもとに、豊太郎とエリスの関係を告げ口するものが現れた。
豊太郎の奔放さを快く思っていなかった官長はそのことを公使館へと伝えた。
そのことにより、豊太郎は罷免されてしまう。
帰国するならその費用は与えると言われ、一週間以内に結論を出すように言われる。
更に追い打ちのように日本から二通の手紙が届く。
それは、母からの叱責の手紙と、親族からの母の訃報を伝える手紙であった。
帰国しても汚名を背負った自分の栄達はなく、しかしドイツ留まれば生活費すら捻出することはできない。
相沢の助けとエリスの妊娠
豊太郎の窮状を助けてくれたのは相沢だった。
彼は豊太郎に、新聞社の通信員の仕事を紹介してくれた。
少ない収入ではあったが、何とか生きていくだけの収入を得た豊太郎。
多くを望まず、エリスと共につつましくも楽しい日々を過ごすことになる。
それからしばらく経った頃、相沢に大臣からの仕事を紹介された。
大臣は豊太郎の悪評を知っていたが、豊太郎の高い能力と、誠実に仕事をこなす姿を見て、豊太郎のことを気に入ることになる。
またエリスとの関係を知っている相沢は、豊太郎の将来を心配し、エリスと別れて自分の将来のことを考えるように諭される。
豊太郎は相沢からの助言に、悩みながらも承諾の意思を伝えるのだった。
一方で、エリスが急に体調を崩すことがあった。
そのため、踊りの舞台も休むことになっていた。
エリスは豊太郎との子どもを身ごもっていたのだった。
エリスとの別れ
やがて大臣が帰国する日が近づいてきた。
大臣は豊太郎に一緒に日本に来てくれないかと話す。
一度、道を外れてしまった豊太郎からすると、望外の話であった。
ただし、これはエリスとの関係を断った上でのことであった。
これを逃せば栄達は望めないと二つ返事で承諾した豊太郎だった。
しかし、エリスを見捨てる決断をしたことに悩み苦しむ。
豊太郎は、エリスの待つ家へとなかなか帰ることができず、寒風の中、ベンチに座り、気づけば夜が暮れていた。
家に帰った豊太郎は、その場で倒れてしまい、気がついたときにはベッドの上であった。
豊太郎が倒れたあと、相沢が様々動いてくれていた。
その中で相沢は、豊太郎が帰国することを承諾していることなど、エリスに隠していた一切合切を話してしまうのだった。
豊太郎に、欺かれ、見捨てられたことを知ったエリスは精神が錯乱してしまう。
物を投げ散らかし、産まれてくる子のために用意していたオムツただ一つを身の回りに置いて泣き明かした。
豊太郎はどうすることもできず、エリスの母にわずかばかりの金を与えてエリスと産まれてくる赤子を頼み、帰国するのであった。
相沢の事は二度と得られないほどの良き友だと思う奉太郎だったが、この一点だけは、彼を憎む気持ちが消え去らないのであった。
人はなにを選び取るのか
人生において、望んだものすべてを得ることができる人ってそうそういないものです。
たくさんの場面で思い悩みながら、自分に最良の選択を出していく。
豊太郎も、大臣と一緒に日本に帰って立身出世を図るか、それとも、エリスとともに困窮しながらもささやかな幸せを享受するのか。
そんな選択を迫られていました。
私たちの人生でもそうですよね。
いろんな選択肢からどれかを選び取っていかなくてはいけません。
その決断一つで、その先の人生は大きく変化していく。
豊太郎は、エリスと出会ったときに手を差し伸べました。
多くの人は、そのまま素通りするような場面で。
その行動自体は義侠心あふれるいいものかも。
でも、そのあと、エリスと関係を持って、そのままずるずるといってしまった点は、豊太郎の立場を考えれば軽率なものでした。
そのあとも、幾度となく、決断を迫れる場面が訪れます。
豊太郎は悪い男なのか
すごくざっくりと『舞姫』を言うと、
「国のお金でドイツに留学した男が、現地の女性と関係を持ち、妊娠させたのに、自分の出世のために女性を捨てて日本に帰った話」
となります。
ちょっと悪意のある書き方をしたかもしれませんが、こういう話なんです。
「私と仕事、どっちが大事なの!?」という話だなんていう人もいます。
ただ、いまと当時の時代背景というのも大きく違うため、一概に豊太郎の行動が悪いかと言い切れない部分もあるんですね。
豊太郎自身は、たぶんいい人間ではあるんですよ。
見ず知らずの女性のために、自分の時計を質に入れるんですから。
ロシアに仕事で行くときも、エリスたちが仕事に困らないように、わずかでも金銭を置いていったし。
ただ、自分できちんと考えて決断できている場面が、能力をある人間にしては驚くほど少ない。
エリスとの関係も、気づけばそうなっていたし、相沢にエリスとの関係を断つように言われれば、簡単に承諾してしまう。
大臣とともにロシアに行くときも、一緒に帰国しないかと誘われるときも、特に考慮することなく、すぐに了承の意を伝えている。
豊太郎自身も自分のことをこう評しています。
「恥かしきはわが鈍き心なり。余は我身一つの進退につきても、また我身に係らぬ他人の事につきても、決断ありと自ら心に誇りしが、此決断は順境にのみありて、逆境にはあらず。我と人との関係を照らさんとするときは、頼みし胸中の鏡は曇りたり。」
(森鷗外『舞姫』より)
順調なときは決断力があるのに、逆境におちいると心の鏡は雲って、まったくどうしていいかわからなくなるってことですね。
実際にエリスを捨ててしまったことも、自分で決断したというよりは、状況に流されてそうなってしまった感じですし、帰国すること自体、自分の口からはエリスに一言も伝えていない。
いい男、悪い男以前に、単にダメな男だなという印象を私は持ちました。
おわりに
『舞姫』自体は、対して長い小説ではないのですが、古い言葉で書かれているため、意味を理解するのにちょっとだけ苦労します。
同じ量の小説の3倍は読むのに時間がかかるかな。
それでも読む価値がある一冊であると思います。
私は読んでいて、ぜんぜん豊太郎が好きになれませんでしたし、ダメな人だなと感じます。
でも、同じように、なかなか決断できずに、結局、流れに任せることって割とあるんですよね。
自分だって、決断するのがしんどいときは、まあいいやって思うかも。
そう考えると、さして、珍しい男の話ではないのですが、それでも、こういう生き方はしてはいけないと教訓を与えてくれます。