その出来事には、どんな意味が込められていたのか。
この人の描く世界には、不思議な謎が散りばめられている。
今回読んだのは、米澤穂信さんの『満願』です!
といっても、私はこの本が好きで、すでに読むのは3回目。
そういえば感想を書いていなかったと思い、いま書いているところです。
満願って言葉はあまり普段使わないですよね。
満願成就って四字熟語でしか私も聞いたことがありませんでした。
短編集なのですが、その中には「満願」というタイトルのものもあるので、意味を考えながら読むとなおおもしろいです。
『満願』は、2014年に、「このミステリーがすごい!」、「週刊文春ミステリーベスト10」、「ミステリが読みたい!」の首位を取り、三冠達成したすごい小説です。
ここでは、『満願』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『満願』のあらすじ
〇夜警
〇死人宿
〇柘榴(ざくろ)
〇万灯(まんどう)
〇関守
〇満願
【満願】
弁護士の藤井は学生時代、畳屋の鵜藤重治とそのの妻・妙子のもとに下宿していた。
重治は、藤井に冷たく当たったが、妙子が親身になってくれていた。
司法試験の勉強に行き詰まったときには、何度となく、妙子に助けられた。
ある日、藤井は妙子に達磨市に連れて行ってもらう。
両目が描かれていない達磨たちが立ち並ぶ姿は特殊なものだった。
そんな中、達磨の供養所には、満願が叶って両目が入れられた達磨が、次から次へと運ばれてくる。
その光景を見て、藤井は、自分にもできると開き直り、藤井と妙子は1つずつ小振りな達磨を買った。
そして、藤井は在学中に司法試験に合格することができた。
その4年後、妙子は夫の借金返済を迫る貸金業の矢場英司を殺害した。
藤井は、世話になった妙子のために、奮闘し、妙子の正当防衛を主張したが、第一審では懲役8年の実刑判決が下されてしまう。
控訴をし、第二審の準備をしていたとき、重治が病死。
それを聞いた妙子が涙を流し、「もういいんです」と、控訴を取り下げたため、一審の刑が確定する。
数年が経ち、刑期を終えて出所した妙子が事務所に来るまでの間、藤井は事件を振り返っていた。
なぜ、妙子は控訴を取り下げたのか。
あれは本当に正当防衛だったのか。
妙子が達磨に願ったこととはなんだったのか。
私の一押しは「満願」!
6つある短編、いずれも大満足な内容でした!
その中でも私の一押しは、「満願」です。
きっと、物語の最後、妙子の達磨の目は両方描かれていたのでしょう。
満願成就のために、真意を隠し、自分を殺して行動する女性のすごみがあります。
米澤穂信さんでいうと、『儚い羊たちの祝宴』でもそうでしたが、微笑むその裏に、闇が潜んでいます。
なにかを成し遂げるためには、それ以外のものをそぎおとしていく必要があるんでしょうね。
私も達磨、買おうかな。
「満願」の中では、達磨の視線を気にする場面も出てきます。
また、藤井も、家族の写真が入った写真立てを伏せていたことを話しています。
だれかの視線って、いい刺激にもなり、監視のような締め付けにもなりうるものです。
見ているから頑張れるって人もいるもの。
私はどちらかというとそっちかも。
だれかのためではなく、この人のためなら
「死人宿」もまた、私の好きな短編です。
自殺の名所のような扱いを受けている宿に、元恋人が仲居をやっていること知り、男性が追いかけていく話です。
だれかという不特定の人のために、なにかできる人ってそれは尊いのかなと思います。
でも、私も含めて、そんな行動を取り続けることができる人って稀ですよね。
「死人宿」の男性もそう。
脱衣場で見つかった遺書を読み、常識的に考えて、これはあり得ないだろう、と思考を停止させます。
その点を、元恋人に、「あなたは変わっていない」と冷ややかに言われて、だれかのためには無理でも、元恋人のために、真剣に考えようと思い直します。
だれだって、大切な人っていると思うんです。
その人のためなら、頑張れるのが人間かなと感じます。
世界平和だとか、すべての子どもを幸せにとか、実現できればいいことだけど、私はそのために必死にはなれない。
でも、自分が大切に想っている人のためなら、労苦を厭わず動けるんだろうなと。
おわりに
ほかの四編についても、いずれも粒ぞろいで、間違いのない作品ばかりです。
「関守」のタイトルが示すものがわかったとき、ぞくっとしたし、「柘榴」は、なんとも言えない悲しさと、やるせなさを覚えました。
ミステリーの賞を三冠達成するのも納得です。
個人的には、同じ短編でも、『儚い羊たちの祝宴』のほうが好きなので、『満願』が気に入った人は、そちらにも手を伸ばしてもらいたいです。