渡辺優

あるかもしれない日本の未来。渡辺優『クラゲ・アイランドの夜明け』あらすじと感想。

ふわふわとただよい、一見、癒されるような不思議な生き物。

クラゲが出てくる小説が意外と多いと感じるのは私だけでしょうか。

去年もクラゲの話を二冊読んだような。

今回読んだのは、渡辺優さんの『クラゲ・アイランドの夜明け』です!

渡辺優さんの第6冊目にあたる長編小説です。

地球温暖化の影響で海面が上昇し、新たな移住先として岩手県沖に建設された『楽園』が舞台となります。

地球温暖化……割と本当に移住先を建設なんてことはこれから起こり得るかもしれないですよね。

ここでは、『クラゲ・アイランドの夜明け』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『クラゲ・アイランドの夜明け』のあらすじ

岩手県沖に建設された会場コロニー『楽園』。

地球温暖化による海面上昇が起こり、陸地が減ったことから、新天地として期待された場所だった。

『楽園』では、殺人、傷害、交通事故、違法薬物、違法労働、虐待、自殺者がゼロ。

この「七つのゼロ」もまた、『楽園』が成功したのだと主張する一因である。

計画が始まってから7年。

移住者も増えて、うまくいっているように見えたところに、突如、毒性の強い新種のクラゲが大量発生し、クラゲによる死者も出た。

ミサキはクラゲ大好きな女子高生だった。

クラゲの発生に興奮し、七色に光るというクラゲを一目見ようと、『楽園』中を歩き回る。

そして、クラゲのいる海へと転落し、亡くなってしまう。

事故として発表されたその死に、美咲の友人であるナツオは、疑問を持った。

ミサキの死の真相を知るために、ナツオは、ミサキの行動を追っていく。

あり得るかもしれない未来の話

『クラゲ・アイランドの夜明け』の内容ってすごく簡単に言っちゃうと、

とある少女が事故死したけど、その死に方に疑問を持った友人が死の真相を突き止める話

なんですね。

これだけ読むと、よくある話だなという感じですが、やはりそこはプロの小説家。

それだけでは終わりません。

舞台設定がおもしろいですよね。

近未来の日本です。

それも、非現実的な話ではなく、実際にいつか起こり得るような世界観。

地球温暖化で北極の氷が溶けていっているのは事実ですし、温暖化のペースが非常に速いのもよくニュースで目にするところです。

最初の移住者たちには、テストケースということもあり、なにもしなくても生きていけるだけの補助がなされているのもいいですね。

本土との対立構造とか、お互いへの意識とか読んでいてなかなかにおもしろい。

さて、自分たちの生きているうちにそんな事態になったらどうしますかね。

私だったらたぶん、移住への応募もしないんだろうなあ。

『クラゲ・アイランドの夜明け』では、希望者が殺到して、倍率がとんでもないことになっていました。

それもあり得るでしょうが、私自身は保守的な人間だから、きっと、自分は今の場所で朽ち果てる方を選ぶかなと。

ただ、子どもとか下の世代を考えて検討するってことはあるかもしれないですね。

いいとこわるいとこ

渡辺優さんの小説って、発想がおもしろくて好きです。

デビュー作の『ラメルノエリキサ』は、主人公がされたことには絶対復讐をするっていう女子高生。

『自由なサメと人間たちの夢』は、短編集ですが、最新の義手へのあこがれ、夢に対するアプローチと考えさせられました。

上記したように、小説のログラインとしては、ふつうのものなのに、そこに新たな発想を加えてくるから、ほかにはない独特の小説を生み出しているんですよね。

ただ、今回の『クラゲ・アイランドの夜明け』でちょっと思ったのは、全体像を把握するまでに時間がかかること。

序盤から、なんとなく近未来の話かなとわかります。

でも、なんで『楽園』ができたのか、ここがどういう場所なのかっていうのが、小説の中盤くらいまでよくわかりません。

だから、読んでいてどこかふわっとしていて、すっきりしない。

もちろん、あまり最初から設定を入れ過ぎちゃうと、それはそれで説明くさくなっちゃうから、バランスが難しいんですが。

くらげっていいなあと

話は変わりますが、私はわりとクラゲが好きです。

この本を読んだのも、思いっきりタイトルにクラゲがきているからですね。

以前読んだ鯨井あめさんの『晴れ、時々くらげを呼ぶ』も、クラゲってところで、

「クラゲをどうからめてくるんだろう」

と興味を持ったから読んだところがあります。

あのふわふわとして漂っている感じ。

あんな風にぼんやりとふわふわっと人生を過ごしてみたいなあという願望も生まれてきます。

実際、くらげは危険でもあるんですけどね。

毎年、刺されて事故にあう人はいますし、最近はビニール袋と勘違いして触って刺されるなんてこともあるみたいです。

それでも、ただ見ているだけだとほかのことを忘れて見入っていられる魅力がある。

すみだ水族館で、クラゲ特集をしていたときがありましたが、あれはとてもよかった。

もし一人で見に行っていたのなら一日ずっと過ごしてもよかったですね。

私もいつかクラゲをテーマにした小説を書いてみたいと思わされます。

おわりに

今年最初に読んだ一冊となった『クラゲ・アイランドの夜明け』。

クラゲのような生き方をしてたナツオが今後、どんな生き方をしていくのかかなり気になるところです。

自分の意見をあいまいなまま過ごすのって、周りに合わせて生きるのっていいようで悪い。

そこから抜け出したとき、見える世界も変わるんでしょうね。

今年も100冊読了を目指しているので、幸先の良いスタートを切れたのかなと思います。

渡辺優さんの作品はこれでようやく三冊目。

残りの既刊も今年中に全部読もうと思います。