小説すばる新人賞

復讐と家族と愛と。『ラメルノエリキサ』の感想とあらすじ。

個性的な主人公と軽快な文章。

新人賞受賞作という割には、文章に重たさがないのでとても読みやすい。

今回紹介するのは、渡辺優さんの『ラメルノエリキサ』です。

第28回小説すばる新人賞受賞作になります。

渡辺優さんは1987年生まれの女性で、仕事のかたわら本作を執筆したとのことです。

Contents

『ラメルノエリキサ』のあらすじ

主人公は女子高校生の小峰りな。

りなは幼少期から、自分がやられたことに対しては必ずやり返さないと気がすまない復讐癖を持っていた。

復讐とは誰かのためにするのではなく、傷つけられてかわいそうな自分、大切な自分がいつでもすっきりするためのもの。

6歳のとき、一つ上の女の子が、りなの家で飼っていた猫の足の骨を折ったことに憤慨し、女の子を階段から突き落とし骨折させている。

「目には目を歯には歯を」

ハンムラビ法典のごとく、りなの信念は高校生になっても変わらない。

そんなある日、りなは帰宅途中、何者かに背後から襲われ切りつけられる。

そして犯人は、「ラメルノエリキサ」という不可思議な言葉を残して逃走。

犯人への復讐を誓うりなは、その手がかりをもとに犯人を追うのであった。

周りにいたら恐ろしい主人公のりな

『ラメルノエリキサ』で真っ先に挙げれらる魅力は主人公の小峰りな。

自分が誰かにされたことに対しては必ず復讐をする。

そんな復讐癖を持つ女子高生です。

その復讐癖は6歳の頃にはしっかりと発揮されていて、中学からの友人には、病気だといわれる始末。

でも、復讐をしないとすっきりしない!

なんともシンプルな理由で復讐を繰り返すりなは、共感が持てる一方で周りにいたらすごく恐ろしい。

自分達が周囲に合わせて、事なかれで生きているから余計に魅力的に見えてしまいます。

とはいえ、元カレの篠田くんにした復讐は、同じ男性としてかわいそうに思う。

いや、篠田くんが悪いのではあるが……。

復讐は何のため?

復讐という言葉を聞くと、

「自分を含む誰かがされたことに対する仕返し」

といった意味で捉えていましたが、りなの復讐はちょっと違う。

復讐とは誰かのために行うものではなく、自分のために行うものだというのです。

私は自分が好きだから、大切な自分のためにいつでもすっきりしていたい。

復讐とは誰かのためじゃない。大切な自分のすっきりの為のもの。

(渡辺優『ラメルノエリキサ』P4より)

なんと堂々とした主張!

小説を読み始めて数ページですっかりりなが気になってしまいます。

飼い猫の足の骨を折られたときも、猫がかわいそうで復讐したのではない。

猫は家で飼っていたもの、つまり自分のものである。

自分のものが傷つけられた、それはひとえに自分が傷つけられたのと同義である。

これは復讐をしなければいけない!

といったすごい論理によって展開されます。

また、よく言われる、

「復讐なんてしても誰も喜ばない」

だとか、

「被害者は君にそんなことを望んでいない」

といった正論を一蹴するところもかっこいいなと感じます。

聞こえがいいのはそうした正論ですが、そうではないのだと。

復讐することがいいことか悪いことかは別にして、信念を持って生きているところがとても好きな主人公です。

完璧な母親という言葉

りなは、『ラメルノエリキサ』の中で何度も完璧な母親という言葉を使用します。

母親のことを大好きとも。

そこだけ読んでいくと、

「復讐癖のある変わった高校生だけど、家族が大切なんだな」

「母親のことが大好きでしかたないんだな」

と思ってしまうのですが、読み進めていくとどうも様子がおかしい。

完璧な母親という言葉が、そのままの受け止め方ができなくなっていきます。

そもそも、完璧な母親なんているわけがない。

子供にとって親とは、理想であったり目標であったり尊敬の対象であったりすることもあります。

でもそれだけではなく、越えなければならない壁でもあり、ときにはうざったく感じるもの。

それを全肯定できるはずがないんですよね。

”完璧な母親”

その言葉に込められた意味が解きほぐされていくに従って、りなのことが少しわかり、また物語に深く引き込まれていきます。

おわりに

『ラメルノエリキサ』は久々に最初から最後まですっと読めて、すっきりと楽しめたいい本だなと思います。

だからいろいろと思ったことを書きたいのですが、これ以上はネタバレになりそうなのでぐっと我慢します。

著者の渡辺優さんは、私よりも3歳年下になりますが(発刊されたときは28歳くらい?)、仕事のかたわらこれだけのものが書けるのは尊敬です。

文章の美しさとか繊細さという点でいえば、ほかの小説すばる新人賞を受賞した作品で、もっと優れているものはあります。

でも読者を楽しませ、本の世界に引き込んでくれるという点では、『ラメルノエリキサ』はかなり上位にくるのではないかと思いました。

この方の本は今回初めて読みましたが、ほかの小説も読んでみたいと思わされるくらい。

しばらくは、小説すばる新人賞受賞作を読んでいくのでひと段落したら手に取ってみようかと思います。