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和歌の響きが美しい。佐藤雫『言の葉は、残りて』あらすじと感想。

言葉には力がある。

それは過去にさかのぼり、武力がもてはやされていた時代であっても同じ。

そんなことを感じる物語でした。

今回読んだのは、佐藤雫さんの『言の葉は、残りて』です!

第32回小説すばる新人賞を受賞した作品になります。

三代将軍源実朝とその妻・信子を中心。

鎌倉幕府ですね。

武士による支配であり、武力が重要とされていた時代にあって、言の葉の力を信じ、言の葉によって世を治めようと奮闘した物語です。

第32回は、『しゃもぬまの島』とのダブル受賞でしたが、また趣の違った作品となっていて、ふたつ合わせて読んでみるのも楽しいです。

『言の葉は、残りて』のあらすじ

鎌倉幕府の若き三代将軍・源実朝。

幼少期から、初代将軍・源頼朝や二代将軍・頼家とは違い、武士としては線が細く、周囲からも心配されていた。

そんな実朝のもとに、都から公家の姫・信子が嫁いでくる。

自分のために鎌倉へ来てくれた妻を生涯大切にしよう、と実朝は心に誓う。

信子もまた、鎌倉に来ることに不安を覚えていたが、実朝の優しさに触れ、共に歩もうと決意する。

実朝と信子が交流を図る中で、実朝は和歌の魅力を知ることになる。

これからは武力がものをいう時代ではない。

武の力ではなく言の葉の力で世を治めたいと願うようになる。

しかし、実朝の周囲は、それぞれの思惑を持ち、実朝と信子はその動きに翻弄されていく。

三代将軍・源実朝とは

源実朝って、あまり記憶にない人が多いのではないかなと思います。

私も日本史の授業でなんとなく触れたような触れてないような……。

実朝は、さねともと読みます。

頼朝、頼家のあと継いだ鎌倉幕府第3代征夷大将軍です。

源頼朝は有名ですね、平氏を打倒し、鎌倉幕府を築いた人です。

その次男にあたるのが実朝です。

わずか12歳で征夷大将軍となり、まだ若い実朝の治世は、執権である北条氏が実権を握っていましたが、成長するにつれ政治に関与していくようになります。

『言の葉は、残りて』では、そんな実朝の成長と北条に依存しない政治に危機感を募らせて謀略をめぐらされます。

小説にもあるように、実際に、官位の昇進も早く、武士として初めて右大臣に任ぜられることになります。

家集として『金槐和歌集』があり、小倉百人一首にも、その和歌が収められているそうです。

和歌で支え合う姿が素敵

夫婦の形っていろいろです。

なにか思うところがあっても、伝え方も支え合い方もその夫婦によって異なりますね。

実朝と信子もまた、立場もあり、一般的な価値観の中では生きていきません。

でも、実朝が悩み苦しんでいるところに、信子がもたらした和歌。

それが実朝の心を穏やかにしていく。

心が通い合っていなければできないことで、理想的な関係だなと感じさせられます。

これはお互いに和歌への深い理解がなければなしえないこと。

この夫婦だからこそ通じ合えるもの。

そういうものがあるのって羨ましいですね。

私自身は、あまり和歌って詳しくないんですが、本書を読むと、ちょっと興味が湧いてきます。

おわりに

こうした歴史小説って、史実を変えることってできません。

最初からパロディとしてのものは別としてですが。

史実は変えずに、そのすき間にある部分をいかに脚色して、物語としていくか。

それが著者の実力が試されるもの。

『言の葉は、残りて』は、実朝というあまり知られていない人物ではありますが、こんなできごとが本当にあったように感じるからすごいです。

言の葉によって世を治める。

その理想を持って身命を賭した実朝。

もし、最後の謀略がなければどんな世界を築いていたのか気になりますね。

小説すばる新人賞としてはめずらしい時代物でしたが楽しく読ませてもらいました。

著者の佐藤雫さんは現時点で次の作品も出版していますが、こちらも歴史ものなのかな。

表紙がきれいで手を伸ばしたくなります。