読んでびっくり!
「えっ!これが松本清張賞だったの?」
良くも悪くもそんな感想が生まれる小説でした。
今回読んだのは、波木銅さんの『万事快調(オール・グリーンズ)』です!
いや、とてもおもしろかったんですよ。
単純に、
「これ書いた人すげえなあ」
と思いながら読み進めてました。
表紙がまた強烈ですよね、全部緑で、その奥にとある葉っぱの姿が。
さあ、これでどんな小説かわかった人はすごい。
ここでは、『万事快調(オール・グリーンズ)』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『万事快調(オール・グリーンズ)』のあらすじ
北関東の冴えない高校。
クラスには女子がたった三人。
暴力を振るう父親と引きこもりの弟がいる朴。
体がでかく、オタク趣味の岩隈。
明るく振る舞いながらも病んだ母親から逃げ出したい矢口。
特に仲がいいわけでもない彼女たちは、三者三様に悩みや鬱屈とした思いを持ちながら過ごしていた。
あるとき、ひょんなきっかけで朴が大麻の種を手に入れる。
この村を出るには金がいる!
そうだ!大麻を育てて売りさばこう!
こうして三人は、つぶれた園芸部を復活させて、高校の屋上で大麻を育てることになった。
これ、松本清張賞なんですよ!
もうね、松本清張賞ってことで読んだんですけど、
「マジですか!」
と驚かされました。
これまで松本清張賞って、もっとおとなしいイメージだったんですよね。
時代小説が受賞していることも多いし。
それが第28回は、これまでのイメージをぶっ壊すような作品が受賞しました。
それも、選考委員が満場一致だったとか!
実際に読んでいて、
「ここってこういう文章でいいんだっけ?」
とか、
「視点が切り替わってない?」
とか、気になる点はあったんですけど、それ以上に、スピード感がすごくて、そこをぶっ飛ばして先が読みたくなる小説でした。
鬱屈としたものがぶっ飛ぶ。
『万事快調(オール・グリーンズ)』の舞台は、茨城県になるのかな。
田舎の底辺高校に通い、現状に不満を抱いた若者たちの物語。
なのに鬱屈としたものがないのがとても不思議。
地方の学生を描いた小説ってけっこうあるんですよ。
だいたいそういうのって、その地域独特の静かな雰囲気だったり、閉塞感だったりを描いています。
櫛木理宇さんが、小説すばる新人賞を受賞したときの『赤と白』もたしか新潟が舞台だったかな。
雪に覆われた世界の少しダークな雰囲気をうまくいかした作品でした。
でも、『万事快調(オール・グリーンズ)』はぜんぜん違う。
いろいろ問題はあるし、不満もあるけど、それをぶっ飛ばしていくなにかがある。
こういう語り口もあるのだなと勉強になりました。
しかし、万事快調というタイトルよ。
万事快調ってさ、物事の調子が全般的にいいことをいうはずなのに。
ぜんぜん万事快調じゃないわけです。
なのに、その言葉を使いながら、妙なテンションで日々を生きていく女子高生。
いやー、なんともいえない妙な感覚を読後にいただきました。
本書の中ではたくさんの映画や音楽、小説のタイトルが出てくるので、
「あっこれ知ってる!」
っていうのも多々あり、それもそれで楽しめます。
たぶん、賛否両論、好き嫌いはある小説ですが、こういった物語もありですよ、ってことで読んでみるのもおもしろいです。