先日から、小説すばる新人賞受賞作を順番に読んでいくことにしました。
2冊目に選んだのは、中村理聖さんの『砂漠の青がとける夜』です!
第27回小説すばる新人賞受賞作となります。
お名前は理聖(りさと)と読むんですね。
ぱっとみたときに理聖(りせい)で男性かと思ったら、女性の作家さんでした。
1986年生まれで、早稲田大学第一文学部卒業。
この『砂漠の青がとける夜』で作家デビューとなります。
この本を選んだのは、単純にきれいなタイトルだなと感じたから。
どんな世界が待っているのかと楽しみに読ませていただきました。
Contents
『砂漠の青がとける夜』のあらすじ
瀬野美月は、姉が亡き父親から譲り受けたカフェを手伝うため京都へとに移り住む。
姉とともにカフェを営む美月であったが、彼女の心をよぎるのは、東京での記憶。
雑誌編集に携わり忙しくしていた日々と、不倫相手であった溝端さん。
飲食店の紹介記事を書くたびに生み出された言葉は、記事として必要な言葉であり、そこに違和感を持ち、自分の想いをあいまいなものにしていた。
不倫をしていた溝端さんとは、東京を離れたときに別れを告げ、以来送られてくるのは、「愛している」というメール。
確かなものを持つことができずに日々を過ごす美月の前に、現れたのはどこか不安定さを帯びた男子中学生の準であった。
閉店間際の17時半に現れ、コーヒーを注文する。
いつも静かにコーヒーを飲み、立ち去っていく準であったが、とあるきっかけで、美月と準は交流をするようになる。
準には、服に隠されたように痣があり、美月はそれが頭から離れなかった。
美月の姉である奈々子やその同級生であった織田。
そうした人たちの中で少しずつ距離が縮まり、関係に変化が生まれていく。
美月は、準と少しずつ親しくなっていき、あるとき、準から彼だけに見える特別な世界のことを打ち明けられる。
正直好きだけどなかなか難しい小説である
読んでまず思うのは、正直難しい、でも好きでもあるということ。
一回読んだだけでは、何を言いたかったのかが自分の中で明確にならない部分がありました。
雑誌編集の取材をする中で、表現として出てくる言葉は、よく使われる言葉で満ちていく。
そのことに苦しみ、その言葉さえも、自分のものと感じられなくなっていく。
元不倫相手からの、「愛している」という言葉にさえ、確かな輪郭を持てなくなっていく。
一方で、不思議な中学生である準は、それがあまりにも見えすぎてしまう。
言葉の濁流に飲み込まれ苦しむ準がようやく見つけた場所が美月と奈々子の働くカフェ。
美月と準が出会うことで、美月は少しずつ「言葉」を取り戻していくようにも感じます。
でも、小説全体として、どこかふわふわとした掴みようのないものが漂っているような感覚にもなりました。
繊細できれいな文章と心理描写
個人的には、自分の中で消化するのに時間がかかる小説と感じました。
ただ、『砂漠の青がとける夜』はとにかく文章が繊細できれい。
心理描写も細やかで、読んでいて深く没頭していくことができるとも思います。
どうやったらこんなきれいな文章になるんでしょうね。
ときどき無理に個性を出したような表現を使う小説もあって、そういうのは苦手。
でも、本書では、もちろん個性的であり、独特のものなんですが、文章として無理がないんですよね。
だから好きな文章だなと感じます。
タイトルにしてもそうですけど、言葉というものをとても大切にしているという印象を受けます。
初心者向けではない
おもしろく読むことはできますが、これは初心者向けではない小説です。
読みやすさという点では、読書をよくする人であれば、すっと読める。
でも、普段あまり活字に触れない人からすると、ちょっと苦労するのかな。
なかなか小説のテーマや伝えようとしているもの、明快なストーリーといったものが最初に見えてこないんですよね。
深く考えながら読み進める人にはとても楽しく興味深い。
わかりやすく、すっと読み進められるものが好きな人には悩ましい。
とはいえ、こんな描き方があるのかと、とても学ばされる一冊です。