〈小市民〉シリーズ

「たったひとり、わかってくれるひとが……」米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件』

「小市民」とは、まわりと折り合いをつけるためのスローガン。

もう二度と孤立しないための建前。

ぼくは使い物になりませんから放っておいてください、という白旗。

(米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 下』(真夏の夜))

小市民とは奥が深い……。

小鳩くんにとっての小市民とは目指すものではなく、仮面のようなものなのかな。

 

〈小市民〉シリーズの書評もようやく3作目4作目まできました!

今回は上下巻になっています。

米澤穂信の『秋季限定栗きんとん事件上・下』です!

前作、『夏季限定トロピカルパフェ事件』でたもとをわかった二人はどうなったのか。

本作はなかなか小鳩くんと小佐内さんがそろって出てこない!

1巻2巻を読んだあとだと早くセットの二人が見たくなります。

『秋季限定栗きんとん事件』のあらすじ

船戸高校新聞部一年の瓜野君は、学内新聞でも学外の話題を積極的に取り上げるべきだと主張するが、堂島部長の反論の前にあえなく敗退を繰り返していた。

そんなある日、同じ新聞部員の小さな提案でにわかに突破口が開けることに。

意気込んで何の記事を書こうか提案する瓜野君は、木良市で頻発する小規模な放火事件にある共通項を見つける……みんなが驚くようなすばらしい記事を書いて、おれは彼女にいいところを見せたいんだ。

彼女――小佐内ゆきに!

一年近くにも及ぶ放火魔追跡の過程を描く、シリーズ怒涛の第三弾。

(米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 上』前書きより)

本作の主役は瓜田くん?

『秋季限定栗きんとん事件 上』を読んでいると、「おやおや?」と不思議に感じます。

物語は小鳩くん視点と、ここで初登場の瓜田くん視点の2つで進んでいきます。

 

瓜田くんは、新聞部に所属する意気軒高な1年生。

堂島部長にも思い切って意見をぶつけてははじき返されています。

本作のメインとなる連続放火事件を追うのも瓜田くん。

小鳩くんのような落ち着きが足りないので、はらはらする行動も多く心配させられます。

ちょっと承認欲求というか、認められたい願望というか、人と違うんだぞという気持ちが強いのが玉にきず。

他人の話をちゃんと聞かないのもよくないですね。

あれ?あまりいいところが……。

瓜田くんは無事に連続放火事件の犯人を追いつめることができるのでしょうか。

小鳩くんにも小佐内さんにも恋人が!

『秋季限定栗きんとん事件』で一番衝撃だったのは、

小鳩くんにも小佐内さんにも恋人ができている!

ということ。

『春季限定いちごタルト事件』でも『夏季限定トロピカルパフェ事件』でもまったくそういう雰囲気はなかったのに!

というか、小鳩くん&小佐内さん以外のペアができることになんとももどかしい気持ちが沸き起こります。

 

ちなみに小鳩くんの彼女はクラスメートの仲丸さん。

小佐内さんの彼氏は上記した瓜田くんです。

彼氏彼女としても少しずれている二人もまたおもしろいです。

連続放火事件を追う怒涛の1年!

本作は、小鳩くんたちの高校2年生秋から始まり、高校3年生の秋まで続きます。

上下巻でのあっという間の1年間。

最初はなんでもなかった放火事件。

でも、放火されたものの中に『夏季限定トロピカルパフェ事件』で使われた車が含まれていたことから小鳩くんも事件に興味を持ちます。

さらに連続放火事件を新聞部の月報で扱おうとする瓜田くんとその陰に見え隠れする小佐内さん。

それぞれがどう関わっていくのかも見どころの一つです。

目の前のチャンスに飛びつくことはできるか

『秋季限定栗きんとん事件』でも、気になる言葉がたくさん出てきます。

チャンスを作るための行動をしないやつを、のろまという。

チャンスを生かせないやつは、要するに間抜けなのだ

(米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 上』(あたたかな冬))

新聞部で自分の好きなことを書くチャンスが目の前にあるのにうまくいかせずにいるときの瓜田くんの言葉です。

これはなかなか痛い言葉です。

チャンスというものは、いつだって目の前にあるものではない。

待っているだけでやってくるものでもない。

自ら行動して呼び込むことで初めてチャンスを手にすることができる。

 

しかし、その行動ができない人がいかに多いのかと思わされます。

人間、なにもしなくても、今と同じ生活ができるのであればそれを望む傾向にあります。

そこでこれまでと違った一歩を踏み出せる人はごく一部でしょう。

そんな行動をできない、しない人を称してのろまとはなかなかに痛烈。

そしてチャンスに対して適切に行動できない人を間抜けとは。

上記の言葉とは別に、

案ずるより産むが易しとか、まず行動せよとかいうのは、小市民的な徳目ではない。

それはどちらかといえば英雄的な資質だ

(米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 上』(とまどう春))

こちらは小鳩くんの言葉です。

小市民的かどうかは置いといて、こんな風にぱっと行動できることを『英雄的な資質』とする表現力に感嘆!

まずそれができる人がいかに少なく、偉大なことかと感じます。

人間は自分の見たいものだけを見てしまいがち

人間は自分の見たいものを見てしまいがちである。

それは本作を読んでいて改めて思わされる部分です。

 

なにかをしようとするとき、もしくはなにかをしないと決断するとき。

自分の中にまだ踏み切れないものがあれば、そのあと一歩後押しするものを探しがちです。

周りの意見もそうですし、今ならネットで調べるといろんな情報が出てくる。

その中から、自分と逆の意見もありながらも、結局は都合のいい部分を拾うのかなと。

本当の意味でフラットな視点で他人の意見を聞ける人は伸びますよね。

願わくば自分もそんな人でありたい。

たったひとりのわかってくれる人

〈小市民〉シリーズが始まり、第4巻まできてようやく小鳩くんが気づいたこと。

そうじゃない。

必要なのは、「小市民」の着ぐるみはない。

たったひとり、わかってくれるひとがそばにいれば充分なのだ、と。

(米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 下』(真夏の夜))

これはある種の真理ですね。

友人付き合いでも、仕事でもそう。

大勢の人に見せる自分の姿、それは仮面をつけていたり、演じていたりするものかもしれません。

そんな中でたったひとりでもわかってくれる人がいるということ。

その心強さであり、どれだけ支えとなるのかということ。

自分にとってそんな人がいるのなら、その人のことをこれまで以上に大切に。

そして、誰かにとって自分がそうでありたいと思います。

おわりに

〈小市民〉シリーズもようやく第4巻まで読み終わりました。

とてもきれいな終わり方をした『秋季限定栗きんとん事件 下』でしたが、この先の二人の関係がまた気になりますね。

小佐内さんの「小鳩くんがベストだとは思わない」といいながらも、二人の通じ合っている様子にとてもほっとします。

これまでとはまた違った関係になった二人が次はどうなるのかとても気になるところです。

次作に期待をしながら、今回の書評をおわりとします。