〈小市民〉シリーズ

米澤穂信の『夏季限定トロピカルパフェ事件』「本当に完全な偶然なんてない」書評

前作で小市民の星を目指していた2人はどうなったのか。

読む前から、

「きっと変わらぬ2人なんだろうな」

と勝手に思いながら本書を手にしました。

 

今回紹介するのは、米澤穂信さんの、

『夏季限定トロピカルパフェ事件』です!

本作も期待を裏切らないおもしろさを持っていました。

【小市民】シリーズ第2作目はスイーツと誘拐を巡る夏休み!

『夏季限定トロピカルパフェ事件』のあらすじ

小市民を目指す小鳩君の、苦悩と甘いものと推理の日々

小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。

さかしらに探偵役を務めるなどもってのほか。

諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!

恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある小鳩君と小佐内さんは、今日も二人で清く慎ましい小市民を目指す。

そんな彼らの、この夏の運命を左右するのは〈小佐内スイーツセレクション・夏〉!?

大好評『春期限定いちごタルト事件』に続く待望のシリーズ第2弾!

(『夏季限定トロピカルパフェ事件』前書きより)

前作『春季限定いちごタルト事件』が高校1年生の春のできごとでした。

なのでてっきり、『夏季限定トロピカルパフェ事件』は高校1年生の夏かと思っていたら、小鳩くんも小佐内さんもいつの間にやら高校2年生になっているんですね。

少なくとも高校1年生の間は、目指すべき小市民として、目立たず騒がず過ごせていたようです。

 

本作、『夏季限定トロピカルパフェ事件』は、高校2年生の夏祭りから物語が始まります。

小佐内さんの、

「ところで小鳩くん。夏休み、何か予定ある?」

「わたしね。……何だか、素敵な予感がしてるの!」

とのセリフから、小鳩くんは小佐内さんの夏休みスイーツ巡りに付き合うことに。

 

彼氏彼女の恋愛関係ではなく、互恵関係である2人。

いつもらしからぬ小佐内さんの態度に疑問を思いつつも、小鳩くんはいわれるままに、あまり得意ではない甘いものをおなかに詰め込んでいく。

小佐内さんの真意は果たしてどこに。

小鳩くんがそんなスイーツの甘さと夏の暑さと闘いながら夏休みを過ごすある日、小佐内さんが誘拐されてしまう!

なぜ小佐内さんが誘拐されたのか、彼女はどこに連れていかれたのか。

探偵役を封印していた小鳩くんも、緊急事態だからと言いつつ、愉悦を隠し切れない様子で解決に挑みます。

相手を理解するということ

本作の中でとても気になる小鳩くんの言葉。

自分がよく知っている人間が思わぬ行動を取ったら、どうしたんだろうと不思議に思うだろう。

思わぬ行動が重なれば、相手に何か心境の変化をもたらす重大事があったのかと心配する。

そして、それがさらに続けば、自分はもしかして相手のことを理解し損ねていたのではないかと疑問を持ち始めることになる。

(米澤穂信『夏季限定トロピカルパフェ事件』(シェイク・ハーフ)より)

いつもらしからぬ小佐内さんの言動を思っての言葉です。

これはすごくよくわかる気がします。

相手のことを理解していたつもりでも、実は意外と理解できていないもの。

1回目は不思議に感じ、徐々に何かあったのではと心配になり、最後には自分の理解に疑問を持つ。

これは友人との間でも家族や恋人といった身内との間でもありうること。

でも疑問を持ったとき、それで落ち込んだり、自分に自信をなくしたりする必要がない。

相手にそうした自分が知らなかった一面があったと知ることができたということだから。

 

本作の場面とは少しずれる感想かもしれませんね。

相手を完全に理解するということはできないと私は常々思っています。

だからこそ、自分の知らない相手の姿を見ることができるのはいいことなのかなと。

自分の中でできあがっていた相手への理解、相手のイメージ。

そうしたものからまた一歩先を知ることができ、相手との距離を縮めることができたとむしろ喜ばしいことだと。

自分の知らない相手の姿を知るということはときに恐ろしいことかもしれません。

でもそこを素直に受け止めるときにまた新しい関係を積み上げていけると感じます。

『本当に完全な偶然なんてそうはない』

本作で気になる小鳩くんの言葉その2。

本当に完全な偶然なんてそうはない。

完全な必然がそうそうないようにね

(米澤穂信『夏季限定トロピカルパフェ事件』(スイート・メモリー))

本作の中で小鳩くんは、小佐内さんを巡る誘拐事件について、これだけの要素をはらんだものが偶然のはずないよねという意味合いでこの言葉を使っています。

小佐内さんが意図して行動した結果であろうと。

 

この言葉もすごくよくわかります。

本当に完全な偶然と完全な必然。

果たしてそんなものが存在するのか。

「これは運命!」

なんていう人もよくいますが、運命だとか偶然だとか必然だとか、そうした言葉が私はあまり好きではないです。

そんな一言で表せるものなんてそうそうないと思うから。

これらの言葉って、そこに人の行動や努力、意図、想いといったものが介在しないように感じるんですよね。

でも、人の行動があるから、人の想いがあるから様々な要素が絡み合って結果が生まれる。

偶然が積み重なってできる結果の中にだって、人の存在があって初めて形となる。

そう感じるからこそ、この小鳩くんの言葉はすっと入ってきました。

おわりに

今回も、だいぶ本作の内容とずれた記事になってしまいましたが、本の読み方、感じ方は人それぞれということでご勘弁ください。

『夏季限定トロピカルパフェ事件』でこれまでの関係に変化が生じた小鳩くんと小佐内さん。

次作の『秋季限定栗きんとん事件』ではどんな姿を見せてくれるでしょうか。

期待に胸を膨らませつつ、書評を終えさせていただきます。

※小説しか読んだことなかったのですが、気づけば漫画にもなっていたみたいです。