歴史ものの小説って、どうしたってすべてをノンフィクションにできません。
史実の間にある空白を、作者の想像力で埋めて物語にしていく。
そうした意味で、現実にこんなことはなかったはずと思いながらも、
「本当にこんなことがあったのではないだろうか」
と思わずにはいられない。
今回読んだのは、米澤穂信さんの『黒牢城』です!
第166回直木賞を受賞した作品で、米澤穂信さんが初の戦国ものを描きました。
荒木村重と黒田官兵衛の推理によって、有岡城で起きた不可思議な事件の謎に迫ります。
米澤穂信さんの『黒牢城』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『黒牢城』のあらすじ
天正六年の冬。
織田信長に謀反した荒木村重は、有岡城にて反逆の機をうかがっていた。
そんな折、黒田官兵衛が単身で城に乗り込んでくる。
官兵衛が訪れたのは、此度の戦は負けると村重に忠告するためだった。
村重は官兵衛をその場で殺さずに地下牢に監禁した。
この時代、使者は切り殺されて送り返されるか、生かされて帰されるか。
どちらにしても、元の場所に戻ることになっており、村重の生きたまま捕らえるということは武士のすることとしては異例であった。
その後、城内では不可解な事件が立て続けに起こる。
見えない矢で射抜かれた人質。
挿げ替えられた首。
殺された僧と落雷。
村重は事件を解決するために動くが、なかなか解決の糸口が見つからない。
動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の軍師・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。
歴史的事実から壮大なミステリーが生まれた!
『黒牢城』の主役は、荒木村重と黒田官兵衛。
官兵衛は知っている人も多いかなと思います。
2014年に大河ドラマにもなりましたからね。
官兵衛は、あらすじでも書いたように、村重のもとを訪れたあと、荒木村重によって、有岡城の地下、暗く湿った土牢に幽閉されることになります。
当時、信長は一向一揆の本部でもある大阪本願寺と争っていました。
本願寺側には、西の雄と称された毛利がついています。
村重は、元々織田信長に従っていて、このときも秀吉の軍に入っていたが、ここぞというタイミングで織田を裏切り、本願寺側につきます。
史実として、『黒牢城』にもあるように、一年間徹底抗戦をするも、中川清秀や高山右近による裏切り、毛利の援軍が来ないことなどから、次第に戦況は不利に。
村重は、自ら毛利に援軍要請をするために、有岡城を脱出し、尼崎城へと向かいます。
村重は側近たちの説得を受けても、最後まで織田に下らず戦い続け、信長が本能寺の変で亡くなって以降は、茶人として有名になります。
『黒牢城』でも、「寅申」などの茶器が何度も出てきましたね。
上記のことは、ちょっと歴史系の本を読めばいくらでも出てくる話です。
でも、当然ながら、『黒牢城』に出てきたようなミステリー的な話って、史実としては存在しないんですよね。
歴史的な事実から、想像力を働かせ、登場人物が魅力的かつ、物語としてもおもしろいものを作る。
もう、見事!の一言に尽きます。
歴史物の小説としてもおもしろい
米澤穂信さんといえばミステリー作家。
ミステリーは当然、謎がつきものですね。
『黒牢城』でも、いくつもの謎が生まれます。
正直、村重的には、織田と戦っているんだから変なこと起きるなって感じだったでしょうね。
謎に迫る方法も結末も、読者としてとても満足のいくものでした。
でも、それだけではないんですよね。
歴史物の小説としても、非常に描写がうまく、これまで読んできた歴史物と比べても全然違和感がないんですよ。
米澤穂信さんは昔から好きでしたが、黒田官兵衛と荒木村重を描くと聞いて、
「えー! 戦国武将書いちゃうの?」
と、どんなものが仕上がるんだろうという期待と不安があったものです。
ところが、想像を超える面白いものができていて驚かされました。
『黒牢城』を読み終えると、巻末に参考文献が載っているのですが、かなり詳しく資料にあたって当時を学んだことがわかります。
それだけの努力の先に、『黒牢城』があるのだと思うとまた感じ入るものがあります。
人の心って難しい
『黒牢城』では、人の心理というか想いというか、そうしたものを考えさせられる部分もあります。
戦国の世だからもちろん今とは思想も考え方も違います。
その当時の人の中でだって、全然違った考えを持った人もいるんですね。
味方を裏切って相手につくことも、自分の家を守るためには当たり前のように行われ、逆に主に忠誠を誓う武士もいる。
武士ではない農民たちからすると、主が誰であるうんぬんよりも、日々の生活が豊かになればそれに越したことはないのかな。
それに、一向宗に南蛮宗と、異なる宗教に所属する人たちによる思想の違いも出てきます。
同じように本願寺に味方し、一向宗の教えを受けているものであっても、宗教を上位とする者もいれば、あくまで武士としての生き方がある上での宗教という者もいる。
一人として同じ考え方で生きてはいないんですね。
そうしたそれぞれの思惑が交錯し、複雑に絡み合って、本来生まれるはずがなかった謎を生み出しています。
こうした思想とか心理とかって、小説の中だけでなく、一つの社会にも同じことがいえるんですよね。
私の職場は50人くらいいますが、やはりいろんな考えがあって、だからもめることもあるし、軋轢が生まれます。
よく、相手の立場になって考えよう、なんて言いますけど、それって理想であって現実には難しい。
でも、同じ考えばかりではないからその分、そこから飛躍することもできる。
おわりに
元々、米澤穂信さんのファンで、黒田官兵衛も好きだったので、二重にわくわくさせられながら読ませてもらいました。
正直、期待以上のものがあり、新しい姿を見れたようでとても充実した時間でした。
歴史物って、それを読むと、それに関連した小説にも手を伸ばしたくなりますね。
官兵衛とか、毛利とか。
中国地方は地元がそっちなのでかなり昔から興味はあるんですよね。
こうした刺激を受けるのも、『黒牢城』が素晴らしかったから。
まだ読んでない人はぜひ手に取ってみてください。