渡辺優さんの書く主人公っていつも独特!
と、わくわくしながら読ませてもらいました。
今回読んだのは、渡辺優さんの『悪い姉』です!
本の表紙、けっこう好き。
冒頭から姉への殺意を語る主人公に圧倒されます。
人の感情って、ちょっとしたきっかけで反転したり、本音を隠して自分自身さえもだましたりするもの。
家族だから感じるものもあるし、ずっと一緒にいると思った友人でも、気づけば離れていることも。
ここでは、『悪い姉』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『悪い姉』のあらすじ
三月生まれの妹・倉石麻友と、前年四月生まれの姉・凛。
年子となるため、同学年として暮してきた。
この姉が誰もが振り返るような美少女なのに、とても意地悪で残酷。
呼吸をするように他人の悪口を言い、弱そうなクラスメイトをいじめていた。
麻友もそんな姉からの被害を受け続けている。
付き合っていた彼氏も、仲の良かった友人も、姉のせいで離れていってしまう。
姉さえいなければ、私はもっと幸せなのに。
高校受験を機に、姉から離れようと決意をするも、姉も一緒の高校を受けると言ってついてきてしまった。
高校二年生になった春。
麻友は、どんな方法なら自分の平穏な生活を守りながら姉を排除できるかを考えていく。
冒頭からぎょっとさせられる
渡辺優さんって、冒頭から読者をぎょっとさせることが多いんですよね。
『悪い姉』では、次の一文から始まります。
平穏な生活を手に入れるために殺すのだから、絶対にバレてはいけないと思った。
(渡辺優『悪い姉』より)
「いきなりの殺人予告!?」
とこれから何が起きるんだろうって思わされます。
そこから少しずつ、姉の悪行についての話が出てくるんですけど、たしかに姉は悪いやつだ。
妹の麻友がこうむった被害はそんじょそこらのものではない。
でも、この妹もなにげにヤバい。
夢でしょっちゅう姉を殺す夢を見て、現実にも姉の殺害計画を立てようとする。
好きな男の子がいれば、その子とのちょっとした触れあいだけで、
「これはもう付き合っているといってもいいよね!」
などと、友達に思いのたけを伝えまくって引かれてしまう。
姉にしてこの妹か、と、なかなか大変そうなご家庭なわけです。
でも、麻友のほうは、頭の中ではいろいろと妄想してしまうけれど、日常生活はわりと真っ当に生きているんですね。
姉のことが友達にばれないように立ちまわりつつ、ふつうの高校生です。
一方で、姉はどこに行っても周りのことはお構いなし。
だから、小学校や中学校では女王のように君臨していたけど、さすがに高校生にもなると、クラスでも浮いてきて、避けられ始めていく。
前半で、いかに姉が暴君かってことが描かれていき、少しずつ関係性に変化が生まれていくから目が離せません。
両親はいったいなにをしていた?
『悪い姉』で気になるのは、麻友と凛の両親。
妹が姉を殺したいと思っていて、姉も明らかに同級生をいじめたり、家で悪口を言ったりとけっこう問題あり。
でも、親がぱっとしない。
母親は、姉の悪行を聞いていても、
「人を悪く言っちゃだめよ」
なんて、とりあえずの注意をするだけで、それ以上、踏み込もうとしない。
父親なんて、姉が不機嫌そうにものに当たったりしているのに、姉がいなくなって時間がたってから、
「なにかあった?」
などととぼけたように言う。
我関せずな態度が余計に姉のそういった態度を助長していったんでしょうね。
子どもができてから余計に思うことだけど、親の役割って本当に重要。
兄弟姉妹がけんかしたり、もめたりするのって当たり前のことだし、先生や友人のことを悪く言ったりすることもまあよくある。
そうしたときに、うざかろうが、面倒だろうが、親が少しストップをかけれるかってでかいなって。
仕事柄、いろんな家庭を見てきましたが、指導できない親って子どもに優しいのではなくて、子どもをダメにしてしまうだけ。
家族という抜け出せない檻
家族って言葉はかなり重たいもの。
きっと、凛が麻友の姉でなければ、とっくの昔に麻友は凛との縁を切っているんだと思います。
嫌な友達ならすぐに離れて、別の友達と一緒にいればいいだけですからね。
姉だからこういうものと思うのだし、一生付き合っていかなくてはいけないって。
また、家族の情ってのもなかなかふつうにはないものなんですよね。
これって、兄弟姉妹よりも親との関係でよく見られることですが、育児もしない、虐待はするって親でも子どもは不思議と親のことを嫌わなかったりするんですよね。
特に年齢が若いほど、そういった部分はある。
暴力を振るわれても、自分が悪かったから仕方がないって思いこんだり、時折見せる優しさに愛を感じたり。
姉妹だとどうなんですかね。
やっぱりそれだけで、ほかとは特別な存在になっているのかなと感じます。
成長する妹と、停滞する姉
『悪い姉』では、割と対照的な姉妹。
序盤は、絶対的強者である姉と逆らえない、立ち向かえない妹という構図。
それが物語の進行とともに、少しずつ関係性に変化が出てきます。
幼少期から好きなように振る舞って、自分の思うようにならないと癇癪を起こし、周囲に大事にされてきた姉。
でも、少しずつ周りも成長して、同じことをしていても通用しなくなっていく。
麻友もまた、そのことに気づいていく。
姉は、本当はそこまで恐れる必要はないのではないかって。
それでも、小さいときからの印象もあって、恐怖の対象。
そこを一歩踏み込んで、正面から対決することで、麻友は姉という呪縛から抜け出していけます。
そのあたりの描き方が個人的にはとても好きで、凛がどこまでいっても、悪い姉でいてくれてよかった気もします。
おわりに
人の成長とか、内面の変化がある小説ってやっぱりおもしろい。
『悪い姉』では、変わっていく妹と、変わらない姉との対比もまた見どころでした。
人が変わるって簡単なことじゃないけど、切実な思いがあると、目の前にある壁も乗り越えていける。
そういう姿って、読者としてもとても楽しい。
渡辺優さんだと『カラスが言った』も、人の変化という点ではとてもよかったです。