自分や大切な人が病気になってしまったとき。
人の数十倍の速さで年を取り、1年以内に命を落とすと告げられたとき。
自分だったらどんな生き方を選ぶだろうか。
今回紹介するのは、宇山佳佑さんの『桜のような僕の恋人』です!
映画として有名な作品なので、聞いたことがある人も多いと思います。
ここでは、『桜のような僕の恋人』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『桜のような僕の恋人』のあらすじ
朝倉晴人には好きな人がいた。
行きつけの美容室の美咲。
初めて入った美容室で一目ぼれをして以来、月に一回、足しげく美容室に通うことにしていた。
その日、晴人は勇気を出して美咲をデートに誘おうと決意していた。
桜が美しく花開いた時期だったのでお花見デートを考えていたが、なかなかその話をするきっかけが出てこない。
美咲が桜を話題にした瞬間、今しかないと思った晴人は、散髪中にも関わらず、急に後ろを振り向いてしまう。
すると、目の前には青ざめた顔をする美咲。
美咲は、晴人の耳たぶを切り落としてしまったのであった。
病院で治療を受ける晴人と、謝罪を繰り返す美咲。
お詫びに何でもすると口にする美咲に、晴人は自分とデートをしてほしいと頼み、二人はお花見デートをすることになる。
晴人は、そのとき、フリーターなのに、美咲にはカメラマンであると嘘をついていた。
小さいころからの夢であったカメラマンを挫折した晴人。
でも、美咲に相応しい男になる、今の自分を変えたいと、晴人は再びカメラマンを目指して動き出す。
断れない状況でデートに誘う晴人に、当初、憤りを感じる美咲であったが、誠実でまっすぐに想いをぶつけてくる晴人のことを次第に意識し、心惹かれていく。
そうして交際が始まった二人。
これからもこの幸せが続けばと願う二人であったが、美咲は自身が病気であることを知らされる。
「ファストフォワード」症候群。
人の数十倍の速さで老化をしていき、発症してから1年で命を落とすという難病。
治療方法も確率されていないというのである。
体力が落ち、白髪が増えてきた美咲は、これ以上、自分が老いていく姿を晴人に見せたくはないと思い、辛い決断を下す。
”桜”という美しくも儚い花
『桜のような僕の恋人』の題名のとおり、”桜”が何度も登場します。
最初はデートをするときのきっかけとして。
次に晴人が美咲を桜のような人とほめたとき。
その後も、桜色のプレゼントをしたりと所々に登場しますね。
でも、桜ってたくさんの人に愛され、美しく咲き誇る一方で、あっという間に儚くも散ってしまうものです。
二人の関係もまた、短いわずかな期間に、美しく輝いたあと、瞬く間に終わってしまう。
桜のきれいな部分と、短期間しか存在しない部分。
その二面性がまた桜を輝かせるものではあるけれど、それが恋愛や人生に当てはめるととても悲しいものになってしまいます。
誰かのためにと思うこと
主人公である晴人は、一度はカメラマンを目指して上京したものの、仕事が厳しく逃げ出してしまいます。
その後、フリーターとしてうだつの上がらない生活を送っていましたが、美咲と出会ってから変わることを決意します。
「美咲さん!」
突然名前で呼ばれて美咲は固まった。
「僕はあなたに相応しい男になってみせます!」
変わりたい。嘘つきで何事からも逃げ続けていた情けない自分から。ちゃんと自分を誇れるように。変わりたいんだ。だから――、
「だから変わります!」
晴人は拳を強く握った。
「あなたに好きになってもらえるように……」
(宇山佳佑『桜のような僕の恋人』より)
動機ってなんでもいいんだと思うんですよね。
人が変わりたいって思うためには。
その中でも、一番強く変わりたいって決意できるのは、その動機に誰か大切な人がいるときだと思います。
『桜のような僕の恋人』のように、好きな人に好きになってもらいたいから、相応しい人になりたいからというのもその一つですね。
結婚を機に変わる人もいれば、子どもが産まれたことで一生懸命になる人もいます。
自分だけで変わろうと思うのには限界があります。
それだけ、人の存在というのは大きなものです。
今の自分を振り返ってみて、そういう相手がいたら、それはとても幸せなことなんだと思います。
個人的にはあまり展開がすっきりしない
『桜のような僕の恋人』は、評判の良い作品です。
ただ個人的にはどうもすっきりしない。
「なんでこういう展開にしたんだろう」
という点がけっこうあるんですよね。
たとえば、病気が発覚したあと、美咲は晴人を遠ざけようとします。
自分が老いていく姿を彼だけには見せたくない、と。
病気とか、余命何年っていう作品だとそういう展開はまあよくあるのかなと思います。
『余命10年』とか『君の膵臓をたべたい』とかみたいに。
でもそういう場合って、どこかでそれに気づいて一緒に頑張るとか、恋人を支えていくとかそういうものなのかと思いきや、晴人まったく気づかない。
しかも、仕事でも勝手にうじうじ悩んで迷走しているし。
結局、美咲の病気を知ったのは、もう病気の末期になってから。
それも美咲を見かねた美咲のお兄さんから教えられてというもの。
「晴人のあの決意はなんだったんだ!?」
とつい思ってしまいます。
これが、美咲に突き放された後も、必死に仕事を頑張って、美咲に会えなくても、いつか自分の写真を見てもらいたい…と、晴人が励んでいたのなら、
「今こそ美咲のもとへ行くんだー!」
と読者としても思うのですが、全体的に空回っている晴人。
なかなかうまく共感できずでした。
終わり方も、なんというか、美咲への想いを大切にするという晴人の気持ちは尊いとは思います。
ただ、20歳半ばでそんな重い決意をしちゃって大丈夫?
美談としてはいいけれど、これからの晴人がとても心配になります。
美咲のために頑張っていたお兄さんも、どうにも報わらない形での結末なので、いろんなことが置いてけぼりになっている。
映画としては、こういう展開でも訴えるものもあり、感動するのかもしれないですが、小説としてはもう一声って感じです。
おわりに
と、最後は辛口な感想になってしまいましたが、小説として面白かったとは思っています。
実際に、仕事関係で子どもたちにこの本を勧めたりすると、
「すごくよかったです!」
という感想を持つ子の方が多いんですよね。
となると、私が捻くれた見方をしてしまっているのかも。
桜という花も言葉の響きもとても好きだから、ハードルが上がっていたのかもしれません。
言葉の一つ一つはぐっとくるものもあったので、あとは好みの問題ですね。
こういった病気による別れを題材とした作品は、切なくなるし、自分に当てはめて考えてしまいますが、そうしたことを考えるのも大切だなといつも思わされます。