医者になるっていうと、とにかく親が医者であったり、お金持ちでなければなれないっていうイメージがありませんか。
医大の学生生活も、お金がたくさんかかるってくらいしか、一般の人はわからなかったりします。
そんないまいちはっきりしない医大の生活について、丁寧かつ面白い作品にしてくれているのがこちら!
史夏ゆみさんの『イダジョ!医大女子』です!
作家さんの苗字、私はぱっとわからなかったのですが、「とげ」と読みます。
私は別に医者を目指すものではないのですが、仕事を題材にしている小説が好きでその一つとして読ませてもらいました。
すると、これまで全然イメージのわかなかった医大生というものが少しですが理解できた気になります。
お医者さんになる人ってのは、大変だしそれだけの努力を積み重ねてきたのだなと感じさせられます。
Contents
『イダジョ!医大女子』のあらすじ
安月美南は、この春から聖コスマ&ダミアノ医科大学に入学することになった。
美南はどこにでもある普通のサラリーマン家庭に育ち、小さいときに医者になりたいと思うようになり、家族のバックアップもあり医者を目指すことになった。
しかし、そんな美南は入学早々前途多難。
同じ新入生ではあるものの、御曹司たちとの差は歴然。
実習・勉強での実力不足、勉強不足で成績も下から数えた方が早いくらい。
それでもなんとか食らいついていく中、身近な人の死を目の当たりにして自分の医者になることへの覚悟の甘さを痛感。
ときには同級生たちと大変な解剖実習や試験を乗り越え喜びを分かち合い、ときには恋をして心を揺さぶられ。
さらに父の病気で学費問題にも悩まされ、美南は日々悪戦苦闘しつつ、必死にすべてを乗り越えて一人の医者となるために奮闘していく。
医学部を目指す中高生にはおすすめの一冊!
史夏ゆみさんの『イダジョ!医大女子』。
この小説は、医者や医学部を目指そうと思っている中学生、高校生におすすめだなと思う一冊です。
意外と知らない医大生の日常が描かれており、実際に医大生になる前に読むと、イメージもわいてくるし、受験勉強のモチベーションになることでしょう。
医者という仕事は、とても大切で責任もやりがいもあるものだと思います。
自分がなぜ医者になりたいのかという気持ちを再認識したり、考えたりする上でも、参考になるかなって思います。
もちろん、ふつうにおもしろいからおすすめというのもあるんですけどね。
医者という仕事の喜びと孤独を感じる
当たり前ですが、医者の仕事はやりがいとか達成感ばかりではありません。
それが印象的だった二つのセリフ。
「医師って、ある意味人を喜ばせられる究極の仕事だと思わない?
人が喜ぶと、自分も嬉しくなるんじゃない?」
「人の生死などという一番キツいものを扱っていながら、誰かと感情を共有する時間すらろくにない。何とも孤独な職業だ」
最初のセリフはすごくわかりやすい医者のやりがいだなと思います。
眼の前の患者さんが良くなってくれて、患者さんにもそのご家族にも喜んでもらえる。
一方で、すべてが順調に治療できるわけでもないし、ときには人の生死と向き合わなければいけません。
そんなとき、家族や友人とその気持ちを共有することができるのか……。
医者は時間的にも多忙な仕事であり、仕事からして、なかなか他人と共有できるものでもない。
その孤独との闘いも一つ医者というものなのだと感じさせられます。
「初めて”〇〇”になる」ということ
また、自分の仕事に対する向き合い方という点。
「学生時代に呆れるほど勉強をし、命をすり減らしながら研修医時代を過ごせば分かるが、医師という肩書や安定した大きな収入への野望だけで、これほどまでに長く辛い下積みはそう簡単に我慢できるものではない。
経済的・社会的恩恵は、大きいけれど所詮副産物なのだ。
どの学生も長い学びのあいだに医師とは、命とはという命題に一度は突き当たり、悩み、やがて自分なりの結論と正義を持って患者と対峙する。
その時、初めて”医師”になるのである」
この「その時、初めて”医師”になるのである」という言葉が私はかなり好きです。
これは医師に限らず、ほかの仕事においても、家庭の役割においても同じように考えられるものかなと思いました。
自身の仕事でも、ただこなすだけでももちろん同じように給料はもらえますし、特に問題にはならない。
でも、そこに何を持って向き合うか、どう自分が行動するかで、本当の意味でその仕事を任される人間になるのだと。
家庭でも法律上も形式上も父親や母親であっても、本当の意味での父親になれているのかって難しいことです。
親ってなんなんだろうとは答えのないものなのかなとも感じます。
それでも、小説の美南のように真正面から逃げずに向き合っていく中で、いずれも形が見えてくるのかなと思いました。
主人公はちょっと残念かも
『イダジョ!医大女子』はおもしろく読ませてもらいました。
しかし、どうにも主人公の美南がすこーし苦手なタイプかなとも思い、そこだけちょっと残念でした。
いいんですよ、まっすぐな性格だし、がつがつ前に進もうとするし。
でも、一方で周囲への気配りとか、周りが見えてないところとか、態度あいまいにして人を傷つけてしまうところとか……。
物語の流れからそうした部分が必要で、これから成長していくってところなんでしょうけど、そこで共感があまりできなかったなとは思います。
続編で研修医編、完結編とあるようなので、どんな成長を果たしているのか楽しみにして読んでいこうと思います。
おわりに
医学生を題材にした小説は初めて読みましたが思っていたより楽しめました。
やはり、自分が知らない分野のものを知れるというのはいいですね。
だから仕事や特定の分野に視点をあてた小説はやめられません。
そうした小説では三浦しをんさんの、『舟を編む』や『神去なあなあ日常』もおもしろいですね。
前者は辞書編纂の話で、後者は木こりの話です。
その仕事について知ると同時に、自分自身の仕事を振り返るきっかけにもなりますね。
医療系はあまりこれまで読んでこなかったですが、今回をきっかけに『チームバチスタの栄光』とか有名どころにも手を伸ばしてみようと思います。