フランスの飛行士であり作家でもあったサン=テグジュペリ。
彼のこの作品は、世界中のたくさんの読者にいまなお愛されています。
今回紹介するのは、サン=テグジュペリの『星の王子さま』です!
子ども向けに書かれた童話でありながら、その内容はとても優しく、深いものがあり、大人であっても、多くのことを感じさせられずにはいられません。
1943年に書かれた本書は、日本では1953年に岩波少年文庫として刊行されました。
そんなに前の童話であるにも関わらず、これだけ愛され人気を持つということはとてもすごいことですね。
『星の王子さま』で語られる本当に大切なものとはなにか。
王子さまは旅をする中でいったい何をすることができたのか。
ここでは『星の王子さま』のあらすじとどういったことを指し示しているのかを紹介していきます。
Contents
『星の王子さま』のあらすじ
サハラ砂漠で星の王子さまと出会う
語り手であるぼく。
今から6年前にサハラ砂漠上空を飛んでいるときに、飛行機のエンジンが故障して不時着をしてしまいます。
たった一人で飛んでいたから、自分一人で飛行機を修理して砂漠から脱出をしなければいけません。
不時着した次の日の朝、ぼくはそれまで聞いたことのない不思議な声で起こされます。
その子はぼくに「ねえ……。ヒツジを描いてくれない?」とお願いをしてきました。
それが星の王子さまとの出会いでした。
王子さまは、たくさん質問をするくせに、ぼくからの質問にはぜんぜん答えてくれないので、いったいどういう子なのかがなかなかわかりませんでした。
それでも少しずつ彼が話したことをつなぎあわせることでいろんなことがわかってきました。
王子さまは、ほかの星からやってきたのでした。
「星の王子さま」の星
王子さまの星は、すごく小さく、ちょっとでもまっすぐ歩いたら、すぐにもとの場所に戻ってきちゃいます。
星の大きさもふつうの家くらいの大きさしかないのです。
ぼくは王子さまの星は1909年に発見された〈小遊星B612〉だと考えました。
王子さまは毎日少しずつ、王子さまが住んでいた星のこと、星から出発したいきさつ、そしてその後の旅の話をしてくれるようになりました。
王子さまの星にはバオバブの木があります。
小さいときはバラの芽との区別がつきにくいけれど、きちんと駆除しないと、すぐに大きくなって星を壊してしまいます。
王子さまの星では、夕日を一日に何回も見ることができます。
星が小さいから少しいすを動かすだけでいいんです。
王子さまは一日に四十三回も見たことがあるそうです。
王子さまの星には、たった一輪のバラがいます。
それは王子さまの大切なバラでした。
バラはちょっと気難しい虚栄心で王子さまを振り回します。
王子さまは、一生懸命バラのために動きます。
お水をあげたり、強風に飛ばされないようにドームを作ってあげたり。
でも、素直じゃないバラの言葉によって、心にとげが刺さったように傷ついてしまいます。
そして王子さまは星から逃げ出してしまうのでした。
逃げ出してしまってから王子さまは気づきます。
「――ボクは何一つ大切なことを学ばなかった……。
バラの言葉ではなくて、バラの行動に基づいて判断すべきだったんだ。
バラは、素敵な香りでボクを満たし、ボクの心を明るくしてくれた……。
意地悪な言葉の背後には、バラの優しさがかくされていた。そのことに、ボクは気づかなくちゃいけなかったんだ」
(サン=テグジュペリ『星の王子さま』より)
王子さまと6つの星
自分の星を飛び出した王子さまは、近くにあった小遊星325,326,327、328、329、330を訪れて、自分にできることをしながらいろいろと学んでみたいと考えました。
最初の星には〈王様〉が住んでいました。
訪れた王子さまを見て、「おう、家来がきたな」と叫びます。
あくびをする王子さまに、あくびを禁止するといったり、すわるように命令したりします。
二番目の星には〈うぬぼれや〉が住んでいました。
王子さまを見て、「やあ、やあ、わたくしのファンがきましたね」といいます。
うぬぼれやは、被っていた帽子を取ってあいさつを何回も繰り返します。
王子さまがいつまで続けるのかと尋ねても、うぬぼれやは聞いていません。
うぬぼれやは、自分をほめる言葉しか聞かないのです。
次の星には〈酔っ払い〉が住んでいました。
その次の星には〈ビジネスマン〉。
5番目の星には〈点灯夫〉。
王子さまは、一日に何度も街灯の灯りをつけたり消したりする点灯夫を見て、不思議に思います。
だってこの星には家もなく住民もいないのですから。
でも王子さまはこうも思います。
「あの人は、きっと〈王様〉や、〈うぬぼれや〉や、〈酔っ払い〉や、〈ビジネスマン〉からは馬鹿にされるだろう。
だけど、ヘンじゃないのはこの人だけだ。
だって、この人だけが、自分以外の人たちのために働いているんだもの。
これまで会った人たちは、みんな、自分のことしか考えていなかった」
(サン=テグジュペリ『星の王子さま』より)
6番目の星には〈地理学者〉が住んでいました。
地理学者は王子さまの星について尋ねてきます。
バラの話をしたときに、地理学者は、花は短命で近いうちに消えてしまうのだと王子さまに告げます。
王子さまは、星にバラを残して出てきたことを初めて後悔しました。
でも気を取り直した王子さまは、地理学者のすすめで地球を目指すことにしました。
王子さまの旅と出会い
地球はこんな星です。
「地球は、どこにでもあるような星ではありません。
地球には、百十一人の〈王様―黒人の王様もいます―〉、七千人の〈地理学者〉、九十万人の〈ビジネスマン〉、七百五十万人の〈酔っ払い〉、三億千百万人の〈うぬぼれや〉がいるからです。
つまり、約二十億人のおとなたちがいるということになります」
(サン=テグジュペリ『星の王子さま』より)
そしてとても大きな星です。
だから地球の砂漠に降り立った王子さまは、まわりに誰もいないことにとても驚きます。
王子さまはそこからさまざまな出会いを経験します。
砂の中で輪になっているへびに出会いました。
花びらが3つしかないぜんぜん目立たない花と出会いました。
高い山に登ってこんにちはとあいさつをしたときは、こちらのいったことを誰かが繰り返すだけなので変な星だと感じます。
そうして長い時間をかけて歩いていくと、ついに道にたどり着きます。
道の先には庭があり、たくさんのバラが咲いていました。
どのバラも故郷のバラとよく似ています。
王子さまは、故郷のバラこそ宇宙でたった一輪のバラの花だと思っていたのでとても悲しくなりました。
そのとき、キツネがやってきました。
キツネは王子さまに自分を飼いならしてほしいといいます。
飼いならすとは絆を結ぶことだとも。
「みんなが忘れちゃっている大切なことだよ。それは、〈絆を結ぶ〉っていう意味なんだ」
――〈絆を結ぶ〉?
「そうさ。君は、まだ、ぼくにとって、ほかの何千人もの小さな男の子たちとまったく変わらない。ぼくには君は必要じゃない。そして、君にもぼくは必要じゃない。ぼくは、君にとって、ほかの何千匹のキツネとまったく同じだからね。
だけど、もし君がぼくと絆を結んだら、ぼくたちはお互いを必要とすることになる。君は、ぼくにとって、世界でたった一人の友達になるんだ。そして、ぼくは、君にとって、世界でたった一人の友だちになる……」
(サン=テグジュペリ『星の王子さま』より)
そうして王子さまとキツネはいろんな話をします。
やがて王子さまが出発をする日がやってきました。
王子さまもキツネも分れるのが悲しくなりました。
王子さまはここで、気づきます。
出会う前のキツネは、どこにいるキツネだった、でもいまはボクにとってはたった一匹のキツネになったということを。
故郷のバラは、ここの庭に生えているたくさんのバラとは違うたったい一輪の大切なバラだったということを。
キツネは別れ際に王子さまにいいます。
「それでは、大事な秘密を教えてあげよう。とても簡単なことさ。
それはね、ものごとはハートで見なくちゃいけない、っていうことなんだ。
大切なことは、目に見えないからね」
(サン=テグジュペリ『星の王子さま』より)
星の王子さまとの別れ
こんな風に王子さまの話は続きました。
気づけばぼくと王子さまが出会ってから一週間が過ぎていました。
まだ飛行機の修理は終わらず、最後の水もなくなってしまいます。
王子さまは井戸を探しに行こうといいました。
二人で何時間も歩いているうちに夜になり、星がきれいに輝き出します。
ぼくと王子さまはそれを眺めながら語り合います。
次の日の朝、目を覚ますと目の前に井戸がありました。
井戸の水をくんで飲むと、それは素敵な水でした。
その水は、ただの水ではありません。
星の下を長いあいだ歩き、滑車をすべらせ、ぼくの腕を使ってくみ上げた水です。
それはまるで素敵なプレゼントのように王子さまのハートの栄養にもなったのです。
水を飲んだぼくと王子さまは、またゆっくりと話をします。
王子さまは明日で地球に来てからちょうど一年になるといいます。
いまいるあたりに落ちてきて、一周年記念にもとの場所に戻ってきたところだったようです。
王子さまはぼくにいいます。
まだここにいるから、飛行機のところに戻って修理を続けるように、と。
ここで待っているから明日の晩になったら戻ってきて、と。
次の日の晩、ついに飛行機の修理を終えることができ、もとの場所に戻ってくると、王子さまは、井戸の側の壊れかけた壁の上に、足をぶらぶらさせながら座っていました。
どうやら王子さまはだれかと話しているようです。
それは三十秒で人を死なせることができる黄色いへびでした。
ぼくはびっくりして一目散にかけていきますが、へびはスーッと身を低くして滑っていき、どこかに消えてしまいました。
ぼくが壁のところまでいくと、王子さまが飛び降りてきてぼくの腕の中におさまります。
王子さまは真っ青な顔をしていました。
王子さまは真剣な面持ちでぼくの見つめ首に抱き着いてさみしそうにいいます。
「ボクも今日、自分の星に帰るんだ」と。
ぼくの腕の中で王子さまは遠くの方を見つめながら話します。
ぼくに描いてもらったヒツジのことを。
ぼくが飲ませた井戸の水のことを。
そして、本当に大切なものは目に見えないのだということを。
王子さまは、夜になったら星を眺めてほしいといいます。
あの星たちのどこかに王子さまの星があるから、きっと全部の星を眺めることが好きになる、全部の星が友だちになる、と。
王子さまは、ぼくにいつまでも友だちだよといってくれます。
一緒に笑いたくなったら、窓を開けて空を見上げるだけでいい、と。
そうしてたくさんのことをぼくに話してくれた王子さまは、次の日、自分の星へと帰っていくのでした。
王子さまが訪れた6つの星の人たち
『星の王子さま』には素敵なエピソードがたくさんありますが、私が好きなのは6つの星の人たちとの会話です。
特に感動があるわけでもないシーンですが、自分ってものや人間ってものを考えさせられます。
6つの星がなんだったか覚えていますか?
〇〈王様〉の星
〇〈うぬぼれや〉の星
〇〈酔っ払い〉の星
〇〈ビジネスマン〉の星
〇〈点灯夫〉の星
〇〈地理学者〉の星
の6つです。
これは大人が陥りやすい問題を表しているといわれています。
〈王様〉の星では、王様は王子さまに意味のない命令ばかりをします。
自分の権威を確認したくて、命令を守らせようとするんですね。
【権力】や【権威】に縛られた王様は、せっかくできた家来(と、王様は思っている)を大切にすることができず、王子さまはうんざりして星を去ってしまいます。
次に訪れたのは〈うぬぼれや〉の星。
他人は全て自分のファンというだといい、王子さまに拍手をさせたり、帽子を取っておじぎを繰り返したりします。
うぬぼれやにとって耳に入るのは自分を賞賛する言葉ばかり。
王子さまのほかの言葉はぜんぜん聞こえていません。
自分の聞きたいことしか聞けなくなってしまっています。
彼にとって大切なのは自分の人気と自分を讃える声だけでした。
〈酔っ払い〉の星では、お酒ばっかり飲んでいる酔っ払いがいます。
彼は恥ずかしいことを忘れるためにお酒を飲んでいるといいます。
王子さまがなにが恥ずかしいのかと聞くと、自分がお酒ばかりを飲んでいることが恥ずかしいというんです。
お酒を飲んでいることが恥ずかしくて、それを忘れるためにお酒を飲む……。
意味がわかりませんよね。
嫌なことを忘れ、快楽に身をゆだねるだめな大人の典型のような姿です。
王子さまも困惑してしまいます。
〈ビジネスマン〉の星では、ビジネスマンがとても忙しそうにしていて、顔を上げようともしません。
彼は星の数を数えて、せわしく仕事をすることに意義を感じています。
そして、数えた星を所有することを目的としていました。
彼の「おれは、真面目な人間だからな!」というセリフも印象的です。
確かにばりばり仕事をしていると、仕事がすごくできる自分すごい!っていう気持ちも出てくるもの。
さらにそれによってお金をたくさん稼げるなら、本当にできる男って感じがしますね。
でもこの〈ビジネスマン〉はそれだけに執着してしまって、それ以外のことが抜け落ちてしまっています。
〈点灯夫〉の星では、王子さまは点灯夫だけが誰かの役に立っていると感じます。
でも、点灯夫は、「規則だから」街灯をつけては消す行為を繰り返しています。
この人もビジネスマンとは違った形ですが働くことをよしとしています。
ただ、働くために働いている、規則だから働いているように感じますね。
なんのための労働なのか、そういうことを考えることもないのでしょう。
それ自体は誰かに迷惑をかけるわけではなく、むしろ人のためになること。
しかし、それだけの人生だとなんと味気ないことでしょうか。
〈地理学者〉の星では、一人の男が何冊も本を広げながら調べ物をしています。
探検家から聞いた話をまとめているんですね。
これこそ本当の仕事だと王子さまは喜びますが、地理学者は自分ではちっとも外に出て調べようとしません。
全部探検家が自分のところに報告するのを待つだけです。
学ぶことはとても尊いことですが、完全に頭でっかちになってしまっていますね。
学ぶことに価値はとてもありますし、人を成長させる上で不可欠ですが、学ぶだけでは意味がありません。
学びそれをどう生かしていくのかです。
この6つの星にいる人は、誰にでもある要素をとても偏った姿にしたものに感じます。
一つ一つは別に悪いことではないんですよね。
権力も、人気も、快楽も、財力も、労働も、学問も。
どれだって人間に必要なことですし、適切に持つことでより豊かな人生になるものです。
これがどれかに執着をしてしまったり、それがなければいけないと思い込んでしまうと、人間の本質も失われていくのだろうと思います。
キツネが教えてくれたこと
自分を飼いならしてくれと王子さまに頼んだキツネ。
あらすじでも書きましたが、飼いならすこと=絆を結ぶこと。
一緒の時間を過ごして、相手のことを思ったり、お互いに何かをしてあげたり。
そうした行動や、相手のことを考えることで、それまでとは違った深い関係を築くことを指しています。
絆を結んだとき、それは自分にとってかけがえのない存在になっていきます。
王子さまにとってのバラも、キツネも、ほかの多くのバラやキツネとは違って、たった一つのバラであり、たった一匹のキツネになっていました。
私たちでもそうですよね。
たとえば学校の同じ学年に100人以上の同級生がいたとしても、みんな同じように大切な同級生と感じる人ってあまりいないと思います。
一緒にたくさんの時間を過ごして、おしゃべりをしたり遊んだりする中で、仲が良くなって、人によっては親友だなんて思える相手になることもあります。
もちろん、誰だって大切な個ではあります。
でもその人にとって大切な人って【みんな】にはなりえないんですよね。
『星の王子さま』は、自分にとって大切なものってなんなのかって考えるいい機会だと感じました。
キツネは、大切なものは目では見えないこと、絆を結んだ人のことをいつもでも大事にすることを私たちにも教えてくれています。
出版社によって異なる『星の王子さま』
『星の王子さま』は、たくさんの出版社から刊行されています。
いろんな表紙があって、自分のお気に入りを探してみるのも楽しいですね。
基本的な内容は同じなんですが、ところどころ表現が違ったり、言葉の優しさにも違いがでたりしています。
たとえば、6つの星でも、ビジネスマンと実業家、よっぱらいと酒浸りの男、うぬぼれやと大物気取りの男といったように、呼び方も違っていました。
こうした違いを見比べてみるのも楽しいかもしれません。
ちなみに私が読んでこの記事のもとにしたのは、「ゴマブックス株式会社」のものです。
なぜこれにしたのかというと、単純にこの表紙が一番好きだったからですね。
『星の王子さま』の関連書籍など
『星の王子さま』にはたくさんの関連書籍やグッズがあります。
私も伊豆にある星の王子さまミュージアムにいったときに、星の王子さまのしおりを購入して愛用しています。
私の妻は、星の王子さまの日記帳を買っていましたね。
一ページも日記が書かれることなく、その年は過ぎてしまいましたが……。
本当にもったいない、私が使いたかったくらいです。
子供向けにはこうした絵本も素敵かなと思います。
おわりに
『星の王子さま』は童話でありながら、本当に大人になっても楽しめる本です。
私も初めて読んだのは32歳のときでした。
それまでは有名なので名前は知っていましたが、逆にその有名さゆえに手が伸びなかったんですよね。
ちょっともったいないことをしていたなと思います。
今回、あらすじを書いたのでなんとなくこんな話なんだというのはわかってもらえたと思います。
でも、実際に読んでみると、あらすじだけではわからない、そこにある暖かさや優しさが直に伝わってきて、とても素敵な気持ちになれます。
ぜひ生涯に一度は手に取って読んでみてもらえたらなと思います。