片思いの相手と何かするのってとてもどきどきしますよね。
ましてや、一緒にどこかに泊まりに行くなんて、今までにない進展があるのではと考えてしまうのがあたり前。
でも、ですよ。
自殺した親戚の話を聞きに行くって、それはどうなんだ?
今回読んだのは、住野よるさんの『恋とそれとあと全部』です!
タイトルを見ると、「これは恋愛ものだ」と思いきや、どうにもそれだけではない様子。
生とか死とか、人生において切り離せないことを考えさせてくれます。
この作品が住野よるさんの10作目になるんですね。
10作目に相応しいすごくいい小説でした!
ここでは、『恋とそれとあと全部』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『恋とそれとあと全部』のあらすじ
めえめえこと瀬戸洋平には好きな女の子がいる。
同じ高校で同じ下宿に住むサブレこと鳩代司がその人だ。
サブレは細かいことが気になってしまい、ちょっと周りからめんどくさいやつだと思われている。
でも、めえめえは、それも含めてサブレの良さだと感じていた。
夏休みに入り、しばらく会うことができないと思っていためえめえだったが、なぜか、サブレとともに、サブレの祖父の家に泊りがけで行くことになった。
その目的は、サブレの遠い親戚が自殺をし、その部屋を見せてもらったり、話を家族に聞かせてもらったりするためだった。
妙な展開にはなったが、めえめえは、好きな女の子との関係が進展するのではという期待も込めて、夜行バスに乗ってサブレの祖父宅へと向かう。
青春!めえめえの片思い
きちんと青春、恋愛ものの小説でした。
めえめえがすごーくサブレのことが好きなのが伝わってきていて、
「めえめえ頑張れ!」
と思わず言いたくなるような場面がたくさん出てきます。
読んでいるとすぐにわかるんですけど、たしかにサブレってちょっとめんどくさい部分があるんですよね。
誰かになにかしてもらったら、相手が気にしないようなことでも、お返しをしないと気が済まなかったり、自分の言った言葉がしっくりこないとすぐに言い直したり。
でも、そうしたサブレの一つ一つを好きだなって感じるめえめえがとても良き。
サブレを理解したいって頭を悩ませるのも良き。
手をつなぐタイミングを図ってみたりするのも良き。
いやー青春だなって、若かりし頃が蘇ってくるようです。
言葉を大切にすること
上記したように、サブレが自分の言った言葉を言い直すことが何度もあるんですね。
ちゃんとめえめえに、
「言い直していい?」
って確認するところがおもしろい。
それくらい、言葉を大切にしてるんだろうなって思いました。
言葉って難しいです。
自分が口から出したものが、自分の意図100%で相手に伝わることなんてほとんどないと思うんですよ。
何気なく言った言葉で相手が怒っちゃったり傷ついたり。
「そんなつもりじゃなかったのに」
という経験は誰にでもあるもの。
めえめえはそんなサブレにしっかりと付き合って、言葉を慎重に選んでいく。
二人の言葉にまつわるやりとりが何度も出てくるんですけど、それによって少しずつお互いが理解し合っていく姿がすごくいいんです。
言葉がなくても理解し合えるなんていうのも素敵ではあるんですけど、私は言葉を紡いでいって相手のことがわかっていく方が好み。
二人の在り方がいいなって思いました。
独特の登場人物ばかりでわくわくする
メインの登場人物は、めえめえこと瀬戸洋平と、サブレこと鳩代司の二人。
めえめえは、いかにも体育会系な高校生で、うん、まあよくいるかもしれない。
でもサブレはちょっと変わった子で、言葉を大事にしつつ、細かいところが気になってしまう女の子。
ピスタチオがやたらと好きで、今回の旅行も、親戚の自殺を追いかけるものだからちょっと変なのかも。
でも、『恋とそれとあと全部』の登場人物はほかもなかなか濃い。
サブレのじいちゃんは、白髪オールバック。
手入れがされた髭を蓄えたお洒落な人物で、いい年なのにバイクにもがっつり乗る。
というか、じいちゃんの周りには、オープンカーを乗り回すご老人もいるのだから、けっこう破天荒な地域なのかもしれぬ。
めえめえたちの下宿仲間には、エビナ、ダスト、ハンライという三人がいます。
エビナはサブレと仲がいい女性で、かなり強烈なキャラクター。
自分に関係ないことには興味がなく、恋愛だって誰が付き合おうが別れようが関係ない。
でも、めえめえとサブレのことはちょっと気にかかる。
とはいえ、それはサブレが心配とか友情からくるものじゃなくて、もし二人がうまくいかなかったら、空気が悪くなるからというもの。
やるなら完全にサブレを堕とせとめえめえをせっつきます。
気に入らない相手を蹴り飛ばしたり、ぼろくそにけなしたりとけっこう恐ろしい人物。
ダストは、軽音部に所属する長身の男性で、ダストの由来は、入学当初制服の下によく着ていたTシャツに書いてあったバンド名からきています。
エビナに突然、みんなの前で告白をして、激怒され、その後も何度もエビナにアタックを繰り返す強者。
ハンライは、めえめえと同じテニス部に所属している男性です。
めえめえと一番仲が良い友人で、女性がどこまでなら許してくれるのかという疑問を持ち、それを実行してしまう行動力の持ち主。
手当たり次第に、手を握ったり、触ったりして、許容範囲を探り、案の定、周囲から冷たい目で見られてしまうという。
ハンライというあだ名は、由来がけっこう好き。
食堂でどんな料理にも、いつも半ライスをつけていることと、いつも半笑いをしているところからきています。
登場人物を追っていくだけでも楽しい小説だなって感じます。
死というもの
『恋とそれとあと全部』のテーマの一つは死とどう向き合うか。
まあ、自殺した親戚の家に押しかけるので、当然、そこには触れてくるわけですが。
ふつうに生きていたら、死ってあまり考えたりしないと思います。
せいぜい、親戚や知人が亡くなったときくらいでしょうか。
私は仕事柄、自殺未遂した子なんかにも出会うことが多いですが、あまり自分のこととしては捉えづらいところがあるんですよね。
死ってなんなんだろうなって。
死者の何かが世界に残ることってあるのか、幽霊は存在するのかなんてことにも触れています。
読んでいて私が思ったのは、死者はそこにいるわけでもなく、何かをするわけでもないけれど、それを受けて生きている人間が、勝手に受け取って、それによって存在するんだろうなって。
葬式にしたって残された人たちが行い、亡くなった人のためというよりは、生きている人たちが心の整理をするためのものなんだろうなって思います。
亡くなった人の部屋をそのまま残したり、むしろもっと思い出の品を集めたりするのも、そうした一つなのかな。
『恋とそれとあと全部』の中で、タナトフォビアって言葉も出てきます。
死恐怖症ってことらしいです。
死ぬこと自体が怖くてどうしようもなくなる。
死やそれに関連することに不安や恐怖を感じるようになる。
そこにいたる原因や理由はいろいろあるみたいなんですが、そんな症状があること自体を初めて知りました。
死というのは、どこかで誰にでも訪れるもので、逃れられないもの。
だからこそ、向き合い、意味を考える時間っていうのも大切なのかもしれない。
おわりに
これ以外にも、いろいろと書きたいことってたくさんある作品でした。
エビナのいう罪悪感とか、虹の話とか。
住野よるさんの作品って、『恋とそれとあと全部』で読んだのは8冊目になります。
残すは、三歩の第二集と、『腹を割ったら血がでるだけさ』の二つですね。
まだ二冊読んではいませんが、これまで読んだ中ではこれが一番好きだったなあ。
デビュー作の『君の膵臓をたべたい』もすごく衝撃的でひさびさにうるってくる小説だったんですけど、『恋とそれとあと全部』は、楽しい上に考えさせられて好みでした。
10作目ってことで、これまでよりもさらに濃厚な世界がここにありました。