本音だけで生きることができればそれは素敵な世界だろうか。
想像してみてもけっこうきつい気がします。
本当の自分と、見せている自分。
どう折り合いをつけてみんな生きているのかなって考えさせられます。
今回読んだのは、住野よるさんの『腹を割ったら血が出るだけさ』です!
本作の中では、『少女のマーチ』という小説が登場します。
主人公は自分を偽って、周りに愛されるための行動を取り続ける女性。
]ある日、この小説の登場人物そっくりの人を発見し、その後、小説と同じような場面に遭遇していきます。
ここでは、『腹を割ったら血が出るだけさ』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
主要な登場人物
〇糸林茜寧(いとばやしあかね)
友人も彼氏もたくさんいて、周囲からの評判もよい女子高生。だがそれはすべて”愛されたい”との想いから計算して行動していた。
〇宇川逢(うかわあい)
ライブハウス店員。美形男子。裏表がなく、思ったことはそのまま口にする。茜寧に、『少女のマーチ』のあいそっくりだと言われる。
〇後藤樹理亜(ごとうじゅりあ)
アイドルグループ「インパチェンス」メンバー。アイドルとしてのストーリーを創り上げて、それにそって生きている。アイドルになるために逢と距離を置いていた。
〇上村竜彬(うえむらたつあき)
茜寧の幼馴染。学校での扱いはあまりよくない。茜寧やクラスメイトを盗撮したり、後藤樹理亜のアンチとしてSNSに多くの投稿をしている。
『腹を割ったら血が出るだけさ』のあらすじ
糸林茜寧は、友達や恋人に囲まれ、本屋でのアルバイトにも励み、一見すると充実した日々を送っている女子高生だ。
しかし、彼女が人の前で振る舞うすべては、”愛されたい”という願望をもとにした偽りの自分であった。
茜寧自身も、その”愛されたい”気持ちに抗うことができないながらも、そんな自分が嫌でしかたがなかった。
茜寧の心の支えは、自分にそっくりな主人公が描かれる『少女のマーチ』という小説だった。
そんなある日、茜寧は『少女のマーチ』の登場人物の一人、〈あい〉にそっくりな人と街で出逢う。
その人も自らのことを〈あい〉だと名乗った。
茜寧は〈あい〉との邂逅をきっかけに、『少女のマーチ』の世界をなぞろうとする。
”愛されたい”ということ
人に良く思われたいとか、愛されたいって感情は誰だって持っているもの。
承認欲求ともちょっと違うのかな、読んでる感じだと。
『腹を割ったら血が出るだけさ』の茜寧は、この”愛されたい”という気持ちがとにかく強い。
家族や友人に対してなら、まあわかる。
でも、ほとんど会う機会がない人どころか、街ですれ違うレベルの人にさえも”愛されたい”と思うんですね。
だから、茜寧の行動というのは、自分の本音の部分とは関係なく、すべては愛されることが基準となります。
相手が望む言葉、相手が望む行動を常に考え続け、どう振る舞えば愛らしく見えるのかを計算し、よくわからないキャラクターのマスコットだってつけちゃいます。
作中に出てくるあんまんまんというキャラクターのグッズを茜寧はバッグにつけています。
使っているうちに愛着は出てきたと書いてますが、スタート時点ではこんな考え。
周囲の人と趣味を被らせない努力は、競争相手として睨まれる危険性の軽減に繋がる。友人達から愛されるため、手にしておきたい性質だった。
(住野よる『腹を割ったら血が出るだけさ』より)
周りが推していないものでほどよいものを選んでいるんですね。
そこまで頑張るものなのかって気もしちゃいます。
一方で、茜寧自身は、そんな自分のことが心の底から嫌い。
いつも自分の意に反してそうした行動を取る度に、舌を噛んでしまいます。
こんな自分から抜け出したい。
そう思いながらも、”愛されたい”という欲求からは逃れられない。
愛されたいに、押し潰されていく。
(住野よる『腹を割ったら血が出るだけさ』より)
この言葉がすごく重たく感じます。
本当の自分を出すのは怖いもの
『腹を割ったら血が出るだけさ』では、本当の自分を偽った人が何人も出てきます。
とはいえ、それって誰にでも多かれ少なかれある部分なんですよね。
茜寧のように極端なまでに”愛されたい”とは思わなくても、好意を持ってほしいと思うのは自然なことで。
素をさらけ出して付き合える人間関係ってかなり少ないのではないかと思います。
後藤樹理亜は、アイドルとしてのストーリーを作るために、本来の自分の好みや言動とは違った自分を創り上げます。
上村竜彬は、自分の本音の部分を隠して、他人を批判することで自分を保っています。
逢だけは、飾らない自分で生きていますが、少しだけ嘘をつきました。
でも、本音を隠して生きることって悪いことなのかと言われると、それはそれで生き方なんですよね。
私だって家族にも友人にも職場の人にも、どこか本音ではない部分はあります。
素の自分で生きていけるわけがないんですよ。
だって、他人の目ってふつうに気になります。
自分を見せるのって怖いこと。
だからどう思われるかは考えるし、自分の行動が周りに与える影響も考慮して発言します。
本当の自分で生きれることは楽かと言われたら絶対に楽じゃない。
自分に向いた批判は、そのまま自分を抉ることにもなります。
ある程度、防衛するのが人間としてふつうの感覚なのかなって感じます。
タイトルの意味とは
『腹を割ったら血が出るだけさ』っていろんな取り方があるなーって思います。
住野よるさんのタイトルの真意はわかりませんが、これだけで読む前からいろいろ想像しちゃいますよね。
『恋とそれとあと全部』とか、『青くて痛くて脆い』とか。
本作の中で、腹を割ったら内側から別の自分が出るんじゃないのか的な話がありました。
でも、実際にそんなことってありえない。
出てくるのは血だけ。
表の自分をどんなに着飾っていたとしても、作り上げていったとしても、内側に秘めた自分だって同じものなんじゃないかなって。
自分を認めることってなかなか難しいですが、そうした表に出しているところも、隠しているところも、全部ひっくるめて自分で、それを認めることから始まるのかな。
あとは、「腹を割る」というと、本音で話すみたいなニュアンスがありますよね。
そう考えると、本音で生きたって血が出るだけじゃん、傷つくだけじゃんって意味にも取れます。
読み始めのころは、どっちかっていうとこういう意味が強いのかなって思いながら読んでいました。
実際、現実だとその通りなんですよね、悲しいことに。
本音だけで生きていけるほど世の中やさしくないというか。
読み進めていくと最初の方のイメージのほうが強くなりましたけど、どっちにしたってすごく考えさせられる。
おわりに
さて、これで住野よるさんの既刊読破!(2023.12時点)となりました!
いやーどれを読んでもおもしろい。
割と暗めの話とか、主人公に共感しづらいものもあるんですけど、それはそれとして、テーマがしっかりあって好きですね。
そのうち、住野よるさん作品のおすすめランキングとかも作りたいです。