住野よる

人の心の弱さをえぐる。住野よる『青くて痛くて脆い』のあらすじと感想。

誰だって、過去を振り返ると、自分の恥ずかしい経験とか、

「あのときのあの行動は痛かったなあ」

ってことがあると思います。

そんな姿をまざまざと見せつけられるような小説でした。

今回読んだのは、住野よるさんの『青くて痛くて脆い』です!

住野よるさんの五作目の小説になります。

ここでは、『青くて痛くて脆い』のあらすじや感想をしょうかいしていきます。

Contents

『青くて痛くて脆い』のあらすじ

大学一年生の田端楓。

授業中に突然、手を挙げて発言を求め、

「暴力は必要ないと思います」

なんてことを大真面目に主張する秋好寿乃の存在に驚愕する。

これは関わってはいけない相手だ。

そう思う楓であったが、授業終わりに秋吉から声をかけられてしまう。

それ以降、顔を合わせると話しかけてくる秋好と、いつの間にか一緒にいることが増えた楓。

秋吉は、「四年間でなりたい自分になる」という目標を掲げており、理想を追う秘密結社「モアイ」を結成。

その初期メンバーに楓も入れられてしまうのだった。

楓と秋好は、理想を現実にするための活動として、映画を観て知識を増やしたり、あちこちをめぐったりしていた。

次第にその活動が認められるようになり、モアイは少しずつ大きな組織へとなっていった。

 

それから三年後。

四年生になり、就職活動もひと段落した楓は、いまのモアイの現状を憂う。

いつしか、秋好が掲げた理想は姿を消し、モアイは就職活動のためのサークルと化していた。

学内でも、モアイ所属の人間が幅をきかせ、我が物顔で振る舞うのに対して嫌悪する人もいた。

楓は、いなくなってしまった友人と作ったモアイを元の姿に戻そうと行動を開始する。

やっぱり住野よるさんはおもしろい。

一番初めに読んだ住野よるさんの小説は、『君の膵臓を食べたい』でした。

私はけっこうあまのじゃくなので、すごく人気が出てしまった小説ってなかなか読もうとしないんですよね。

特に映画化もされて、「感動作!」なんて言われてしまうと余計に、「ふーん」って気持ちになって。

でも、実際に読んでみたら、

「なにこれ!ぶちおもしろい!!」

となって、毎回、もっと早く読めばよかったって思うんですよね。

『鬼滅の刃』もそうでしたね、いまでは全巻大人買いしちゃってますが。

そんなこんなで、『君の膵臓が食べたい』ですっかり虜になった住野よるさんの小説。

ふと目に入ったので手に取ってみたのが、『青くて痛くて脆い』でした。

前評判はかなり良くて、レビューを見ても、絶賛している声が多かったんですよね。

「ほっほう。それは楽しみ」

と思い読み始めたのですが、うーんどうもなかなか。

読み切ると考えさせられるなと思いつつも、苦しいものが残る。

でも、大学生活って人間関係って一歩間違えればこうなるよなと。

まっすぐに生きる、うまく生きる

中心となる登場人物の一人、秋好。

彼女は、授業中の真っただ中でも、手を挙げて、

「暴力は必要ないと思います!」

なんて主張してしまう女子学生。

周囲から妙な眼で見られて、主人公の田端楓も、近づいちゃまずいと思いながらも、なんやかんやあって、一緒に行動するようになります。

自分に正直に生きることって、きついんですよね。

秋好のように、思ったことをまっすぐに主張することで、周囲から痛いやつと思われるし、距離をあけられる。

うまく生きるって、周囲と同調したり、自分を押し殺したりすることなのかもしれません。

でも、それって別に悪いことじゃなくて、その生き方で自分を納得させることができるかなのかなとも思います。

社会人になったころって、先輩からしょっちゅう理不尽なことで怒られました。

ふつうに考えて納得できないし、先輩が明らかにおかしい。

だからといってその気持ちを正直に出すかっていうと、やっぱり心に押しとどめます。

言ったら面倒になるとか、どうせ言っても変わらないとか、新人のうちはしょうがないとか。

いろんな理由があったけど、その生き方をした方が自分にとって楽だったのだと思います。

正直に生きられる人はうらやましい

私はわりと事なかれ主義なので、主張が食い違ってもそんなに粘らないし、譲れるところは簡単に譲ってしまいます。

そんな自分を別に嫌いでもないですし、人間関係うまくやっている方かなと自負しています。

それでもなかには、自分の考えに正直な人っているんですよね。

そういう姿を見ると、やっぱり羨ましくも思いますし、なんかずるいなっていう嫉妬も覚えます。

そう、嫉妬なんだな、きっと。

「あの人、もうちょっとうまくやればいいのにね」

なんて言いながらも、生き方が下手でもまっすぐな人っていいなって思います。

自分にないものなんだなーと。

じゃあ、自分がそうなりたいかというと、結局そうでもないんですけどね。

自分なりのいまの生き方をする自分も好きですし。

ただ、ちょっとだけ、やっぱりいいなって思います。

人への期待はつらくなる

『青くて痛くて脆い』って、いろんなことを伝えてくれる小説です。

その中で思ったことの一つは、他人はどこまでいっても他人なんだなってこと。

良くも悪くもそうなんだろうなって。

誰かに期待して、自分の思い通りにならなかったら、なんかイラっとする経験って誰しもありますよね。

友達でも家族でも、子どもにだってそういった感情が生まれることってあります。

でも、やっぱり期待したってその通りにならないことの方が多いもの。

だから期待するってきついことなんですよね。

期待をするから、裏切られたって思ってしまう。

期待をするから、相手に悪感情を持ってしまう。

よく期待と信頼は違うとか、期待するんじゃなくて、見守ることが大切とか言うこともあるけど、まあそれはそれで正しいとは思っています。

でも、期待しちゃいますよ、人間ですから。

そんで、やっぱり、「くそー」とか、「なんでそうなるんよ」って思っちゃう。

お互いのことを理解したからといってそこは消えないと思うんです。

ただ、そのふり幅を、傷ついたり、心を痛めたりしながらうまく修正していくのかなって。

すごくそんなことを感じる小説でした。

おわりに

住野よるさんの本って、もちろんストーリーもおもしろい。

それプラス、随所に出てくる名言もまたいいんですよね。

弱い自分を認めることが成長とか。

どこからそういう言葉が出てくるんでしょう。

なかなかふだん使わないような言葉です。

それでいて、小説の中でそのセリフが無理なく聞こえてくるんですよね。

どきっとさせられることも多くて、これからも住野よるさんの小説は読んでいきたいと思います。