伊坂幸太郎

伊坂幸太郎『重力ピエロ』のあらすじや感想。「楽しそうに生きてれば、地球の重力なんてなくなる」

「二階から春が降って来た」

(伊坂幸太郎『重力ピエロ』より)

独特の表現で、冒頭から物語に引き込まれます。

今回紹介するのは、伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』です!

伊坂幸太郎さんの4作目の小説ですね。

2009年には加瀬亮さんや岡田将生さんが主人公の泉水と春役で映画にもなりました。

伊坂さんの小説の中でも、個人的には特にお気に入りの1冊です。

ここでは『重力ピエロ』の簡単なあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『重力ピエロ』のあらすじ

兄弟である泉水と春。

仲の良い二人であったが、二人の血は半分しかつながっていない。

弟の春は、母親が当時未成年であった少年にレイプされてできた子どもであった。

しかし、妊娠が発覚したとき、泉水の父親はすぐに産もうと決断をする。

父親が違うためか、泉水と春はあまり似ていない。

春は端正な見た目から異性に非常にもてたが、出自のこともあり『性的なもの』を嫌悪し、異性に興味を示すことがなかった。

また、春は絵の才能に溢れ、絵のコンクールで大賞を取るところだったが、審査員の一人が春の出自に触れ、家族をけなしたことからその絵で審査員をたたき、賞は取り消しとなる。

絵の才能を実の父親の血が流れているからだといわれた春は、そこから絵を描くことをやめていたが、高校の時に、自分はピカソの生まれ変わりだといい、再び絵を描くことができるようになる。

本当の家族として育ててくれた両親や兄である泉水の存在もあり、春は苦しみながらも前を向くことができていった。

大人になった二人は、泉水は「ジーン・コーポレーション」という遺伝子関する企業に勤め、春はグラフィティアート(スプレーを使ったらくがき)を消して回る仕事をしていた。

 

ある日、泉水の働く会社で放火が起きる。

それは仙台市内で起きていた連続放火の一つであった。

そのとき泉水の携帯電話には、春から、泉水の会社で放火が起きるかもしれないとの連絡がはいっていた。

泉水は春に、どうして放火が会社で起きるとわかったのかを問う。

春は、連続放火の法則がわかったという。

それは放火の現場には、必ずグラフィティアートが描かれているということ、奇妙な英語の文字が描かれていること、グラフィティアートが見える位置で起きるということであった。

二人は癌で入院中の父親にもこの話をして三人で犯人の目的を考える。

それからしばらくして、春が次の放火を予測したことから、泉水と春は放火犯を捕まえるために張り込みをすることになる。

 

一方で、そのころ、春の周辺に謎の美女が現れるようになる。

彼女は郷田順子と名乗り、日本文化会館管理団体という聞いたこともない団体の人間だという。

最近、会館にもグラフィティアートが描かれるようになったので、それを消して回っている春について調べているのだと主張していた。

なぜか泉水のことも把握していた彼女は、春の様子が最近おかしいので気をつけてほしいと忠告をする。

仙台市内で起きる謎の連続放火とその犯人の狙いはなんなのか。

突如現れた謎の美女、郷田順子はいったいなにものなのか。

血のつながりは重要か?

『重力ピエロ』でキーとなるものの一つが春の出自に関わること。

家族とはなんなのか、血のつながりをどう考えるのかというのが一つのテーマです。

春を産んだことで泉水たち家族は周囲からうわさ話をされたり、好奇の視線にさらされたりします。

中には、「どうして産んだのか」と産んだことが悪いかのように心ない言葉をかける人も。

そんな人に二人の母親は、

「親が、生まれてくる子供と対面するのに理由なんてないじゃないですか」

(伊坂幸太郎『重力ピエロ』より)

と毅然とした態度で言い返します。

すごくかっこいいなと感じるシーンであり、これぞ親のあるべき姿だなって思いました。

父親も、『重力ピエロ』の中で何度も、春のことを自分の子どもだと真剣に伝える姿が描かれています。

春自身は、自分の出自や犯罪者の血が流れていることを嫌悪し、苦しんでいましたが、そうした家族の姿で救われていたのだろうなと感じます。

 

『重力ピエロ』の中では、産みの親か育ての親かということで、大きくなった子どもが産みの親に会いに行くという番組が出てきます。

どうして育ててくれた親がいるのに、わざわざ産みの親に会いに行くのかと疑問が呈されています。

自分もこういう番組ってあまり好きではないんですよね。

産みの親と一緒に暮らせなかったのには、人それぞれ事情があるんでしょうが、育ての親がいるのにそれってどうなんだろうかと。

逆に産みの親も、どうして今さら会うのかと思うし、「あの時は……」みたいな感動の方向に持っていこうとするのかなと、そこは番組のせいなんでしょうけど。

だって自分で決断して子どもと別れたのだから、たとえ事情が変わって会いたくなったって、そこはぐっと我慢しないとだと思ってしまいます。

『重力ピエロ』はそれとは状況が違って、実の父は最低な男で、育ての父が偉大な男なので、余計に一緒に育ってきたこと、思い出を共有してきたことが重要だと感じます。

他作品とのつながり

今回もたくさんの他作品とのつながりがあります。

登場人物としては2人。

1人目は『オーデュボンの祈り』の主人公であった伊藤です。

「いや」彼は下を向いた。「数年前に変な島に行ったことがあるんですよ。そこで学んだことがあるんです」

―中略―

彼は続けて、その島の話をはじめた。「胸の谷間にライターをはさんだバニーガールを追いかけているうちに、見知らぬ国へたどり着く、そんな夢を見ていたんですよ」と語りはじめ、奇妙な物語を聞かせてくれたが、それは荒唐無稽の旅行記のようだった。未来を予言するカカシの出てくる時点で、私は笑い飛ばしたかったが、けれど、のんびりとしていて悪くない話だった。

(伊坂幸太郎『重力ピエロ』P347より)

真夜中の心霊スポットにもなっている橋の側で泉水と伊藤が出会って話をするシーンの抜粋です。

 

2人目は『ラッシュライフ』に登場する黒澤。

『ラッシュライフ』では空き巣をする泥棒でしたが、『重力ピエロ』では、泉水の依頼を受ける腕のいい探偵として登場します。

黒澤さんは素敵です!

それ以外にも、『ラッシュライフ』に登場した「高橋」を教祖とする宗教団体にもちょっとだけ触れられています。

「彼は、『未来は神様のレシピで決まる』と言った。未来を予言するカカシについて話してくれたではないか。あれは寓話に過ぎなかったが、それでも聞いている間は、予言するカカシが存在している気分にもなった。さらに、市内では奇妙な宗教団体が、「未来が見える」教祖を持ち上げて、騒いでることも頭を過ぎった」

(伊坂幸太郎『重力ピエロ』P356より)

泉水が伊藤と話したあと、その時の話を振り返るついでに宗教団体のことにも触れた場面です。

また、『田村蕎麦』という蕎麦屋さんが登場し、これは次作の『アヒルと鴨のコインロッカー』にも出てきています。

名脇役である『黒澤』という男

さて、上記した黒澤。

2作目の『ラッシュライフ』に初登場し、4作目の『重力ピエロ』で再登場。

このあともほかの作品に現れます。

黒澤はとても人気がある登場人物の一人なんですよね。

泥棒なのにたくさんの名言を残していますし、とても人間味があって素敵です!

『ラッシュライフ』では、5つのストーリーの1つを担っていましたが、『重力ピエロ』では、泉水の依頼を受けて調査を行う探偵として登場します。

あくまで探偵は副業であるというスタンスですが、探偵としても優秀な黒澤。

でも本業は泥棒さんなんですよね。

『重力ピエロ』でも、探偵として受けた調査の中で、ちゃっかりと空き巣をやってのけています。

はっきりと空き巣に黒澤が入ったとは書かれていませんが、ご丁寧に盗みに入った理由や盗った内容が記されたメモを残すあたりが彼しかありえませんね。

そして正規の探偵ではないものだからこんなこともいってしまいます。

「拷問をされて情報を話すのは、自分でも許せないが、ただ俺は、自分が喋りたい時には喋ってしまうんだよ」

(伊坂幸太郎『重力ピエロ』より)

依頼された顧客のことや依頼内容なんて、絶対守秘義務のあるいっちゃだめなことなのに、いいんでしょうか?いえ、黒澤ならいいんです!

といっても、『重力ピエロ』を読むと、決して黒澤が単純に喋りたかったから喋ったのではないことがわかります。

泉水たちのことを考えて、あえてこんな言い方をして喋ったんだろうなーと。

こういうちょっと適当っぽく見せながらもいい男なのがかっこいいですね。

また、泥棒について言及するシーンもありました。

「人間が全て平等に作られているなら、泥棒なんて現れないんだ。分配の不平等を是正するために泥棒は存在する。つまり、平等を回復するにすぎないんだ」

(伊坂幸太郎『重力ピエロ』より)

ありえない理論ですが、黒澤がいうと、「そうだったのか!」という気持ちにもちょっとだけさせられてしまいます。

でも、泥棒はよくないことです。

『重力ピエロ』というタイトルについて

『重力ピエロ』は、謎の連続放火事件とグラビティアートを巡る謎解きの部分と、春の出自や家族というものに関わる部分がメインかなと思います。

すると、タイトルがなぜ『重力ピエロ』というのかという疑問も出てきます。

 

話は泉水と春が子どものころにさかのぼります。

当時はまだ母も健在で、家族四人でサーカスに行きました。

サーカスの花形といえば空中ブランコ。

落ちてしまうんではないかとどきどきする泉水と春でしたが、両親は心配ないといいます。

実際に空中ブランコをするピエロは、重力を感じさせない軽やかな動きでみんなを楽しませてくれます。

父親は二人に、

「楽しそうに生きてれば、地球の重力なんてなくなる」

(伊坂幸太郎『重力ピエロ』より)

と教えてくれました。

『重力ピエロ』の後半で、春は自分の犯した罪は許されることではないと自分を責め、警察に自首しようとします。

でも泉水はそんな春に明るくそんな必要はないんだと説得を続けます。

「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」

(伊坂幸太郎『重力ピエロ』より)

『重力ピエロ』の序盤に出てきたこの言葉のように、深刻なことではないというかのように泉水は春を励まします。

楽しそうに見えるピエロが重力から解き放たれたように、春を縛っている罪の意識から、春を自由にしようとしたのだと思いました。

いや、罪だけでなく、春が小さいころから苦しんできた出自だったり、周囲からの視線だったり。

そういったものも含めて、ピエロが重力から解き放たれた姿をイメージして、『重力ピエロ』となったのかなと感じます。

おわりに

伊坂幸太郎さんの作品はどれもすごく好きですが、特にこの『重力ピエロ』はお気に入りです。

ここに込められたものってうまくまだ自分でも消化しきれないものがありますが、読む人によっても読むそのときの状況によっても、多くの気づきを与えてくれます。

単純におもしろいだけではないですよね。

ここで簡単に紹介してきたこと以外にも、伊坂さんの小説って、少年犯罪をけっこう扱っていて考えさせられます。

『チルドレン』を始めとする家裁調査官の話もそうですね。

ここで書くとまた長くなるので、いずれ別の記事でそのあたりについては触れられればと思います。