小説でも漫画でもアニメでも。
登場人物に決め台詞があると、それだけでかっこよく見えます。
今回読んだのは、井上真偽さんの『その可能性はすでに考えた』です!
この人、絶対頭いいですよね。
知識量が半端ないというか、いろんなところからの引用もあり、聖書や聖人についてもエピソードも豊富に組み込まれ。
それだけでも満足するほどなのにおもしろい。
本作は2015年に出版され、ミステリーの賞に名前を連ねて話題となりました。
奇跡を証明しようとする探偵。
タイトルのとおりのセリフで、事件の真実を明かそうとします。
ここでは、『その可能性はすでに考えた』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『その可能性はすでに考えた』のあらすじ
上苙丞(うえおろじょう)は探偵だ。
膨大な知識を持ち、探偵としての能力はたしかだが、この男には欠点がある。
それは、奇跡の存在を証明したいという願望を持っていることだ。
また、上苙は1億を超える借金をしており、そのほとんどを中国人美女のフーリンが請け負っていた。
ある日、二人が探偵事務所で話していると、若い女性が依頼に訪れる。
渡良瀬莉世といい、自分が人を殺したのかどうか推理してほしいというのだった。
かつて、新宗教団体「血の贖い(アポリュトローシス)」の村で、信者による集団自殺事件が起きていた。
莉世は、その宗教団体の唯一の生き残りだった。
事件当時の記憶が莉世にはあいまいにしか残っていなかったのだが、ただ一人生き残ったことなどから、自分が仲の良かった少年を殺してしまったのではないかと考えていた。
しかし、それは当時の状況を振り返ると不可能に思えた。
奇跡さえ起きなければ。
上苙はそれは〈奇蹟〉に違いない、人知の及ぶあらゆる可能性を否定し〈奇蹟〉が成立することを証明すると言い放つ。
だが、全ての可能性を否定することなど人間には不可能だと思えた。
上苙の元には、事件の真実について、こんな可能性があると幾人もの人物が現れ、上苙はその可能性をすべて否定していく。
読んでいるだけで勉強になる一冊
冒頭にも書きましたが、とにかく井上真偽さんの知識量が半端ない!
どこからこれだけの話を持ってくるんだろうってくらいに、キリスト教にも詳しいし、過去の海外の事件なんかも小説の中に出てきます。
事件の可能性をいろんな人物が打ち立てて、上苙に勝負を挑んできますが、その仮説にだって、その発想の着手点として過去の話が出てくるんですね。
中国人美女のフーリンの存在もまた。
中国の裏社会を生きる彼女を登場させる関係で、中国についても詳しく書かれ、かつての拷問方法なども紹介されています。
なんなんでしょうね。
たぶん、ここまでいろんなことがなくても物語とは成立するけど、これらがあるから、ぐっと『その可能性はすでに考えた』が引き締まって見えてくるのだろうなって。
いや、ほんとに、どれだけ勉強したらこんなものが書けるのかって気になってしまいます。
決め台詞がよき!
「その可能性は、すでに考えた」
(井上真偽『その可能性はすでに考えた』P148より)
この小説の「うおっ!」となる瞬間は、やはりこの決め台詞ですよね。
相手の事件に対する仮説。
相手は別にそれを証明する必要はなく、その可能性を出すだけでいい。
それを反証しないといけないわけです。
反証が難しそうな仮説を提示してきた相手に対して、上記のセリフをずばっと言います。
これがいいんですよね。
小説の中には、こうした印象的なセリフのあるものってけっこうあります。
米澤穂信さんの〈古典部〉シリーズだと、ヒロインの千反田えるが疑問が浮かぶと、「私、気になります」と目を輝かせていうのも好きでした。
こうしたセリフって、その登場人物をよりイメージしやすくなるのかなって思います。
おわりに
活字が苦手な人には情報量が多くてちょっとつらいかも。
でも読書好きには間違いなくおもしろい小説です!
この続編も出ているのでそこも読んでいきたい。
でも、井上真偽さんだと、『探偵が早すぎる』っていう小説もあるんですよね。
あらすじを見るとこれがまたおもしろそう。
次はこっちかなー。
まだ既刊の数はそこまで多くないので、これから読み始める人にもおすすめの作家さんです。