今回も犯人が誰かを特定するのに頭を悩ませました!
今回紹介する本は、東野圭吾さんの、
『私が彼を殺した』です!
東野圭吾さんの<加賀恭一郎>シリーズの5作目になります。
単行本の発売が1999年で、2002年に講談社文庫から文庫化されました。
『どちらかが彼女を殺した』と同様に、犯人を最後まで特定せずに読者に考えさせる手法を取り入れています。
『どちらかが彼女を殺した』では容疑者は2人でしたが、『私が彼を殺した』では3人へと容疑者が増えています。
Contents
『私が彼を殺した』のあらすじ
事件は脚本家である穂高誠と、有名女流詩人の神林美和子との結婚式の最中に起きた。
結婚式場で参列者の間を歩いている途中に穂高が急に苦しみだして亡くなった。
死因は毒によるもの。
何者かが穂高に毒を飲ませたのであった。
結婚式の前日、浪岡準子という女性が自宅で亡くなっていた。
彼女の遺書、穂高の元交際相手であったこと、彼女が飲んだ毒と同じものが穂高の殺害に使われていたことから事件は無理心中ではないかと疑われる。
しかし、彼女には毒を飲ますことが不可能であることが判明したことから容疑者は3人に絞られた。
花嫁の兄である神林貴弘。
穂高とともに会社を支えてきた駿河直之。
編集者で穂高とも花嫁とも交流のある雪笹香織。
果たして犯人は誰なのか。
といった内容になります。
この容疑者3人の一人称視点を順番に変えながら物語は進んでいきます。
『神林貴弘の章』、『駿河直之の章』、『雪笹香織の章』といったように。
そのため、その人の主観であったり、あえて語られていない文脈を読む必要があり、犯人を考えるのがとても楽しい一冊です。
『私が彼を殺した』の犯人は?(ネタバレ)
ここからはネタバレが入るので、まだ読んでいない人は先に小説を読んでください。
さて、『どちらかが彼女を殺した』と同様に、『私が彼を殺した』でも犯人を最後まで教えてくれないので読者が考える必要があります。
容疑者は、神林貴弘、駿河直之、雪笹香織の3人。
鍵となる毒薬の行方
文庫本の裏表紙には、
『鍵となるのは、カプセルの数とその行方』
であると書いてありました。
穂高が使用していた鼻炎薬は新品の状態で12錠入っています。
穂高の元交際相手であった浪岡準子は、同じ鼻炎薬を購入し、カプセルの中身を毒薬と入れ替えます。
つまり毒薬は全部で12錠存在します。
この毒薬の行方が大事になってきます。
穂高に使用されたものを除いて考えていきます。
すぐに判明するのが、
浪岡準子が自殺に使った1錠。
浪岡準子の部屋に残されていたビンに入った6錠(雪笹香織の証言)
駿河直之が浪岡準子の部屋から持ち出した1錠。
雪笹香織が同様に部屋から持ち出した1錠。
これで合わせて9錠。
この時点でわかっている毒薬の行方は、
〇駿河直之→1錠
〇雪笹香織→1錠
〇浪岡準子が使用した1錠
〇警察が押収→6錠
物語終盤で、雪笹は自分が取った毒薬を未使用のまま出します。
また、駿河が持っていた1錠は、貴弘に脅迫状とともに送りつけており、これも未使用で貴弘が出します。
この時点で、雪笹の薬も駿河の薬も使われなかったことになります。
しかし、加賀は、警察で押収された6錠のうち1錠は調合に失敗したカプセルであり、雪笹が見たビンに入っていた6錠の毒薬は、警察が押収した時点で5錠であったことを告げます。
そのため加賀は、浪岡の部屋から駿河と雪笹が帰った後、どちらかが部屋に毒薬を取りに戻ったと推理をします。
また、残りの2錠について。
結婚式の前日に、穂高誠、神林美和子、神林貴弘、駿河直之、雪笹香織が穂高邸に集まっていた時のことです。
庭に浪岡準子が現れたことで、貴弘を除く全員が二階の部屋に移動した時間があります。
その際に貴弘がトイレに行っている隙に、浪岡が部屋の中にこっそりと入り、ピルケースに2錠の毒薬を忍ばせます。
そしてそれを貴弘だけが見ていました。
のちに穂高が見知らぬ薬だったためにゴミ箱に捨てたものを貴弘が回収することになります。
ここまでで、穂高殺害に使われたのは、
〇神林貴弘がゴミ箱から回収した毒薬
〇駿河直之か雪笹香織が持ち出したもう1錠の毒薬
のどちらかになり、まだ容疑者3人ともに犯人である可能性があります。
誰に毒薬をすり替える機会があったのか
穂高は最終的に、結婚式の直前にピルケースの中にあった毒薬を飲んだことにより亡くなります。
ではこのピルケースの中の毒薬を穂高に渡すことができたのは誰なのかという問題になります。
鼻炎薬(まだ本物)の入ったピルケースは、新婦である美和子が所持をしていました。
美和子は、穂高にピルケースを渡す予定であったが、式の準備などで自分で渡すことが不可能になります。
そこで美和子から雪笹に届けてもらうようにお願いをします。
了承した雪笹はそのまま、自分だと失くしてしまうかもしれないとして、後輩の西口絵里に持たせます。
雪笹と西口は、このあと駿河と会い、西口から駿河にピルケースを渡されます。
駿河はピルケースを確認した後、自分も別の会場に行かなければいけないと言い、ホテルマンにそのピルケースを渡します。
最終的にホテルマンから穂高へとピルケースは渡されたことになります。
美和子→西口(雪笹は触れていない)→駿河→ホテルマン→穂高
と渡ったということです。
でも、ピルケースの中身を毒薬にすり替える暇はどこにもない。
貴弘も、美和子の元を訪れていますが、その際にすり替える機会がありませんでした。
そうなるとすり替えることができた人がいなくなりますよね。
でもそんなわけがないのです。
すり替えられたものは鼻炎薬ではなく……
加賀は、小説の最後で、これまでの容疑者のものでも、被害者のものでもない身元不明の指紋が、『美和子のバック』、『薬瓶』、『ピルケース』のどれかから見つかったことを容疑者たちに伝えます。
その指紋は、『ついていて当然の人物の指紋であった』とも話しています。
この指紋の主は、穂高の前妻でした。
指紋がついていたのは、ピルケース。
小説の序盤で、穂高のピルケースは、前妻との間で記念にペアで買った物だという記述があります。
つもり元々、ピルケースは2つありました。
そうすると、前妻が持っていたピルケースはどこにあるのかが問題になります。
これも小説の中で出てきています。
駿河が警察の事情聴取を受けた際に、荷物でごった返した部屋を警察に見せながら、
〇穂高から前回の結婚を匂わせるものが送られてきていること
〇再婚をした前妻も同様に穂高のところに当時の品を送ってきていたこと
を話しています。
その部屋の荷物の中に、2つ目のピルケースが存在していたことになります。
ここまででなんとなくわかったと思いますが、実はすり替えられたのは、鼻炎薬と毒薬ではなく、ピルケースでした!
駿河は、浪岡の部屋を一度出たあと、再び入り込み、もう1錠毒薬を持ち去ります。
その毒薬をピルケースに入れて本物のピルケースとすり替える機会を待っていました。
すり替えたのは、西口絵里からピルケースを渡されてホテルマンに渡すまでのわずかの間です。
駿河直之の章で、
”「例の鼻炎薬か」俺は懐中時計に似たピルケースの蓋を開けた。白いカプセルが一つ入っている。「だけど、俺もすぐに教会に行かなきゃいけないしな」蓋を閉め、ポケットに入れてから周囲を見回した。すぐそばをボーイが通りかかった。俺はボーイを呼び止めると、「これを新郎のところに届けてくれ」といって、ピルケースを渡した”
(東野圭吾『私が彼を殺した』P147より)
とあります。
このポケットに入れたときに毒薬の入ったピルケースとすり替え、ホテルマンに渡したことになります。
犯人は、駿河直之でした!
終わりに
今回は文庫本の最後にあるヒントを見ずに答えがわかったので嬉しいです。
『私が彼を殺した』の方が『どちらかが彼女を殺した』よりも難しいという意見が多いですが、私はこっちの方が解きやすかったですかね。
『どちらかが彼女を殺した』では、ヒントを見ないとわからなかったので。
ふだんはそこまで真剣に考えずに読んでいたため、たまにこういう自分で考える小説を読むととても新鮮で楽しいです。
まだ読んでない人はぜひ一読ください。
<加賀恭一郎>シリーズも折り返し地点。
残りも楽しんでいきましょう!