栞というと、読書家にとっては少し特別な気持ちになります。
でも、それが「切り札」と呼ばれ、猛毒を持つトリカブトの花が入っているとなると、一気にぞっとしてきます。
今回読んだのは、米澤穂信さんの『栞と嘘の季節』です!
〈図書委員〉シリーズの二作目にあたります。
前作の『本と鍵の季節』もとてもよかったですね。
本作では、トリカブトの花がラミネートされた本の栞を巡って、様々な嘘が錯綜していきます。
学園ものにしてはちょっと暗い雰囲気を出していますがそれがまた物語に読者を惹き込んでいきます。
ここでは、『栞と噓の季節』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『栞と嘘の季節』のあらすじ
図書委員として放課後の図書室で仕事をしていた堀川次郎と松倉詩門。
ある日、二人は、返却本に挟まれていた栞を発見する。
赤い花がラミネートされた栞。
松倉は、その花が猛毒のあるトリカブトの花であることに気づく。
危険なものとして、図書室の本に挟んで、人に見つからないように保管する二人。
掲示板に、栞を落とした人は申し出るように告知をすることにした。
しかし、トリカブトの花が写真コンクールで受賞作に写っており、それが校舎内であることを知る。
また、生活指導の教師が突然倒れて救急車に運ばれるという事件が起きる。
症状からして、トリカブトによる毒と思われた。
誰がいったいなんのために。
そして栞の持ち主は誰だったのか。
学校全体が毒の存在を恐れて、パニックに陥る中、堀川と松倉は栞の謎と黒幕を追う。
嘘ばっかりの物語
もうね、みんな嘘ばっかりです。
堀川くんも松倉くんも、本作から出てくる瀬野さんや委員長も。
でも、みんな悪意があって嘘をついているのではない。
それぞれに必要があるからこそ、嘘をつく。
『栞と嘘の季節』を読んでいると、人間には嘘が必要なんだろうなという気持ちにさせられます。
自分をだますための嘘っていうのもありますよね。
本当の部分と違っても、自分を納得させるためとか、気持ちを安定させるためとか。
何かを守るための嘘というのもあります。
正直に話すだけが正しいわけではない。
だから、本作も、みんな嘘をたくさんついていて、その中に含まれている真実と、どこに嘘があるのかが鍵となってくるわけです。
そうやって考えてみると、私もこれまでいろんな嘘をついてきたなって感じます。
それは良くも悪くも……ですね。
でも、自分の気持ちだとか、周囲のものだとか、嘘をつくことでうまく回ることもたくさんあるもの。
分かった上での嘘ならいいのかなって気もします。
『切り札』を持つということ
『栞と噓の季節』では、トリカブトの花がラミネートされた栞が出てきます。
猛毒を秘めた栞。
それは、ある人たちからすると、『切り札』と呼ばれるもの。
それがいいのか悪いのかってことはわかりませんが、心の拠りどころって重要だなと思います。
これがあるから自分は大丈夫。
これがあるからまだ頑張っていける。
そうした存在があること自体、とても幸せなのかなって。
それは誰か大切な人でもいいし、夢とか希望でもいいし、信念でもいい。
『栞と噓の季節』のようなちょっと変わった栞だっていいし、それこそ宗教にそうしたものを求める人もいる。
本作の中でも、その栞を持った人は、それによって、生きづらい中でも、懸命に生きることができていたのかなと。
もし、その存在がなかったら、苦しくなるのかもしれない。
人って、そんなに強いものではないから。
だから、何かが必要なのだろうなと感じます。
『本と鍵の季節』を先に読むことをおすすめします。
いやー、実におもしろい一冊でした。
でも、どうせ読むなら、前作の『本と鍵の季節』を先に読むことをおすすめします。
というのも、堀川くんと松倉くんのちょっと複雑な関係が前作で描かれているし、前作から引き継がれているエピソードもあるんですね。
もちろん、『栞と嘘の季節』単品でもすっごくおもしろい。
ただ、合わせて読むとさらにおもしろくなることは間違いない。
おわりに
このまま〈図書委員〉シリーズもどんどん出版してもらえるとうれしいですね。
米澤穂信さんの作品は好きなものが多いのですが、〈古典部〉シリーズや〈小市民〉シリーズといった、高校生を主人公にすえたものが私は特に好きです。
いずれも、登場人物にくせがありつつ、違った雰囲気で楽しめるのでいいなって思います。
2022年に本作は出たばかりだから次はだいぶ先かなあ。
楽しみに待ちつつ、読書ライフを送っていきます。