渡辺優

部外者か、当事者か。渡辺優『カラスは言った』あらすじと感想。

カラスというと、どんなイメージがありますか。

ゴミ捨て場に集まるとか、刺激すると危ないとか。

いまいちあまりいい印象がないのではないでしょうか。

そんなカラスがある日、ベランダに止まっていたら?

しかも、急に言葉をしゃべって話しかけてきたら?

今回読んだのは、渡辺優さんの『カラスは言った』です!

渡辺優さんは、『クラゲ・アイランドの夜明け』でも近未来の物語を描いていましたが、本作もまた、現代よりも少し先の世界となります。

といっても、もう少しでこんな時代が来そうだなという距離だから、想像しやすくてちょうどいい。

人はどこから当事者となり、どこで傍観者となるのか。

ここでは、『カラスは言った』のあらすじや感想を紹介していきます。

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『カラスは言った』のあらすじ

日々、SNSの投稿をチェックする仕事をしている丸森。

「なるほど」が口癖で自分の意見をはっきりと持たず、人の話にすぐに納得をする性格。

そんなある日、自宅のベランダに一羽のカラスが止まっていた。

そして、カラスは言った。

「ヨコヤマアウスさん、第一森林線が突破されました。至急連絡をください」

それが一体なんのことか丸森には理解ができなかった。

なぜカラスが言葉を話したのかも。

過去の出来事からニュースアレルギーとなり、世の中から距離を取っていた丸森。

このカラスとの出会いから、一歩、外の世界に目を向けるようになっていく。

斬新な切り出し方がよい

渡辺優さんの作品って、序盤で疑問を投げかけてぐっと物語に引き込むところがありますね。

『ラメルノエリキサ』であれば、復讐を軸とした女子高生が何者かに刺されて、正体不明の相手に復讐を誓う。

『クラゲ・アイランドの夜明け』では、近未来のコロニーで、新種のクラゲが発生する。

今回の『カラスは言った』なら、しゃべるはずのないカラスが声をかけてくる。

それも完全に人違いな上に、言っていることも意味がわからない。

「この先どうなるんだろう」

と、読者の興味を引き立たせるのがうまいなあと毎回読んでいて思います。

読めばすぐにわかるのですが、実際カラスは、鳥獣型のドローンで、見た目も動きも本物そっくり。

ほかのカラスと並んで電線に止まっていたら違いがわからないという優れもの。

ただ、鳥獣保護の観点から、禁止されている違法ドローン。

現代よりもそこそこ先の世界なんですね。

だから、端末一つで今よりもいろんなことができるし、逆にそれがなければなにもできなくなってしまう。

でも、ユーチューバーなんかは相変わらず存在するので、そこまでずっと先ではないのかなと感じます。

謎のカラスのドローンの人違いから、事件に巻き込まれていくわけですが、なんだか主体性もなくふわふわと巻き込まれていく様が実際にありそうなことで親近感がわきます。

部外者であるということ

『カラスは言った』では部外者って言葉がけっこう頻繁に出てきます。

部外者と当事者。

当事者はまあなんとなくわかりますよね。

なにか問題があれば、それに関係している人たちですね。

友人とケンカすればそのケンカした者同士。

遺産相続でもあれば、遺産を受け取る範囲の親族。

当事者の知り合いレベルになると、もうほぼ無関係。

完全に部外者って立ち位置になります。

でも、どこまでが当事者で、どこからが部外者かって線引きはとてもあいまい。

『カラスは言った』の中で、部外者は黙っててという言葉が出てきます。

これって、関わろうとしているときに言われると、かなりぐさっときてきついです。

たしかに、部外者なら問題に口出しするのってへんなのかもしれません。

なんの責任も負わずに無責任にあーだこーだ言うのってなんか嫌です。

でも、問題の当事者が仲のよい友人だったり、大切な人だったりした場合、

「私は部外者だから関わらないでおこう」

なんて言ってられませんよね。

本気でその問題が自分にとって大事な意味があるのであれば、部外者であるかどうかって関係ない。

最後まで責任を持って付き合うつもりがあるのであれば、一歩踏み込んで、関わっていってもいいのではないかと感じました。

『カラスは言った』の中でも、とある土地問題、森林問題が取り上げられていきます。

この場合、無関係の第三者が、行政は間違っていると立ち上がり、土地の持ち主の権利を主張していくわけですね。

ただ、そのグループの成り立ちはとても歪。

関わるにしても、その主体性はあくまで自分になくてはおかしなことになる。

誰かの行動にただ乗っかっていくだけでは、無責任になるのかなとも思いました。

おわりに

『カラスは言った』の丸森にしても、『クラゲ・アイランドの夜明け』のナツオにしても、どこかふわふわとして印象があります。

渡辺優さんってそういう男性を描くのが好きなのかな。

『ラメルノエリキサ』のりなは、逆にすごくはっきりとした女子高生でした。

女性のほうが強く、印象的に描かれることが多い気がします。

でも、こうしたふわふわしたところから、その人としての形が、すっとできあがっていくのも結構好きです。