現役・引退を問わず、数多くのスポーツ選手の書籍が存在します。
だいたい似たような内容になることが多いのですが、この本は少し視点が違っていておすすめです。
今回紹介するのは、為末大さんの『諦める力』です。
陸上の日本代表として活躍をしていた為末大さん。
引退後はスポーツ社会学者として活動をしています。
タイトルどおり”諦める”ということに視点をあてた本になります。
ふつう、スポーツ選手といえば、努力することとか、逆に諦めないことを強く進めるイメージがありますよね。
なんとなくタイトルにひかれて読んでみましたが、”諦める”という言葉の持つ意味が、読む前と読んだ後でがらっと変わりました。
Contents
為末大さんとはどういう人物か
為末大(ためすえ だい)さんは、1978年5月3日生まれの男子元陸上競技選手です。
400mハードル日本記録保持者で世界陸上では、2回にわたり銅メダルを獲得。
オリンピックにも、シドニー・アテネ・北京と3大会連続で出場していました。
現在はスポーツコメンテーター・タレント・指導者などとして活動しています。
『諦める力』の中では、スポーツ社会学の分野を開拓していることにも触れていましたね。
陸上で活躍していたことに加えて、割と発言が問題となって炎上することもあるため、多くの人が名前は知っているのかなと思います。
この『諦める力』でも、一般的な常識というか、こうであってほしいというものとは違った発言が多いので、そのあたりが気になる人もいるのかもしれませんね。
ただ、炎上はしますが、そこまで間違ったことを言っているわけでもないのが難しいところです。
書籍も複数出しているので合わせて読んでみるとおもしろいです。
”諦める”ことは消極的なことではない!
タイトルにもなっている『諦める力』。
諦めるというとあまりいいイメージがありませんよね。
「自分にはできないと思ったから諦める」
「どうしたって無理だから」
こんな気持ちがつきまとう気がしてしまいます。
でも、『諦める力』を読むとそうではなにのだと教えられます。
”諦める”とは”選択をする”ということです。
為末さんの場合、オリンピックに出場したい!メダルが取りたい!という強い思いがありました。
でも、それまでやっていた100m走ではこれ以上、上に行くのは難しい。
自分の成長も止まっていて、以前は勝っていた相手がどんどんと追い上げてくる。
そこで為末さんは、100m走は諦めます。
でも、自分の本当にやりたいことは諦めない!
自分がオリンピックに出れる競技、メダルを狙える競技として、400mハードルを選択します。
結果的に、400mハードルで実力を発揮し、世界陸上では銅メダルを取る活躍をしましたね。
100m走は諦めて400mハードルをする、という選択をしたから開けた道です。
何を自分の大事なものと考え、何を選んでいくのか。
そのやり方の一つとして”諦める”というものがあるのだと教えられます。
一つの道に固執をしないこと
為末さんは、スポーツ選手は、引退後のことを考える必要があると話します。
どんなに活躍をしている人でも、一部の特殊な人たちを除くと、スポーツ選手は、会社員なんかに比べると引退がとても早い。
どこかで生き方を変える必要がありますね。
それは引退をしてから考えるのではなく、現役中から考えていくべきである、と。
そして、スポーツを続ける以外の道もあるのだということを知っておくべきである、と。
スポーツ選手はどこかで”諦める”という選択をしなければいけない。
諦めないのであれば、それにもそれ相応の代償があるといいます。
スポーツ選手の特に有名な人は、タレントになったり、スポーツコメンテーターになったりと華やかな道もあります。
でも、残った圧倒的多数の人はどうやって生活しているのか。
コーチなどの指導者になれればとても恵まれた方ですね。
しかし、引退後に会社員になるという人の方が多いでしょう。
引退が20代であれば、会社員になるにしたって、そちらにシフトしていくことは大変でもそこまで難しくありません。
これが30代になってくると、よりそこにかける労力は増えていきますよね。
諦めずに努力することは美徳ですが、その先を見据えることができるのかということは重要です。
今の人生の横に並行して走っている別の人生に気づくのは、簡単なことではない。
しかし「この道が唯一の道ではない」と意識しておくこと、そして自分が今走っているこの道がどこにつながっているのかを考えてみることによって、選択肢が広がるのは確かなのだ。
(為末大『諦める力』より)
これはスポーツ選手に限ったことではないですね。
小さいころからの夢があって、そこに向かって努力している人にだって同じことがいえます。
たとえば、私の大学時代の友人は、教職を目指す人が多かったです。
ずっと教師を目指していて、勉強して……。
でも、教育実習にいき、「自分には合っていないかもしれない」と感じる人もいました。
そのときに、
「自分には教師しかない!教師になるのが夢だ!」
とだけ思い続けてきていたら、そこからどんな選択ができるでしょうか。
合わないと思っても、教師という夢を追い続けるか、それとも自分は夢を叶えられなかったと諦めるか……。
これが、「教師も選択肢の一つ」くらいの気持ちであれば、そこから別の就職活動に向かうことだってできるのだと思います。
一つのことに固執しすぎないこと。
これは人生をより生きやすくするための大事な考え方なのだと思います。
周囲の応援や「頑張って!」には責任がない
『諦める力』の中で、スポーツをやっていると、応援してくれる人、諦めずに頑張れ!と言ってくれる人がいるが、この人たちは、自分の人生になんの責任も負っていないといったことが書かれています。
「すごいこと書いてるなー」
こういう部分が炎上するのかなとも思いましたが、でもこれってそのとおりですよね。
別にこれは応援してくれている人を批判しているわけではなく、あくまで応援は応援であり、選択は自分がするものっていうことですね。
みんなが応援してくれるから続ける、というのもモチベーションを保つための手段ですが、その道を選ぶのは自分。
最終的な自分の人生に責任を持つのは自分だということです。
「親がこう言ったから」
「教師がこう言うから」
「周りがこうだから」
そうした周囲の発言や状況というのは、あくまでそれだけのものであり、その先どうするのかは自分次第です。
そこを勘違いしてしまうと、失敗したときに、不遇感を捨てきれなくなってしまいます。
おわりに
スポーツ選手の書籍はたくさん読んできましたが、この『諦める力』が一番、一般の人向けになっているかなと感じます。
人生とは選択の連続。
何かを諦めるということも、数えきれないくらいあるでしょう。
その都度、少しでも自分にとってよい選択ができることが望ましいですね。
ベストでなくてもベターな選択の積み重ねで、よりよい人生を進んできましょう。