小説家の「5年生存率」という言葉を聞いたことはありますか。
小説家を志す方や、デビューしたばかりの人からすると、なんとも恐ろしい言葉ですよね。
有名な小説家や、小説講座を開設している人たちもこの言葉を使っていて、信憑性は高いです。
実際にデビューした作家が、新人賞からどれくらい本が出せているのかも気になるところです。
ここでは一般文芸の小説家の生存率に言及していきます。
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小説家の「5年生存率」とは?
小説家の「5年生存率」。
言葉のとおり、デビューから5年間たったときに、どれだけの小説家が業界に残っているのかという意味になります。
これには諸説ありますが、全体の5%以下だとされています。
「むちゃくちゃ少ないじゃん!」
って感じますよね。
でもこれって割とリアルな数字な気がします。
プロの作家さんも何人か「5年生存率」について言及してます。
2013年に『このミステリーがすごい!』大賞を『一千兆円の身代金』で受賞した八木圭一さん。
「受賞が決まった時、周りからは作家としての独立を勧められました。ただ、新人がすぐに食べていけるほど、この世界は甘くはありません。年間に200人がデビューし、5年後も生き残るのは5%以下と言われています。特に自分の場合、初挑戦で運が先行したこともあり、一本立ちするタイミングは今ではないと思ったんです。そこで、働きながら、より執筆に時間を充てられるよう、デビュー直前に転職活動を始めました」
(マイナビ転職ホームページより)
200人デビューして5%となると、10人しか残っていないってことなんですよね。
また、中山七里さん、知念実希人さん、葉真中顕さんによる『作家超サバイバル術!』では、中山七里さんが次のように言っています。
業界では「五年生存率」なる恐ろしい言葉が囁かれており、個人的には作家生存率は五%以下、つまり毎年輩出される新人作家たちのうち五年先まで生き残れるのは一人もしくはゼロだと考えている。
(中山七里、知念実希人、葉真中顕『作家超サバイバル術!』より)
中山七里さんは、中央の新人賞が20を超えていることから、毎年20人以上がデビューしているという前提での考えです。
20人の5%といえば1人になりますもんね。
また知念実希人さんは、
小説家を取り巻く状況は限りなく厳しい。せっかく苦労して新人賞をとってデビューしても、五年後にはなんと九割以上が消えている。
(中山七里、知念実希人、葉真中顕『作家超サバイバル術!』より)
と言います。
作家として何年も戦ってこられている先生方の意見なので、実情はそうなのかもしれません。
有名な新人賞だと生存率はもっと上がる
プロの作家がここまで言うのだから、「5年生存率」が5%以下というのは、かなり信憑性が高いものだと思います。
ただ、希望を捨てるのはまだ早い。
実は、新人賞ってすごくたくさんあるんですよ。
『このミス大賞』とか、『小説すばる新人賞』とか、『小説現代長編新人賞』みたいな有名どころだともっと生存率は高いと思います。
やはり、出版社が主催する新人賞だと、その後も活躍する作家さんが多い印象です。
私は『小説すばる新人賞』が好きなので、こちらの受賞作は割と読んで、そのあとも、新作が出るとチェックしています。
この新人賞では、2009年から2017年までの9年間で、W受賞3回を含めて、12名の作家がデビューしています。
この記事を書いている現時点で2023年なので、5年経過した12名を追ってみたのですが、5年以内に次の小説が出なくなったのはたった2名だけでした。
この中には、朝井リョウさん、行成薫さん、渡辺優さん、青羽悠さん、櫛木理宇さんなど、今も第一線で活躍している人がたくさんいます。
2022年の本屋大賞にノミネートされた『ラブカは静かに弓を持つ』を書いた安壇美緒さんも、2017年にこの新人賞からデビューしています。
そう考えると、大賞受賞者って、かなり生存率は高め。
また、大賞以外にもデビューできる新人賞ってそれなりにあります。
『このミス大賞』だと、大賞以外に、文庫グランプリ(以前は優秀賞)や隠し玉がありますね。
『小説現代長編新人賞』でも、大賞と奨励賞という年がけっこうあります。
『このミス大賞』の優秀賞でデビューした佐藤青南さんは、ご自身のYouTubeの中で、大賞と優秀賞とでは、世間の見方も、扱いも違うと言っています。
大賞受賞者は、高額の賞金も出ていますし、出版社としてもなんとか大成させたい。
そのため、サポートも手厚いのかもしれませんね。
もちろん、奨励賞や隠し玉からベストセラーとなった作品もたくさんあるんですよ。
『スマホを落としただけなのに』や『珈琲店タレーランの事件簿』は『このミス大賞』の隠し玉でしたね。
でも、それ以外の優秀賞や隠し玉からデビューした人ってあまり記憶に残っていません。
そもそもなぜ小説家は消えていくのか
小説家が5年でいなくなるのはなぜか。
まあいろんな理由が考えられますよね。
小説家のほとんどは兼業作家です。
小説一本で食べていける専業作家ってかなり少ない。
だから、本業が忙しくなって小説を執筆する余裕がないなんてこともあります。
割とご高齢で受賞される人もいますし、病気などの体調面が理由で書くのを止める人もいると思います。
デビュー作で全部出し切って、二作目が書けない!という人もかなりいるみたいですね。
小説家で、小説講座も開設している鈴木輝一郎さんは、YouTubeの中で、デビューした人の多くが二作目を出すことなく消えていくと話していました。
そして、やっぱり一番多いのは、出した小説がなかなか売れないからでしょう。
出版社も慈善事業ではなく商売です。
売れない作家にいつまでも書かせ続けるわけにはいかない。
だから、デビュー作でそれなりに売れた人は、長く残れる可能性が出てくるけど、二作目、三作目でも売れないと、担当編集者から声をかけてもらえなくなっていくようです。
それでも夢がある小説家という仕事
ここまで書いてきたように、小説家の世界はなかなかに厳しい。
書いても大して売れないし、どんどん同じ時期にデビューした仲間も消えていく。
それでも、小説家ってすごく夢のある仕事だと思います。
自分の書いたことで多くの人に感動や勇気を与えることもできます。
ちょっとしたきっかけで、自分の小説が話題になって映画化やドラマ化されるかもしれません。
人生一発逆転!ではないですが、読む人にも作家自身にも夢を見せてくれるのではないかなと思います。
もちろん、書くことは苦しい。
でもそれを補って余りあるものがそこにあると思います。