「自分だったらどうするか」
そういう風に考えさせられる小説ってたくさんありますよね。
この本もそうした一つ。
自分が真っ直ぐに生きられるのか、それとも悪いと思いつつ、空気に流されるのか。
今回読んだのは、住野よるさんの『よるのばけもの』です!
主人公の安達は、夜になると、黒いばけものに姿になります。
そんなある日、クラスでいじめられている矢野と、夜の学校で出くわしたところから物語が始まります。
いじめとか、同調圧力とか、仲間意識とか、読んでいて少し苦しい気持ちになる小説です。
ここでは、『よるのばけもの』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『よるのばけもの』のあらすじ
主人公・安達は、いつからか夜になると8つ目があり、6つ足、4つの尾があるばけものに変身してしまうようになった。
ばけものになるようになってからは、夜寝る必要がなくなった。
通常では考えられないスピードで移動することもできる。
最初は、人を驚かせたりして楽しんでいたが、すぐに飽きて、海へ行ったり、観光地へ行ったりして過ごしていた。
ある夜、安達はばけものの姿で学校に忍び込む。
数学の宿題を忘れたからだ。
シッポをうまくつかって、プリントを取って、帰ろうとしたとき、
「なにしてんの?」
という声が聞こえる。
それはクラスメイトの矢野さつきであった。
自分のロッカーを触っていたことから、ばけものの姿をしているのが安達である、ということがばれてしまう。
矢野は、いわゆういじめの被害者だった。
空気を読めず、声が無駄に大きく、独特のしゃべり方。
もともと鬱陶しがられていたが、ある日、クラスメイトに対して矢野が行った行為によって、矢野は明確にいじめの対象となった。
安達は、積極的に矢野になにかをするわけではなかったが、矢野のことはいないものとして無視をして過ごしていた。
いまのクラスにとって、そうした行為が正しいものであったから。
夜の学校での安達との邂逅をきっかけに、安達と矢野の関係も少しずつ変化していく。
いじめは正しくないけども
『よるのばけもの』は、住野よるさんの三作品目になります。
『君の膵臓を食べたい』はかなり衝撃的で泣かされ、『また、同じ夢を見ていた』では、人生ってものを考えさせられました。
そして、この『よるのばけもの』は、どうにも苦しいところが多かった。
いじめって、言い方は悪いですが、どこかしこに大なり小なりあるものなんですよね。
ここに描かれているのはその中でもひどいほうだと思いますが、それでも、構図としては大きな差はない。
直接的な行為をする人、それをあおる人、消極的にでも参加する人。
実際にいじめに正当性なんてない。
それでも、安達のような、クラスの空気から弾かれないように振る舞うしか選択肢がないと考えている人からすると、それを否定はできない。
矢野がいじめられているのは、彼女に問題があるから。
あれは自業自得なんだ。
そう考えないと、自分は間違っていないと言い聞かせないといけなかった。
自分を偽りながら生きていかなければいけなかった。
だから、安達にとって、学校も、休み時間も、息が詰まりそうなものだったんですね。
だからといって、そこを打ち破って、自分の思うように生きることは至難の業。
同調圧力の怖さ
同調圧力ってやっぱりあるんですよね。
みんながこう考えているんだから自分も、同じように考えないといけない。
みんなと違った行動をして一人だけ外れることはできない。
そうでないと、次は自分が外れた人間だと認識されてしまうから。
よく考えてみると、学校にしたって、社会人になってからの職場にしたって、同調圧力ってどこにでもありました。
いまの職場だって、仕事は好きですが、どこか、「こうするのが無難」という雰囲気はあるんですね。
そことずれている人って、陰で悪口を言われたりするし、邪険に扱われたりする。
その限られた世界を保っていくには、同調圧力によって、ある程度方向性があったほうが楽ではあるんだと思います。
その流れに身を任せて、疑問を持たなくなればそれほど楽なことはない。
でも、人間はそうは生きられないからどこかで歪みが生じていくのかな。
それが、『よるのばけもの』を生み出していたのかもしれません。
おわりに
なかなかに考えさせられる一冊ではありました。
決して楽しい話でもなかったし、すっきりした気持ちになるわけでもない。
いろいろとぼんやりとさせたままで、実際のところが気になることも残ったまま。
それでも、自分の考えというか、生き方や信念のようなものに触れてくる作品でした。
住野よるさんの作品はまだこれで読んだのも四作品かな。
そんなにまだ冊数を出していない作家さんなのでこの勢いで全巻読了目指していきます。