過去に戻れたら……。
割とこれって誰しもが一度は思うことではないでしょうか。
でも、過去に戻っても劇的な変化が起きないのもよくあること。
今回読んだのは、鯨井あめさんの『アイアムマイヒーロー!』です!
デビュー作の『晴れ、時々くらげを呼ぶ』も好きでしたが、二作目となる本作も良かったです。
いわゆるタイムリープものですね。
主人公は、12歳の頃に存在しなかったカズヤとして、過去にはなかったはずの動物虐殺事件と不審者目撃情報を追っていきます。
ここでは、『アイアムマイヒーロー!』のあらすじや感想を紹介していきます。
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『アイアムマイヒーロー!』のあらすじ
自分に何の期待もできず、自堕落な生活を送る大学生の敷石和也(たかなり)。
過去を捨て去って、奇跡が起きて、新しい自分になることをなんとなく願うも、変わらない日々にうんざりとしている。
ある日、地元の同窓会へと参加することになった。
しかし、友人たちとの違いを認識し、その場から逃げ出すように退席してしまう。
帰るために駅へと向かうと同じホームで一人の女性が電車を待っていた。
体調が悪そうにふらついていた女性は、そのままホームの下へと落ちてしまう。
どうすればいいのかと葛藤する和也だったが、なにもできないまま電車がやってきてしまう。
意識が遠のいていき、気がつくと、和也は、全く知らない子どもの姿となって目覚めていた。
なにが起きたかわからない和也のもとに、12歳だった自分(タカナリ)が現れ、こちらのことを「カズヤ」と呼ぶ。
10年前には存在しなかったカズヤとして、タイムスリップしてしまったのだった。
なぜ自分がタイムスリップしたのかわからない和也だったが、過去の自分や友人たちと、過去にはなかったはずの動物虐待事件や、不審者目撃情報の謎を追う。
タイムリープは憧れる!
過去に戻るというタイムリープものってやっぱり憧れるものです。
自分だったらいつの時代に戻りたいなーなんてことを考えてしまいます。
そうですね、今の記憶を残したまま中学校くらいに戻れたら最高ですね。
そしたら部活を頑張る!あと英語!
さて、タイムリープと言えば有名な小説がけっこうありますよね。
私が好きなものだと、米澤穂信さんの『ボトルネック』。
主人公が過去に戻ったら、本来はいるはずのない姉が自分の代わりに存在する世界。
全体的に暗い印象で、ラストも「うわあー」って感じですがかなり好き。
重松清さんの『流星ワゴン』も有名ですね。
過去を旅するワゴン車に乗って、いろんなことを考えていきます。
あとは、筒井康隆さんの『時をかける少女』もありますね。
そんな風に、いろんな人が書いているタイムリープ。
『アイアムマイヒーロー!』では、10年前、12歳のころに戻るという。
未来を変えたい和也からすると願ったり叶ったりです。
タイムリープって夢があります。
友人とそういう話をするだけでもけっこうおもしろいし、自分がどの時代のどのあたりをネックに感じているのかなってのに気づけますよね。
実際に過去に戻ることなんてできないのはわかっていても、そういう妄想も重要だなってときがあります。
いや、本当に戻ってみたいし、戻ったらいまどんな人生になっているのかを見てみたい。
自分を変えるというのは大変なこと
でも、たとえタイムリープをすることができたとしても、自分を変えるってすごく大変なことです。
「あのときこうすればよかった!」
なんて思っても、実際にその場所に戻ったら、同じような行動しかとれないのが人間なんですね。
よく、ダイエットをしようと思っても、断念してまた決意してを繰り返している人。
はい、私のことです。
ダイエットをやる気になっているときは、「今度こそ―!」って思って頑張るけど、しばらくすると忘れてしまう。
そしてまた、「あのとき……」ってなるわけです。
よほどのことがないと人間の性質って変わらないんですよ。
そういう意味でも、タイムリープものって、主人公が劇的に変わって、人生がむっちゃ変わった!っていう小説は少ないのかな。
みんないろんな気づきとか、変わらなきゃって思いは描くけど、実際にそれで人生がどうなったのかははっきりさせていないものが多い。
『ボトルネック』なんか、これから頑張ろうって思った矢先に現実を突きつけられるみたいなところがあってけっこう苦しかったし。
今回読んだ『アイアムマイヒーロー!』も、きっと、心のどこかは変わってきているんだと思う。
でも、現実自体はまだなにも変わっていない。
そこを変えていくだけの気持ちを持てるのかって、やっぱり難しいんですよね。
ただ、読者としては、この先が明るいものになるといいなって思いたいし、ここまで変わろうって思えた気持ちを信じたいとも思う。
おわりに
やっぱ、タイトルがけっこう好きでした。
私は私のヒーローなんですね。
自分を救って立ち上がらせてくれるのって自分なんだって。
誰かにすがっているだけじゃ変わらないんだって気持ちにさせてくれます。
偶然とか奇跡とか、そんなものに頼るんじゃなくて、目の前の自分の足で一歩ずつ進んでいくしかないんだって。
鯨井あめさんの二作目もよかったです。