小説には、どう考えたって世間的に見ると悪い役柄なのに人気のある登場人物っていますよね。
この小説の主人公も、やっていることは常軌を逸しているのにとても人気があります。
今回読んだのは、貴志祐介さんの『悪の教典』です!
映像化もされた人気作です。
生徒からも同僚からも信頼の厚い蓮実聖司は、実は共感能力の欠ける教師で、不要なものは容赦なく排除するサイコキラーだった。
こんな学校に絶対通いたくないって思います。
他の教師も個性的でおもしろいけど、自分の通う学校にはいてほしくないですね。
ちなみに職場の後輩は、「はすみんのファンです!」と明言していました。
ここでは、『悪の教典』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『悪の教典』のあらすじ
蓮実聖司は私立晨光学院町田高校の2年4組の担任を勤める英語教師。
この学校には生徒にセクハラを働く教師、実際に恋愛関係となる教師、行き過ぎた暴力を伴う指導をする教師と困った教師がたくさんいる。
生徒も生徒で、集団カンニングや学校裏サイトにいじめと問題が山積。
蓮実は、これらの問題を見事な指導力と戦略で解決に導いていく。
一見すると、授業がおもしろく、調整能力も高く、教育に対しても熱心な教師である。
そのため、生徒や保護者に好かれる人気者で、ほかの教師からも頼られる存在であった。
だが、その正体は他者への共感能力を一切持たない、生まれながらのサイコキラーだった。
彼が周囲に見せている姿は、すべて計算されたものであった。
自分に疑いをかけてきた一部の生徒や教師をはじめ、邪魔だと感じた者を秘密裏に殺害したり学校から追放していく。
蓮実は自分の王国を創り上げようとしていた。
しかし、2年4組の生徒たちが文化祭準備のために学校に泊り込んだ夜、蓮実はミスを犯してしまった。
そのため、蓮実が行った殺人が隠蔽不可能な状況へと追い込まれてしまう。
どうにもならない状況の中で蓮実は一つの決断を下す。
それは、校内にいる生徒全員の口を塞ぐこと。
そして、その犯行を同僚教師の仕業に見せかけるということ。
すぐさま行動を開始する蓮実。
散弾銃を手に、一人一人と自らの教え子たちを手にかけていく。
蓮見聖司という人物
『悪の教典』の主人公である蓮実聖司。
もうこの人物がすごく悪いやつ。
でも人気があるから不思議です。
年齢は32歳で容姿端麗で知識も豊富。
英語科兼生活指導部を担当しています。
文系クラスである二年四組の学級担任と、ESS(英会話部)の顧問も務めていて、女子生徒による親衛隊が出来るほどの絶大な人気を誇っていました。
授業の風景の描写も多く、常にテンション高く、生徒からの評価も上々。
生徒の回答に対して、英語を使い分けてほめるところもおもしろいですね。
正解なら「Good!」、さらに良ければ「Great!」、秀逸な答えならば「Excellent!」、心底感動するほど素晴らしい場合は「Magnificent!」。
これが英語の授業だけでなくて、蓮実が真相に近づいた生徒に対して使う場面は結構怖い。
格闘技もブレイクダンスも習得していて、心理学についての造詣も深い。
能力だけみたらものすごい優秀な人物です。
ただ、生まれながらに他者への共感能力に欠けたサイコパス(反社会性人格障害)という問題を抱えています。
自分にとっての邪魔者は躊躇せずに排除していくサイコキラー。
原作の時点ですでに過去に何人も人知れず殺害しています。
『悪の教典』に出てくる内容だけでも、蓮実の本性を知った両親を強盗の仕業に見せかけて殺害していますし、アメリカへ留学した先でも、同じようにサイコキラーな男性と一緒になって事件を起こしています。
前任校でも少なくとも四人の生徒を自殺に見せかけて殺していることもわかります。
その殺害方法も多様で、同じ死に方をさせることで、同一犯と思われるため、できるだけ異なったシチュエーションを選択しているという描写もありました。
よく使うのは、ビニール袋に砂を入れて作ったブラックジャックという武器。
また、けっこう気になるのが蓮実の口笛ですね。
上機嫌になると『三文オペラ』の劇中歌「モリタート(殺人物語大道歌)」を知らず知らずに吹いています。
この歌詞の日本語訳もなかなかのもので、蓮実の異常性が感じられるものになっています。
美彌との場面がけっこうぐっとなる。
安原美彌は、『悪の教典』の中でもけっこうかわいそうな役どころです。
同級生や教師の間にも隠れファンがいるほどに美少女で人気の高い美彌。
性の対象と見られることも多く、教師の柴原からは、万引きをしたことをネタにセクハラを受け、肉体関係も迫られます。
結局、そこを助けた蓮実に想いを寄せるようになり、蓮実にいいように扱われてしまいます。
たぶん、美彌は純粋に蓮実のことが好きだったんでしょうね。
一方で蓮実は、美彌のことをペットのように扱っており、美彌が猫を飼うようになると、その猫を「ペットのペット」なんて言い方をしたりしていました。
そんな中、文化祭準備の日、蓮実の犯行に気づいた美彌を蓮実が手をかけることになります。
でも、蓮実自身も不思議なことに、これまで両親であれ、どんな人物でも躊躇せずに消去していた蓮実なのに、美彌に対しては身体が思うように動かない。
最終的には自殺に見せかけて殺害を試みますが、初めて見せる蓮実の他人に対する執着なのか、情なのか、そんな感情が見え隠れする場面でした。
そして、美彌への犯行以降は、教え子たちに対して、一切躊躇なく、攻撃を加えていく。
この場面が、蓮実にとって唯一で最後の引き返すことのできるところだったのかなと感じました。
おわりに
貴志祐介さんの作品は全般的に暗いイメージがつきまといます。
人気のある『悪の教典』でさえやはり最後はちょっと怖い未来を想像させます。
コミック版だとその先も少しあるみたいですね。
上下巻で、ボリュームはかなりありますが、それを感じさせないくらいに先に進んでいくおもしろさ。
長期休みなんかがあれば挑戦してみるのもいいかなと思います。