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罪と報いと隠された真実。貴志祐介『梅雨物語』

短歌とか俳句って、あの短い言葉の中に様々な意味が込められています。

それを読み解くのって、それなりに学んだ人じゃないと難しいんだろうなと。

今回読んだのは、貴志祐介さんの『梅雨物語』です!

読み方は「ばいうものがたり」ですね。

暗い雰囲気をまとった3つの短編集が載せられています。

サイズ的には短編ではなく、中編になるのかな。

最初に出てくる「皐月闇」では、がっつり俳句の解釈が出てきて勉強にもなりますね。

二編目の「ぼくとう奇譚」も当時の姿や遊郭のあり様など、知識がないと書けない作品でした。

どうやって学んでいるんでしょうね。

ここでは、『梅雨物語』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『梅雨物語』のあらすじ

〇皐月闇

〇ぼくとう奇譚

〇くさびら

「皐月闇」

元中学教師で俳句部の顧問を務めていた作田のもとに、かつての教え子・萩原菜央が訪ねてくる。

菜央は作田が特別に目をかけていた生徒の一人だった。

話を聞くと、双子の兄の龍太郎が、自費出版した俳句集を残して自殺したのだという。

菜央の母親もまた、俳句の世界では有名な人で、その母親はその俳句集をすべて処分するように言っている。

だが、菜央は、兄の残した俳句の意味を知りたくて、作田に解釈を頼みに来たのだった。

教え子の頼みに、俳句を読んでみる作田だったが、すぐに違和感を持つ。

ありきたりな俳句なのに、この先に不吉なものを感じさせるのだった。

やがて俳句に込められた真相が明らかになっていく。

罪を犯したものに報いを

『梅雨物語』の三編はいずれも罪を犯した人と、それに対する報いが描かれています。

自分の犯した罪からは誰も逃れられない。

自分自身が忘れていたって、被害者やその周りの人は絶対にそのことを忘れないものです。

因果応報とか、罪障必罰なんて言葉もありますけど、自分のしたことは巡り巡ってどこかで自分に返ってくるんですね。

『梅雨物語』の三作のうち、「皐月闇」と「ぼくとう奇譚」は、被害者側の執念のようなものがあります。

絶対に加害者を許さないという強い気持ち。

その人もまた、加害者によって人生を狂わされた一人なのだろうなと感じます。

増殖する恐怖が見事

「くさびら」は他の二作品と少し趣が違いますが、これもまた見事な作品でした。

主人公は杉平という男性で、妻とけんかをしてから、妻と子どもが家を出ていき、二週間が経っても帰ってこないという状況から始まります。

杉平がふと庭を見ると、きのこのようなものが生えています。

気にはなっていたけど、そのままにしていてたら、きのこがあっという間に増殖して、庭中がきのこだらけに。

でも、そのきのこは、杉平には見えるけれど、触ることができず、いとこである精神科医の鶴田には見ることができない。

そのきのこは、次第に庭だけでなく、家の中にも現れ、杉平が飲もうとしたウイスキーの瓶からも生えてくるようになります。

色とりどりのきのこに囲まれた生活ってそれだけで恐ろしいですよね。

更にそのきのこがどんどんその数を増やしていって、家を埋め尽くしていく。

なぜそうなってしまったのかもわからず、この先どうなるのかも予想がつかず、でも不穏な雰囲気はあってだんだんと怖くなっていきます。

「皐月闇」もそうでしたが、ちょっとした違和感が、だんだんと膨らんでいって、暗い世界に引き込まれる感じが本当に見事で、とてもハッピーエンドにはなりそうにないのに、ページをめくる手が止められません。

貴志祐介さんの知識の広さよ

『梅雨物語』を読んでいて思うのは、貴志祐介さんの知識の広さです。

「皐月闇」では、二人の登場人物が俳句の解釈を行います。

俳句といえば、季語が必要なことくらいは知っていますが、それ以上の細かい決まり事って知らない人の方が多いんじゃないかなって思います。

あえて本来の形からずらした俳句を作ったり、意図して違和感を覚える部分を作ったりするのって、それ相応の知識がないと不可能です。

「ぼくとう奇譚」では、昭和の時代と遊郭についてを。

「くさびら」では、とにかくたくさんのきのこが出てきます。

どの作品を読んでも、私の知らない話がどんどん出てくるので、貴志祐介さんはどれだけの知識を持っているのだろうかと驚かされます。

似たようなストーリー展開の小説があったとしても、こうした深い知識があるかないかで、物語の深みが変わってくるのだろうなって思います。

おわりに

『梅雨物語』は全体的に暗めな話。

それでも読んでいて驚きと、新鮮さと、おもしろさが詰め込まれています。

貴志祐介さんって、割と暗い話が多いですよね。

『青の炎』もそうでしたし、『クリムゾンの迷宮』や、『悪の教典』なんかもそんな気がします。

まだ未読ですが、『新世界より』も友人曰く、「元気なときに読んだ方がいい」とのこと。

それでもやっぱり読みたくなるのは、それだけ魅力的なさくひんばかりだからだなっと思います。