絶対外れることのない人の死が予言されるとしたら。
非現実的なことですが、実際にそんなことがあれば、怖いし、近づきたくないと感じます。
自身がその状況に巻き込まれたら、意味の分からない恐怖にさいなまされそうです。
今回読んだのは、今村昌弘さんの『魔眼の匣の殺人』です!
2017年に『屍人荘の殺人』で鮎川哲也賞を受賞してデビューした今村昌弘。
これがもうミステリーの賞をいくつも取り、売れまくりましたね。
デビュー作とは思えない人気ぶりで驚きました。
『魔眼の匣の殺人』は、その『屍人荘の殺人』の続編にあたります。
コメディタッチな部分とシリアスな部分がうまく混じり合っていておもしろいです。
ここでは、『魔眼の匣の殺人』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『魔眼の匣の殺人』のあらすじ
明智恭介から神紅大学ミステリ愛好会の会長を継いだ葉村譲。
例の事件以降は、剣崎比留子とともに大学生活を送りながら、班目機関に繋がる手がかりを探していた。
ある日、『月刊アトランティス』というオカルトを取り扱う胡散臭い雑誌に、班目機関に関係がありそうな記事が掲載される。
そこには、これまでいくつもの予言を言い当てたという記事があり、その予言の中には、葉村や比留子が巻き込まれた娑可安湖集団感染テロ事件も取り上げられていた。
M機関の実験施設という文言が記されていたことから、葉村と比留子はその場所をを調べることにした。
その日、葉村と比留子を含む九人が、人里離れた班目機関の元研究施設“魔眼の匣”を訪れた。
葉村と比留子以外にも、『月刊アトランティス』の記事を見てやってきた高校生の男女、『月刊アトランティス』の記者、村の元住人、ガス欠等で住民に援助を求めた男性。
理由は様々であったが、封鎖されていた場所に引き寄せられるように人が集まってきた。
そこには、サキミ様と呼ばれる予言者がおり、「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」という予言をもたらしていた。
予言に対する意見はそれぞれであったが、突如、施設と外界を結ぶ唯一の橋が燃え落ちる。
さらに、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。
それと同時に、魔眼の匣に置かれていた4つの人形が、予言の成就を示すように1つ姿を消していた。
これまで外れたことがないというサキミの予言。
次の犠牲者は出るのか。
葉村と比留子は、予言が支配する世界の中で、事件の真相を究明しようとする。
今作もクローズドサークル!
いやー二作目もおもしろかった!
じゃっかん、前半が重めで読むのに時間がかかりましたが、ラストに向かっての怒涛の展開と伏線回収がよかったですね。
『屍人荘の殺人』と同じく、『魔眼の匣の殺人』もクローズドサークルで起きる殺人事件です。
『屍人荘の殺人』では、とあるペンションに泊まっていた葉村たちが孤立します。
近くのフェス会場で起きた集団感染テロ事件によって、大量のゾンビが発生し、ペンションを囲まれ、出ることができなくなるんですね。
あれは斬新な発想で驚かされました。
『魔眼の匣の殺人』では、人里離れた奥地で、周辺の森は熊も出る危険地帯。
唯一の経路である橋を何者かに燃やされてしまう。
クローズドサークルをどうやって作るのかって、ミステリーを作る上では重要だと思うんですけど、本作は、一貫して予言が随所に登場します。
この橋を燃やされたのさえ予言が影響しているんですね。
クローズドサークルっていうと、孤島だったり、吹雪の中の山荘なんかがぱっと頭に浮かびます。
今村昌弘さんの作品は、よくあるミステリー風な展開を見せつつ、クローズドサークルの作り方もそうだし、そこから飛び出た発想があって楽しく読めます。
予言に翻弄される人たち
予言とか予知能力って聞くと、
「ちょっとうさんくさい」
というのが正直なところです。
ただ、それが何度も的中していくのを目の当たりにしている人たちからすると、予言に対しての畏怖の念って起こるものです。
科学がこれだけ発展した現代でも、宗教に入る人がいるのってそういった部分もありますよね。
宗教に入った途端、これまで悩んでいたことが解消されたとか、体調不良が改善したとか。
非科学的で、信じがたいことでも、目の前に実証があると、それを信じるようになるのが人間です。
『魔眼の匣の殺人』は、人のそうした性質をうまく利用した小説でした。
長年に渡って、村で予言を繰り返し、すべて的中させてきたサキミ様。
それは、単に予言ってことではなく、村人からするとこれから起きる確定事項になっているんですね。
だから、ここで、いつ、男女二人ずつが死ぬのだと聞かされると、そこから遠ざかろうとする。
予言があることによって、行動を制御されることにもなります。
一人目が死んだ段階で、魔眼の匣に集まった人たちの頭の中にも、予言がよぎります。
この中から、あと三人が死ぬのだと。
そのことが、通常では助けが来るまで待つだけでよかったものを、疑心暗鬼に陥らせ、互いに敵対する関係にもなってしまう。
人間心理の恐ろしさもまた見せられました。
散りばめられた伏線
それにしても、『魔眼の匣の殺人』は伏線が多かった。
読者をミスリードさせようとする部分もあったり、なかなか気を抜いて読めなかったです。
読みつつも、
「これがあとでつながりそう」
なんて考えるのもミステリーの醍醐味ではあるのでいいんですけどね。
それにしては、これはもしかしたら、ってところが多くて。
ラストはしっかりそのあたりを回収しているので、かなり練り込んで作られたんだなって気はしました。
プロットもきっとかなりきっちり作ってますよね。
そうじゃないと、ぐちゃぐちゃになってしまいそうですもん。
ただ、あまり好きでなかったのが一点。
文字の横に・が打たれている箇所が多くて。
・があると、読者はそこに意識を吸い寄せられてしまうものなんですが、強調するために打たれる・が多すぎると食傷気味になってしまうなって感じました。
きっと、今村昌弘さん的には必要だから入れてあるのでしょうが、個人的にはないほうがすっと読めてよかったなって思いました。
おわりに
このシリーズってまだまだたくさん出てきそうですよね。
班目機関の全容がまったく解明されていないし、比留子がどうやってこれから対決していくのかもさっぱり見えていない。
すでに三作目の『兇人邸の殺人』が2021年に発売されていますが、さてこれからどこまで展開していくのか楽しみです。
もし、『屍人荘の殺人』を読んでいない人はまずそこから読むのがいいと思います。