太宰治

【5分でわかる】未完の大作・太宰治『グッド・バイ』のあらすじと感想。

完成することなく著者がなくなってしまった作品。

きっと誰もがその結末が気になってしかたがないことだと思います。

今回紹介するのは、太宰治の『グッド・バイ』です!

未完であるため、とても中途半端なところで小説は終わっています。

でも、それでもこれはおもしろいなと感じます。

だからこそすごく続きが気になる!

Contents

『グッド・バイ』のあらすじ

『グッド・バイ』は、1948年(昭和23年)3月初め、朝日新聞東京本社の学芸部長末常卓郎が太宰治に連載小説の依頼をしたことによります。

第1回目の連載は1948年6月21日。

太宰治は、1948年6月13日に亡くなるが、それまでに第10回までの原稿を朝日新聞社に渡しており、残りの第11回分から第13回分までの原稿が残されていました。

変心(一)(二)

行進(一)(二)(三)(四)(五)

怪力(一)(二)(三)(四)

コールド・ウォー(一)(二)

『グッド・バイ』には上記の13回分が収録されていましたが、読むとまだ序盤で原稿が途切れていることがわかります。

「変心」

雑誌「オベリスク」編集長をしている田島周二34歳。

この男、雑誌の編集は世間への体裁上行っている表の仕事であり、実際は闇商売を手伝ってしこたま稼いでいるのであった。

そうやって稼いだものだから、酒はしこたま飲み、愛人も十人近く養っているという。

そんな田島であったが、この男にも妻と子どもがいる。

先妻を肺炎で亡くしたあと、白痴の娘と埼玉県の友人の家に疎開をしていたが、そこで知り合ったのが今の妻である。

今は後妻と娘は後妻の実家に預け、単身東京で仕事をしていた。

終戦から3年がたち、田島の心にも変化が出てきた。

もう闇商売から足を洗い、編集の仕事に専念し、小さな一軒家を購入して、田舎から妻と娘を呼び寄せよう。

そんなことを考える田島だがそこには問題がある。

それは、愛人たちと上手に別れなければいけないということであった。

自分一人ではどうにもならぬ、と泣きべそをかく田島であったが、田島と仲のよい初老の文士に相談したところ、こんな提案をされる。

「すごい美人を、どこからか見つけて来てね、そのひとに事情を話し、お前の女房という形になってもらって、それを連れて、お前のその女たち一人々々を歴訪する。効果てきめん。女たちは、皆だまって引下る。どうだ、やってみないか」

(太宰治『グッド・バイ』「変心(二)」より)

「行進」

溺れる者は藁をもつかむ。

田島はやってみる気になったが、ここにも難問があった。

すごい美人、という女は、伝説以外に存在しているものかどうか疑わしいのである。

ダンスホール、喫茶店、待合、試験場と様々なところを探し歩いてみるが、田島の眼鏡にかなう女性がいっこうに見つからない。

田島が、絶望しかけて夕暮れの新宿駅裏の闇市を憂鬱な顔をして歩いていると、背後から、「田島さん」と声をかけられる。

ひどく悪い鴉声に記憶があり、闇商売のかつぎ屋をしている怪力の女性・キヌ子であると気づく。

仕事のときは、いつも魚臭くてどろどろのものを着て、モンペにゴム長、男だか女だかわからない乞食のような恰好をしていた。

それがまったく異なる姿を見せていた。

「とんでもないシンデレラ姫。洋装の好みも高雅。からだが、ほっそりして、手足が可憐に小さく、二十三、四、いや、五、六、顔は愁いを含んで、梨の花の如く幽かに青く、まさしく高貴、すごい美人、これがあの十貫を楽に背負うかつぎ屋とは」

(太宰治『グッド・バイ』「行進(一)」より)

これは使える、と考えた田島は、彼女にことのあらましを話し、引き受けてもらえないかと頼むのであった。

キヌ子は、仕事を休んだ分や食事の支払いと引き換えに依頼を受けることにした。

 

数日後、二人は日本橋のデパート内にある美容室へと向かう。

そこには青木さんという未亡人がおり、田島が生活の補助をしていた女性の一人であった。

キヌ子を連れて、「きょうは女房を連れてきました」とあいさつ。

それで勝敗は明らかだったようで、青木は目に涙をためていた。

田島は、青木にキヌ子の髪をお願いし席を外す。

セットが終わったころに美容室へと入り、紙幣の束を美容師の上着のポケットに滑り込ませて「グッド・バイ」とささやき、外へと飛び出すのであった。

「怪力」

田島はいつも、財布は女性に預けて行動をしていた。

このときもキヌ子に渡していたが、どの女性も勝手に田島のお金を使うことはないのに、キヌ子は遠慮をせずに次々散財をする。

田島も元々闇商売をするような男なので、散々無駄遣いをされて黙っているわけにはいかない。

田島は、キヌ子を自分のものにして、従順にしたあと、「グッド・バイ」の行進を続けようと考える。

「勝負の秘訣。敵をして近づかしむべからず、敵に近づくべし。」

(太宰治『グッド・バイ』「怪力(一)」より)

とウイスキーとピーナッツを持ってキヌ子の住むアパートへと向かった。

アパートのドアを開けると、そこは乱雑で悪臭のする四畳半の部屋。

畳の表は黒く光り、部屋いっぱいにかつぎ屋の商売道具が足の踏み場もないくらいに散らばっていた。

キヌ子もまた、どろどろに汚れたモンペ姿。

部屋には上げてもらえたものの、さっそく高額でつまみのカラスミを売りつけられてしまう。

カラスミをつまみにウイスキーを飲みながら様子を見るが、どうにもうまくいかない。

田島は酔ったふりをしてその場に寝てしまおうとするが、キヌ子に見透かされて失敗をする。

帰らせようとするキヌ子に、最後の卑劣な手段として、立っていきなりキヌ子に抱き着こうとするが、十貫を楽々とかつぐキヌ子の怪力をもって、頬を殴られ逃げ出してしまう。

「コールド・ウォー」

こんなことがあった田島であったが、キヌ子に投じた資本が惜しく、彼女を利用してもとを取りたいと考える。

4,5日がたち、殴られた頬の腫れも引いてから、キヌ子のアパートに電話をかける。

田島は、再度、愛人たちと別れて、小さな一軒家を買い、妻子を呼び戻したい、協力をしてほしいと頼む。

キヌ子は、1日5000円の報酬で了承をする。

 

次に向かう愛人は、水原ケイ子といい、田園調布のアパートに住むあまり上手でない洋画家であった。

物腰柔らかく、無口で、ひどい泣き虫の女であった。

しかし、童女のような可憐な泣き方なので田島はまんざらでもなかった。

そのケイ子のたった一つの難点が彼女の兄であった。

小さいころから乱暴者で、永く満州で軍隊生活をし、頑丈な大男。

その兄が、最近、けいこの居間に居座っているらしい。

その兄と顔をあわせるのが嫌な田島は、電話でケイ子を引っ張り出そうとするがうまくいかない。

しかし、兄を怖がって別離をためらうのもケイ子に失礼だ、とアパートへ向かうこととする。

(未完)

『グッド・バイ』のオマージュ作品

私がこの『グッド・バイ』を読むきっかけとなったのは、伊坂幸太郎さんの『バイバイ、ブラックバード』でした。

太宰治の『グッド・バイ』のオマージュ作品だと聞いたので、それなら元の小説も読まなければと思い手に取りました。

『バイバイ、ブラックバード』は、『グッド・バイ』の複数の女生と付き合っていた男が、個人的な事情により、別の女性を連れて別れを告げてまわるという部分をなぞり、まったく別物として執筆された小説です。

元々は、太宰治の『グッド・バイ』を完成させてみないかと声をかけられたようですが、自分なりの形にならということで『バイバイ、ブラックバード』が生まれたようです。

それ以外にも、『グッド・バイ』は舞台や映画にもなっています。

これらはオマージュとして、『グッド・バイ』の未完の先を整えています。

どういう終わり方を太宰治がするつもりだったのかはわかりませんが、こうした作品から自分の想像を膨らますのもいいかと思います。

ドラマでも、『グッド・バイ』のオマージュとして、2018年に放映されていました。

キヌ子という魅力的な女性

『グッド・バイ』はその物語のおもしろさもありますが、田島とキヌ子のかけあいがまたいいですよね。

このキヌ子という存在感のある魅力的な女性がまたよい。

あらすじのところで紹介したような絶世の美女。

高雅とか高貴なんて言葉をなかなか使える相手っていませんよね。

でも、見た目はそんなに素晴らしいのに、口を開けば鴉声。

声が悪いだけでなく口もたいそう悪い。

お別れをいいに行った田島の愛人に髪をセットしてもらったのに、大した腕ではないと別れを告げたばかりの田島に悪びれもせずにいうシーンもあります。

その上たいそうな怪力で、十貫の荷物を軽々持つ。

十貫といえば、一貫が3.75kgなので37.5kg。

これは男性でも軽々とはいかないですよね。

さらにとんでもなく食べまくる。

最初の田島とキヌ子の食事のシーンでも、

「トンカツ。鶏のコロッケ。マグロの刺身。イカの刺身。志那そば。ウナギ。よせなべ。牛の串焼。にぎりずし盛合せ。海老サラダ。いちごミルク。キントン。」

(太宰治『グッド・バイ』「行進(三)」より)

と、これだけたくさんの品をキヌ子一人でたいらげます。

もちろん支払いはすべて田島。

完璧ではなく、こういう女性だからこそ、『グッド・バイ』をさらに魅力的にしているのでしょう。

『グッド・バイ』の結末は

結末がわからぬままでもやもやするものの、『グッド・バイ』はいい作品だと思います。

一応の物語のおさまり方としては、

「彼が描こうとしたものは逆のドン・ファンであつた。十人ほどの女にほれられているみめ麗しき男。これが次々と女に別れて行くのである。グッド・バイ、グッド・バイと。そして最後にはあわれグッド・バイしようなど、露思わなかつた自分の女房に、逆にグッド・バイされてしまうのだ」

( フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)

とWikipediaでは、『太宰治全集9巻』の中にそのように書かれているとあります。

これだけ見ると、田島とキヌ子の行進はこのあとも続き、最後の最後に田島が奥さんに捨てられてしまうみたいですね。

そのあらすじだけはわかっても、どう展開してそうなるのか読んでみたかった。

伊坂幸太郎さんみたいなオマージュでもいいので、小説家の人たちが、自分だったらという『グッド・バイ』の結末を考えたらすごく楽しいだろうなと思います。